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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第三章 最狂の幼馴染み
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第十一話 救いの連鎖

 森の中――


「初夏<ブラスト・ボム>」

「海<モイスター・シールド>!」


 ポセイドンはゼピュロスと激戦を繰り広げていた。

 ゼピュロスが放つ予兆の見えない爆風に対し、ポセイドンは辺りの水分を集め、壁を作った。爆風に防ぐと同時に崩れる水の壁――ポセイドンは自身の【ケイパビリティー】を用いて水を宙に止め、小さな無数の球を作ってはそれを弾丸のように発射する。

 ゼピュロスは向かってくる水の球体を、【ケイパビリティー】を用いて流し取り、水の旋風を作り上げる。


「はッ!!」


 ゼピュロスが旋風を飛ばしてくる前に、ポセイドンは大剣を水平に大振りし、風を起こした。その風で、旋風を相殺することはできなかったが、形が崩れるとともに水が消えていった。

 ポセイドンは剣を振った勢いに身を任せ、ゼピュロスに突進する。旋風を放っても無意味と思ったゼピュロスは【ケイパビリティー】を解き、ハルバードで対抗。大剣を防ぐと、その衝撃が突風を生み、周りの木々を揺らした。


「今日は不調ですの? 動きが単調ですわよ」

「くッ……!」


 ポセイドンはハルバードを押しのけながら後退し、大剣を前に降ろし、地面を叩く。

 斬撃が飛んでくると同時に、地面が縦に割れた。

 ゼピュロスはそれを優雅に、体を回転させながら横に移動してかわした。

 それも束の間、地の割れ目から大量の水が放射状に溢れ出す。


「同じ手は通用しませんわ!」


 ゼピュロスは動じずに、【ケイパビリティー】を用いて水を集め始める。


「地震<アース・イラプション>」

「!?」


 ポセイドンがエフェクトを唱えると、ゼピュロスが立っている地面が、彼女を突き上げるように勢いよく上がった。だがゼピュロスは間一髪でかわしていた。意識がかわすことに集中したため、【ケイパビリティー】が解け、水が落ちる。


「海<フラッド>」


 その隙を狙ったポセイドンは、すかさずエフェクトを唱えた。すると水の出方が全体的に分散するようになり、より勢いよく水が飛び出る。


「うっ! この位!」


 瞬く間に辺り一面が水に満たされ、足のくるぶしより上まで水が溜まる。ゼピュロスは【ケイパビリティー】で何とかしようとするも――


「泉<フリージング>」


 ポセイドンが高く飛び、エフェクトを唱える。辺り一面の水が一瞬にして凍てつき、ゼピュロスの足が固定され、移動できない状態となった。


「あなたはエフェクトが上手く使えない素質で、【ケイパビリティー】に頼る癖があることを、思い出せて良かったです」

「っ!!」


 ゼピュロスは足を動かそうと力を入れるが、ビクともしなかった。


「下手に力を入れれば、足をちぎることになりますよ」


 ポセイドンが着地して大剣を氷面に突き刺し手放すと、ゼピュロスにゆっくりと近づきながら言った。


「教えてください。あなたは何者ですか?」

「え……?」


 ゼピュロスは、意図の読めないポセイドンの質問に戸惑う。


わたくしは、あなたのゼピュロスで――」

「そういう意味ではありません。ゼピュロス、あなたは神衛部隊に入っていなかったはず。確か、学校の教師をやってましたよね? ただの一般神いっぱんじんが、人間世界に送られるには早すぎます!」

「……ポセイドン様はご存じないのですか? 『四星神』を」

「『四星神』?」

「アイテール様――ではなく、エレボス様の側近となる存在。私は、兄妹達とともに『四星神』の一員となりました。長男であるボレアス兄様を一柱として。ノトス兄様、エウロス姉様、そして私は、その柱を側近として。だから私は、エレボス様のため、ボレアス兄様のため、カオスを捕らえにここに来ているのです!」

「…………」


 ゼピュロスの話を聞いてポセイドンは下を向き、思う。


(なるほど。となると今、アネモイ兄妹が人間世界ここに勢揃いしているわけだ。しかし、エレボス様はアイテール様の親友ではあるが、面倒くさがりで、ましてや部下を作るなどと――)


 不意にゼピュロスがハルバードを突き出す。ポセイドンは見向きもせず、気配だけを察知して回避し、左手でハルバードを強く払う。その衝撃でゼピュロスの手から離れ、遠くへ滑った。


「見てないのに、どうして!?」


 驚きを隠せないゼピュロスに対し、ポセイドンは顔を上げて答える。


「年季の違いとしか言いようがありませんよ。そもそも、ピカピカ新組織の一員が、歴史ある部隊の副隊長に勝てるはずがありません」

「っ~! そう決めつけないで下さいまし!」


 そういって、ゼピュロスはポセイドンの胸をボコスカと、両手で殴り始める。しかし、ポセイドンはビクともせず、第三者からはゼピュロスが駄々をこねている子供のように見えた。

 ゼピュロスは本気で殴っているが。


「あのハルバード……風の属性強化が成されてましたね。あなたの【ケイパビリティー】を反射的に発動させ、風圧を発生させて力負けしないように。刃が当たる感触と金属音がしませんでしたから」

「うぅ…………」


 ゼピュロスは膝を落とし、両腕を地に着ける。

 彼女の瞳から、涙が零れ始める。


「……勝負あり、ですね」

「そうです! わたしの負けよ! もう煮るなり焼くなり私の体を自由に弄べばいいわ!」


 ゼピュロスはお嬢様口調をせずに、涙声で降参した。こちらが本来あるべき姿なのだろう。


「負けを認めるのであれば、すぐにでもここを去ってほしいのですが」

「な、なによ……それじゃ私、ヤり捨てられたみたいじゃない!」

「誤解を招くような言い方はやめてください! カオスを狙うのを諦め、ここを去れという意味で――」


 ポセイドンは途中で言葉が詰まった。ある思いが口を止めたのだ。


(ゼピュロス神世界に戻ったら、間違いなく殺されるな)


 ポセイドンは思い出す。

 ウラノスとともに、カオス確保の任務をしたこと。

 妹のために身を危険に投げたこと。

 結局失敗に終わったものの、

 親友が命を救ってくれた。

 そして、初対面の人間が救いの手を差し伸べてくれた。

 敵であったのに。

 大切なひとを狙っていたのに――


(僕も、仮に神世界に戻らずとも、身元が特定されて処刑されていただろう。もちろん今でも身元を探されている状態ではありますが、頼れる仲間がいる。だから、僕はゼピュロスを――)



「お兄ちゃん!!!」



 後方から怒声が聞こえると同時に、強い地震が突然この森――いや、この文月市全体に起きた。氷結が割れ、ゼピュロスは足が動かせる状態に。街の建物が幾つも崩壊していく音が森にも響いてくる。手加減を知らないこの地震に、ポセイドンも体勢が崩れ、足を崩した。

 地震が治まってから、ポセイドンは体勢を戻し声がした背後を向くと、木に登って見守っていたネプチューンが、地に降りて怒った顔を見せていた。


「乙女を泣かせるなんて、男失格よ!」

「そう言われましても……」


 ポセイドンは非常に困るが、ネプチューンは容赦なく叱り続ける。


「それに、ゼピュロスさんは昔からずっと、お兄ちゃんの事が好きだったんだよ! ゼピュロスさんのどこが気に入らないわけ!」

「いや、そのー……」

「私の言いたいこと、わかるよね?」

「……はい」


(昔からなぜか、ネプチューンには勝てないな……ゼピュロスを救おうと思ったと同時にこれだから、自分が情けない)


 ポセイドンは振り向き、身を低くしてゼピュロスに目を向ける。ゼピュロスは相変わらず下を向いて泣いている。


「顔を上げて下さい」

「…………」


 しかし、ゼピュロスは顔を逸らした。


「俺を見て下さい!」

「!?」


 ポセイドンは、ゼピュロスの顎を掴み、自分に向けさせた。


(っ!? しまった! これは……顎クイ!!)


 ポセイドンは自分がやった無意識の行動に恥ずかしくなった。

 ゼピュロスも思わぬ出来事に、顔を赤くする。


(落ち着け! 落ち着いて話をするんだ!)


「の、残れ」

「?」

「ここに残れ! 俺が守る!」

「は、はい!! えっ、今……」


(動揺しすぎだ! 要点を絞りすぎだ!!)


「おー」


 訂正させる隙を与えまいと、ネプチューンがニヤニヤと拍手をした。


「あ、あの……不束者ですが、よろしくお願いします…………!」

「…………」


 ゼピュロスも告白と勘違いしてしまい、この始末――

 ポセイドンは、もう後戻りできないのであった。







『へぇ……お前のダチは結構なロマンチストだな!』


「…………」


『あれ、もう行くのか? 武器を拾うついでに誘う予定じゃ――』


「気が変わった」


『お前も仲間想いだなー』


「そうであれば、こんなことはしないだろ……さっさと行くぞ」


『おうよ』




 遠くから、聞き覚えのある声と、不気味な声が聞こえた気がした。


先週は突然休載してしまい、本当にすみませんでした。

そのせいもあってか、ブックマークが一つ外れてしまいました。自業自得ですね。

今後もこのような調子になってしまうと思いますが、極力休載が起きないよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします!

・・・・・・と言いましたが、再来週はテスト期間に入りますので、次の次の更新は休載確定です。すみません。

来週は忘れずに更新しますので、心配なく!

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