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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第三章 最狂の幼馴染み
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第九話 友の行方

 恋侍が夏織達の救助に向かっている頃――

 森の奥で落ちた隕石の場所に、青髪の青年は足を運んでいた。


「……やはり、敵襲ですか」


 海と地震を司る神――ポセイドンだ。


「お兄ちゃん……」


 その傍らに妹のネプチューンが不安そうに顔を覗かせる。


「大丈夫。ニュクス達もいるんです。何かあっても対処――」


 ポセイドンが街に戻ろうと後ろを向く途中、自分の右方向の奥に刀が落ちているのにふと気づく。


「あれは!?」


 ポセイドンは走り、滑り込むように刀を手に取る。


「お兄ちゃん!?」


 訳もわからずネプチューンはポセイドンに走り寄る。


「――なんで…………!?」


 刀身、鐔、柄の全てが黒塗りで、暗殺に特化した刀。その刀はほぼ新品そのものであったが、持ち主は一人しか思い浮かばなかった。


「ニュクス……あいつに何が起きたと言うんだ!?」


 刀身に付着している血を見て、ポセイドンは血の気が引く。

 この血が荘夜のものとは限らない――が、そうであれば荘夜がここにいない理由がわからない。刀を戦場に忘れるような馬鹿なことはしないと、誰よりもわかっていた。


「ニュクスさんは無事なの……?」


 ポセイドンの様子と、その手にある刀を見て察したネプチューンが恐る恐る聞いた。

 だが、ポセイドンは問いに答える事なく立ち上がり、左手を耳に添える。


「<コム・スタート>――【コネクション=ニュクス】」


 ポセイドンがエフェクトを口にする。


 <コム・スタート>は、魔術による遠隔通信――いわゆるテレパシーである。通信する機器も、電波も必要なければ、魔力の消費も全エフェクトの中でも最も少ない。ただし、全魔力の経路をそちらに集中させてしまうため、他のエフェクトと併用できないのが弱点。通信中に不意をつかれた場合、解除する手間があるため、瞬時に対応出来なくなる。

 神々は主にこれを通信手段に使うため、人間世界であっても、携帯を持つ者が少ないのだ。


「ニュクス、聞こえますか? 応答をお願いします!」


 ……………………


「ニュクス! 返事を下さい! 一言でも、一文字でも構いません!」


 ……………………


「ニュクス……」


 何度呼びかけても、荘夜から応答が返ってこなかった。


「やっぱり、ニュクスさんは――」

「大丈夫です。彼が死ぬようなヘマはしないでしょう。恐らく、負傷して影に身を潜めているかと」


 ポセイドンは刀を落とし、ネプチューンの体を片腕で抱き寄せ、安心させる。


「【コネクション=カオス】。聞こえますか? ポセイドンです」


 今度は夏織に接続した。


『あら、珍しいわね。そっちは大丈夫なの?』


 一秒の間もなく、夏織から応答があった。


「今隕石が落ちた森にいますが、そちらにニュクスはいませんでした?」

『こっちにはいないわ。てっきりあなたの方にいるのかと思ってたけど、何かあったの』

「……いえ、何でもありません」


 ポセイドンは、荘夜が何者かに襲われたことを伏せた。敵の詳細がわからない以上、夏織を刺激して激昂させるわけにはいかない。怒れば夏織は単独で敵を潰しに行くであろう。一人でも十分に戦えるが、万が一負けてしまっては連れ去られてしまっては元も子もない。

 ここはあえて、荘夜の話をしないことに。


「カオスさん達は今どこに?」

『文月学園近くのロースンよ』

「わかりました。今からそちらに――」


 まるでタイミングを計ったかのように、ポセイドンの近くで轟音が鳴り響き、地が揺れる。


 ――また隕石が、落ちてきた――


「うッ!」

「きゃあ!!」


 ポセイドンはネプチューンを抱きしめ、右手を彼女の後頭部に優しく添えた。


『何があったの!?』

「また隕石が落ちました! 僕の近くです!」


 ポセイドンは、ネプチューンを離すと別空間から大剣を取り出す。

 鋭太郎との戦いで折れた(正確には自分で折った)先端は、エフェクトで元に戻っていた。

 ポセイドンは大剣を両手で持ち構える。すると、それに応じたかのように何者かがゆっくりと、ポセイドン達の方に向かっていた。


「あらあら、到着して早速敵に出会でくわすなんて、ついてませんわね」


 ドリルのような螺旋が顔の左右に下げられている桃色の髪に、青が基調のフリルドレスを身に纏ったお姉さんのような顔立ちの女性。

 彼女の右手には、ポセイドンの大剣よりも長いハルバードがあった。


「ですが、まさか愛しのポセイドン様とは思いませんでした!」

「ッ!? まさか、ゼピュロス!?」


 ポセイドンが彼女の正体を察すると、それが正解だと言わんばかりに、彼女が満面の笑みを見せる。



「そうですわ! あなたのゼピュロスです!」



「あなたが来るとは……」


 ポセイドンは目を伏せ、頭を抱えた。


 ゼピュロスは、ポセイドンの彼女――という訳ではない。


 ポセイドンが人間世界に来るもっと昔から、ゼピュロスは何故か彼に無我夢中なのである。実際、ポセイドンは神世界において一、二を争うモテ男であったため、そんな輩が出てもおかしくはないが、本人にとっては大迷惑だった。


わたくしも、カオスを連れ戻すためにここに来たのですが、それは兄弟達に任せることにしますわ。ポセイドン様! 私と一戦交えてもらえないでしょうか? もちろん、妹さんには手出ししませんわ」

「……いいでしょう、どうせ断っても意味がありませんし。ネプチューン、下がっててください」

「う、うん……」


 ネプチューンは心配そうに後退りし、木の陰に隠れた。

 それを確認したポセイドンは、左手を耳に添え、カオスと連絡を取る。


「聞こえたと思いますが、今からゼピュロスと交戦に入ります」

『……わかったわ』

「どうかご武運を――<コム・アウト>」


 ポセイドンは通信を切ると、大剣を両手で構える。

 ゼピュロスもそれに応じて、ハルバードをポセイドンに向け構える。


「負けた方は相手の言うことを一つ、何でも聞く――というのはどうかしら?」

「何を基準に勝敗が決まるのかはわかりませんが……いいでしょう、負ける気がしませんので!」



 ポセイドンとゼピュロスの――戦いの火蓋が切られた――



   ※



 街の中心――広場にて。

「…………」


 銀髪の男が、その周辺を歩いていた。


「!?」


 何かを見つけた男は、駆け足でそれに近づいた。


「…………」


 近くで確認した男の顔は無表情であったが、内心では怒りがこみ上がっていた。


「ノトス…………必ず、お前の恨みを晴らす!!」




 ――それは、四肢が切断され、頭を潰された、紅色の髪をした男の死体だった。




お読みいただき、ありがとうございます。

ここ最近、話の展開が遅くてすみません。次からやっとまともな戦闘シーンに移れます。

また、今回「その探偵、問題児につき」も同時に更新しましたので、そちらの方もよろしくお願いします!

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