序話 選ばれし『哀れな』少年
最初からわかっていた
自分が弱いことは
逃げる勇気すらない者が
他の誰かを守れる力を持っている訳ないんだ
「鋭太郎!! しっかりしろ!!」
文月市と異なる街の風景――
だが、そこも地獄絵図と化していた。
そこら中から煙を上げ、数々の建物が瓦礫の山に。そして、一般市民の死体が街一面に散らばっていた。死体のほとんどに傷も異常も見当たらず、不自然な状態である。
その街の中――鋭太郎だけは、全身に血を流していた。
体に力が入らなくなり、視界がぼやけ、耳が遠くなっている彼は今、姿勢を低くしている恋侍の体に背を当て、体を横にしていた。
「くそっ!! <リウィンド・ヒール>が通じねえとかふざけるな! ユノの話と違ぇじゃねえかよ!!」
「鋭太郎!! 私を見て!!」
また夏織が――皆が心配している
何やってんだ俺……俺が守ってやる立場なのに――
「夏織、鋭太郎を見ててくれ」
恋侍は鋭太郎の身を、隣にいる夏織にゆっくりと託した。
「秋葉の援護に向かう。流石のあいつでも、一人じゃ野郎に手こずるはずさ」
「……わかったわ」
恋侍は風を切りその場を去った。
「…………」
その姿を見た鋭太郎が無意識に立ち上がる。
「鋭太郎!? ダメ! 安静にして!!」
夏織も慌てて立ち上がるが、鋭太郎が間もなくして前に倒れる。
気が動転しているのか、また別の理由があるのか、鋭太郎だけにする敬語が抜けていた。
「鋭太郎――!!」
夏織が鋭太郎の体を支えようとした瞬間――別の誰かがそれを為した。
「!?」
謎の男の出現に、夏織は身を構える。
「よく、人間の状態でここまで頑張って来れたな」
その銀髪の男は、鋭太郎の頭を優しく撫でた。
「その声…………あなたは……!?」
男の正体を悟った夏織は構えを直した。
夏織に反応した男は、彼女の方を向いて微笑んだ。
「久しぶり、カオス。君にも会いたかった」
この日――やっと少年の物語が、動き出す。




