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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第三章 最狂の幼馴染み
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第十話 アネモイ

「もう大丈夫か?」

「えぇ、平気よ」


 学校近くのコンビニに来て約二十分。

 夏織がようやくトイレから出て、鋭太郎と合流した。


「さっきの地震……また落ちたな」

「これで三つ目……ですよね?」

「そうなるな。さて、どうするか……ここを出るにしろ当てがないし、ここに留まっても埒が明かない。いっそのこと交戦に――ってのはあくまで最終手段だな」

「本来であれば人間の目に触れずに侵入するところを、あそこまで大胆に来るとなれば、私を連れ戻すのにかなりの自信があるかと思われます」

「だろうな。神衛部隊の隊長さんが二人も消え、その副隊長と英雄、その彼女(?)が寝返ったんじゃ……あっちも本気になるに決まってるよな。あー、どうすっか・・・・・・!」


 鋭太郎が頭を抱え、悩んでいるところ――


「<コム・スタート>・・・・・・※※※※」


 夏織が鋭太郎に聞こえないように唱え、<コム>を起動する。


「私よ……今どの辺……?」

『ん? 夏織パイセン? 今はねえ……ベニミル近くにあるからもうそろそろだと思われ――あっ、マズいな……』

「どうしたの?」

『……逃げるなら逃げろ。早急にな――』

「夏織? 何かあった――」


 鋭太郎がぼーっとしてる(ように見えた)夏織に話しかけると同時に、外から耳が痛む程の轟音が聞こえるとともに、地が揺れた。


「!?」

「嘘だろ! 四つ目か!?」


 鋭太郎達が驚いてるも束の間、コンビニがグラグラと音をたて、天井が崩れ始める。


「この場所も耐え得られそうにないな! 出るぞ!」

「っ!?」


 鋭太郎は夏織の腕を強引に引っ張ってコンビニの外に出る。間もなくして、コンビニが跡形もなく、完全に崩れ落ちた。


「……マジかよ!」

「…………!?」


 鋭太郎達は、コンビニが崩れたことに目もくれず、目の前に立ちはだかる人物を睨み付けていた。

 隕石の落下でできたクレーターの中心に、一人の少女が立っていた。

 腰まである長い黒髪の少女は、眠たそうに赤い瞳を鋭太郎達に向けていた。


「ここは、どこ? 私は…………誰?」

「は?」


 少女の第一声に、鋭太郎は呆気にとられる。


(これは相手を油断させるための策なのか?)


「いや、それ俺に聞かれても……」


 鋭太郎が返答に困っていると、不意に攻撃を仕掛けてきた――


「先手必勝!」


 ――夏織が。

 勢いよく地を蹴り、飛びかかるように右の拳を少女のこめかみにぶつけた。少女は悲鳴を上げることなく、崩れかけの建物をいくつもの突き抜け、遠くに吹き飛んでいった。


「…………」


(薄々気づいてたけど、武闘派なのね……)


「行きましょう、鋭太郎さん。実はすでに助けを――」


 その場を振り向き、鋭太郎に笑顔を見せたところ、夏織の背後から氷結の旋風が真横に上がるように進み、夏織に襲いかかろうとしていた。


「夏織!!」

「っ! 混沌<グラビティ・ホール>!」


 鋭太郎に呼ばれ、感づいた夏織がすかざす右手を前に出し、エフェクトを唱える。すると、旋風が右手の前で止まり、吸い込まれるように球状となった。


「詰めが甘かったわね……」


 夏織が遠くを睨み付けている中、鋭太郎が歩いて近づき、球状になった旋風に手を触れ打ち消した。


「!? 鋭太郎さん今――!?」


 さっきまでの凶相が嘘のように、夏織が唖然とした顔で鋭太郎を見た。


「あー、夏織は知らないんだっけ? 俺にも【ケイパビリティー】があるらしく、能力の打ち消し及び無干渉だとか。まあ、それでも自分はエフェクトを使えて、干渉できるエフェクトもあるらしいから、色々疑問は残るけど」


(それが不思議で溜まらないんだが……詮索するにも危険が伴うしな)


「そうなんですか……でも、今のを消す必要はなかったですよ。そのまま反射できましたし――」

「相手は風使いだと考えれば、撃ち返しても倍になってまた戻ってくるだけだろ?」

「そうかも知れませんが、私の能力の前では無意味です」

「あ、あぁ……」


(重力を操れるなら敵なしかも知れないが……今の夏織が、以前のように戦えるかがわからない以上、下手に過信するわけにはいかないからな)


 鋭太郎が心配そうに夏織を見つめる中、前方からついさっき吹き飛んだ少女が、何事もなかったかのように姿を現した。

「思い出した……私はエウロス……エウロス・アネモイ」

「アネモイ!?」


 少女の名前を聞いて驚いたのは夏織だった。


「どうした? アネモイってギリシャ神話に出てくる風の神々のことで、エウロスはその四柱の一神で東風の神だよな?」


 アネモイ――ギリシャ神話に登場する風の神々のこと。


 冬を運んでくる冷たい『北風』の神――ボレアース

 晩夏と秋の嵐を運んでくる『南風』の神――ノトス

 暖気と雨を運んでくる『東風』の神――エウロス

 春の訪れを告げる豊穣の『西風』の神――ゼピュロス


 以上が上位のアネモイである。下位のアネモイとして北東、南東、北西、南西の神も存在するが、それは後ほど。


 今、鋭太郎達の前にいるのは、東風の神――エウロスだった。

「はい、鋭太郎さんの言うとおりですが……彼女たちアネモイ四兄妹は、アイテール様の親友であるエレボス様の側近です……」

「はぁ!? エレボスだと!?」


 エレボス――神世界の主アイテールの親友であるため、事実上ナンバー2と言っても過言ではない。

 その側近となると、実力は今までの比にもならないほど、桁違いであると考えられる。


「カオスと……『二号』……同時に発見。兄さん達には悪いけど、手柄はもらう」


 エウロスが呟くながら、右手を前に出す。


雨風うかぜ<ゲイル・ス――」

「混沌<スキル・ネガティブ>」


 エウロスがエフェクトを唱え終える前に、夏織が早口で唱えた。

 すると、エウロスの右手が何かぶつけられたように後ろに弾かれた。


 <スキル・ネガティブ>

 名の通り能力の打ち消しだが、ほんの一時でなく、長時間打ち消したエフェクトの発動を封じることができる。ただし、封じることができるのはあくまで一つ。再度使用した場合、新たに打ち消ししたエフェクトに上書きされる。


「その程度? あなたが来るって事は、あっちも本気なんでしょ? 私を連れ戻しに来るのなら、精々楽しませてくれないかしら?」

「…………」


 夏織の挑発的な言動に対し、エウロスは動じず眠たそうな表情をしていたが――


「封じられた…………私の……十八番おはこを……!」


(いや、普通そういうの序盤で出すなよ)


 エウロスの得意エフェクト<ゲイル・ガン>の上位改<ゲイル・スコール>を封じられたのは非常に幸いである。

 <ゲイル・スコール>は、風の弾丸を正面からでなく真上から、広範囲に雨の如く無数に落とすエフェクト。それに自身の【ケイパビリティー】を使って雨雲を集め、その雲から降る雨にエフェクトを合わせ、目に捉えられる代わりに威力が倍増させるのが、エウロスの十八番戦法だった。

 このエフェクトであれば尚更、短期決戦したい場合に一発目に放っても悪くはない。広範囲で雨の弾丸が降り注ぐとなれば逃げても無駄。むしろこのエフェクトは一発目に放つべきものだと言えるだろう。

 しかし、寝ぼけているのが原因なのか、今までにこのような事が起きなかったのか、<スキル・ネガティブ>の存在を忘れ、エウロスは堂々と詠唱してしまったのだ。


「あら、何か面白いものでも見せたかったの? ごめんなさい」


 なお、夏織本人はそのことを知る由もなかった。


「……暖雨だんう<ガスト・ボム>」


 改めてエウロスは右手を出し、エフェクトを唱える。


 辺りの水蒸気を右手に集め、小さな球状の渦巻きを作り上げ、間を置かずに夏織たちの方へ飛ばす。


(水蒸気の爆弾か!)


「なんだ、この程――」


 夏織が呆れたように右手を伸ばし、策を打とうとしたが――隣にいた鋭太郎が爆発的に前に飛び出した。


(夏織がいくら強いとしても、彼女にばかり頼る彼氏にはなりたくない! それに――)


「突破口なら既に見えてる!」


 鋭太郎は速度を落とさずに、ついでのように右手で渦巻きに触れた。その渦巻きは、嘘のように消滅した。

「!? なんだ、お前……!?」


 鋭太郎がしたことを理解できず、エウロスは青ざめる。


「くっ、来るな!!」


 それによってなのか、目が冴えたエウロスは【ケイパビリティー】で旋風を起こし、鋭太郎を得体の知れないおぞましいものを見る目で退けようとした。


(案の定、風を操る【ケイパビリティー】か。それだけなら、余裕だ!)


 旋風を前にしても鋭太郎は足を止めず、そのまま身を投げるように風の中に足を入れる。

 弱まっただけで旋風は消えなかったものの、鋭太郎は無傷で走り抜けた。


「嘘…………こんなのまるで――」


(神であっても相手は女。見た限り武術を使う体つきでもなければ、武器を使う形跡もない! 突破口、そんなもん簡単だ……!)


「ただのごり押しだぁぁぁぁ!!」


 エウロスの目前まで来た鋭太郎は飛び上がり、腰に付けていた木刀を右手に構え、落下に身を任せ彼女に向かって木刀を振り下ろす。


「っ!!」


 鋭太郎の推測通り、武器を取り出そうとも肉弾戦に持ち込もうとせず、エウロスは目を伏せつつ木刀を防ごうと、両腕を顔の前に交差させる。


(横が隙だらけだ!!)


 鋭太郎は冷静に木刀を横に振り、エウロスの脇腹に当てようとした。

 エウロスは、もはや打つ手がなかったが――



 ――キィーン!!



「?」


 謎の金属音に、エウロスは目を開ける。


「ボレアス兄さん!?」


 何の予兆もなく、まるで元からその場所に立っていたように、銀髪の男が鋭太郎の木刀をレイピアで防いでいた。


二日遅れとなってしまいました。本当にすみません!!

それに重なり、今週は部活の大会、来週はテスト期間になるため、次回の更新は5/28となります。

別作の「その探偵、問題児につき」も15日の更新を休載せざる終えなくなりました。

誠に申し訳ございません。


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