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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第四章 家族の温もりを知る
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第二話 言葉にできない感情

「見てお兄ちゃん! あのビル雲より高い!!」

「とても高いビルですね」

「まるでポセイ様の――」

「ゼピュロス、お止めなさい」


 ネプチューンが高さ5キロメートル以上ある高層ビルを指差し、ポセイドンが受け答えた。後、ゼピュロスが下ネタを言いかけるが、小さな妹の前で言わせまいと瞬時に注意した。


「ここが水無月みなづき市ですか? 文月市よりも都会してますね」

「あぁ、県庁所在地よりも、尚且つ東京よりも発展してることで有名だな。俺も来るのは初めてでよくわからないが」


 そこには夏織と鋭太郎の姿もあった。

 鋭太郎御一行は、ある事情で文月市の右に隣接する水無月市に来ていた――



   ※



 その前日――

「えっ……これって…………!?」

「!?」


 柚乃が夏織に見せた写真には、荘夜の姿が写し出されていた。


「ヘルメスが別件で調査に向かわせたところ、偶然彼を見つけたのよ。独り言を呟いたりと様子がおかしかったから、あえて接触せず距離を取って観察したらしいけど、途中で別件の調査すべきものを発見したからそっちを優先してしまったわ。荘夜くんがあなた達に黙って姿を暗ましたことは恋侍くんからの連絡で初めて知ったわ。度々ごめんなさい」

「いえ、俺達も事が片付いてから気づいたもので……」


 鋭太郎が気を遣わせまいと言った。


「……どこにいるのよ?」


 夏織は相変わらず威圧的に尋ねてきた。


「水無月市よ。今もいるかはわからないけど、ヘルメスにそちらを優先して調査をさせているわ。元々頼んでいたものは秋葉くん達に託したわ」

「……すぐにでも行くわよ」

「おい待て!」


 すぐにでも荘夜を探しに行こうと歩み出す夏織。それを止めたのは鋭太郎だった。


「行くにしたって支度を済ませてからでいい!」

「お気遣いありがとうございます。私一人でも十分ですよ」


 鋭太郎に顔を向けないまま言い捨てて、この場を去るつもりだったが、鋭太郎が前に出て行く手を阻む。


「正確な場所がわからない以上、闇雲に探しても見つからない! むしろ目立ってまた奴らが狙ってくる! 一ヶ月も経たずにこの街が崩壊するほどの激戦をしてきたんだ、疲れだって残っているはずだ!」

「…………」

「それに、この街だって崩壊したままだ! このまま放置するわけ……には――」


 鋭太郎が夏織を説得させようと復興が進んでいない文月市の話を持ち出すと、何か引っかかるような感覚に陥り、言葉が詰まる。


「大丈夫よ」


 鋭太郎の様子で彼が何を考えてるのか察した柚乃が、横から入ってくる。


「この街は私がある程度直したら、後は人間共に任せるつもりだから」

「!? そうだ……どうしてここまでの大災害で、どこからも救援が来ないんだ!?」


 柚乃の話を聞いて、鋭太郎は引っかかっていた何かを思い出した。

 暴風雨の際は、他県からも復興支援するための人員が訪れていたが、今回は誰一人来ていない。我に返って辺りを見渡せば、ここ文月市には、人間が一人――鋭太郎だけだった。

「それを説明するのは中々難しいわね・……簡単に言えば、私が一時的にこの世界から文月市をなくしているからです」

「ん、んぅ!?」


 柚乃はさらっと簡潔に説明したが、鋭太郎は少々理解に困った。


「お、おう……つまり、文月市の存在を消すことで災害そのものをなかったことにしているんだな?」


 頭の中で瞬時に整理した鋭太郎が聞き返すと、なぜか柚乃が歓喜の笑みを浮かべてくる


「その通り! 私よりも簡単に説明できるなんて! 流石私の、教え子ね!!」


 そして柚乃は鋭太郎に抱きつく。

 途中言葉が詰まったことが疑問に浮かんだ鋭太郎であったが、柚乃が彼の頭を自分の大きな胸に押し当て、その柔らかい感触で頭がいっぱいになったために疑問が吹っ飛んでいった。


「ッ…………!?」


 それと同時に、また不思議な感覚が、鋭太郎を襲う。


(まただ……言葉にできない……けど悪くない。むしろ安心するような……)


 鋭太郎は自然と柚乃の体を抱き返した。

 すると柚乃がそれに反応したように、鋭太郎の頭を優しく撫で、彼の耳元で囁く。




「よかったわ。あなたが無事で……本当に、よかった」




「――母さん…………」




「えっ!?」


 鋭太郎が無意識に呟いた言葉に驚いた柚乃が跳ねるように鋭太郎から離れる。

「!? ちがっ! これは――!!」


(何在り来たりな言い間違いしてるんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 正気に戻った鋭太郎が慌てて訂正を入れようとしたが、噛み噛みで伝わるはずがなかった。


「今、なん、て…………!?」


 柚乃の瞳から、自然と雫が零れ落ちる。

 目を見開いたまま、瞬きもせずに鋭太郎をじっと見ていた。


(やばいっ、これは取り返しのつかないことしちまったか・・・・・・!?)


 鋭太郎が賢明に謝罪の言葉を考えていると、柚乃の背後から、夏織が殴りかかろうとしていた。


「先生!! うし――」


 鋭太郎の言葉も聞く事なく、柚乃は夏織の右腕を振り向かずに、拳が頭に当たる寸前で掴んだ。そして金槌を振りかざすように夏織の体を前に投げ下ろし、地面に叩きつけた。


(以前もこんな光景が――いやいや待て、あの時とは話が違う! 力も元に戻ったらしい夏織を軽々と持ち上げるって、先生何者だよ・・・・・・)


「ただの教師ですよ」

「心読まないでください!!」


 柚乃が鋭太郎に気を取られている隙に、捕まれた右腕を解き、立ち上がって柚乃の方を向く。


「先生……いくら担任だからってひいきは良くないですよ」


 夏織が珍しく鋭太郎以外に敬語を使った。が、その鋭い目つきで睨み付ける表情に、全く敬意などこもっていなかった。


「ごめんなさい。ついつい」


 柚乃があらあらと茶化すように右手を頬に添えながらニッコリと言った。


「…………」


 特に何の反応も示さないまま夏織が後ろを振り返り、鋭太郎の方を向いた。


「ひッ!?」


 夏織はニコッといつも彼にしか見せない笑顔で見つめてきたが、その表情の裏に隠れた血のように真っ赤なオーラを感じ取った鋭太郎は思わずビクついた。


「浮気しちゃ……駄目ですよ☆」


「…………ハイ、ワカリマシタ」



   ※



 その後、ポセイドン達にも事情を説明し、共に水無月市に行くことにした。

 柚乃はもう少し文月市を直した後で合流するそうだ。


「で、確か俺達はまず先に来ている秋葉達と合流すればいいんだな」

「はい、既に先生があちらに連絡しているみたいです」

「だが肝心の合流地点がわからないな、何か聞いてないか?」

「いえ、私は何も」

「場所を決めてないのは、通信を傍受されても特定されないようにですよ」


 鋭太郎と夏織の会話を、二人の前で聞いていたポセイドンが後ろを振り向いて説明する。


「敵に逆探知された場合、合流地点で待ち伏せを受ける可能性が出てきます。そうでなくとも、我々の監視、尾行をされやすくなってしまうので、通信を使わずに自力で合流するのが神々の戦争では基本なんです」

「なるほど。納得はしたが、水無月市って結構広いぞ。探すの大変だな」


 水無月市は暦島県のなかで二番目に広い市町村である。一番目は神無月市。文月市は三番目である。


「確かに。彼らの好みがわかればいいんですけど……」


 皆が考え始める…………



「ところでさ、このグループ敬語使う奴二人いるから語り手がちゃんと説明しないとわからなくね?」



「いや、夏織は俺以外に敬語使わないから問題ないんじゃぁ……って、今の誰?」


 何者かの疑問に何気なく回答した鋭太郎。数秒後にそのことに気づき、全員が辺りをキョロキョロし始める。


「あっ、後ろ!」


 ネプチューンが鋭太郎と夏織の後ろに立つ人物に指を差した。

 鋭太郎達がそれを確認すると――


「ご無沙汰っす!」


 恋侍の姿があった。


「いやー大変だったんだぜ。ユノのエフェクト強くてさー、解除するのに丸々1日かかっだばぁ!!」


 頭を掻きながら苦労話をする恋侍に、鋭太郎は問答無用で顔を殴った。

 周囲の一般市民の痛い視線が鋭太郎達に集まる。


「ひっでぇ! なんかお前夏織パイセンに似てきてない!?」

「お前さ……まさかあの事許したと思うか?」


 鋭太郎が冷たい目で、冷たい言葉を恋侍に放った。

 前章の終話『揺るがない絆』とは何だったのか……


「その償いは必ずするから!! 秋葉達連れてくるから!!」


 秋葉は頭を打ち付けるように土下座をした。

 安っぽい土下座のように思えるが、本人は必死に謝ろうとしている。


「あいつらの場所がわかるのか!?」


 鋭太郎が話しに食いつき、その場はしのげた。


「そうそう! 知ってるから! だからその場で待って下さいな!」


 恋侍は逃げるかのように素早く、目に追えない速度でこの場を去った。







「来て……しまったか……」

『どうするんだ? ここから消えるか?』

「いや、まだやるべき事があるのだろ? 隠密に行くぞ」

『おうよ。ま、オレッちからすれば見つかろうがなかろうが、関係ないけどね』




 彼らからそう遠くない場所で、何者かがそう呟いた。



1日遅れとなってしまい、すみませんでした!

別作の後書き及びTwitterで告げたように、賞に出すための作品を仕上げるために来週は休載とさせていただきます。度々すみません。



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