第八話 最狂、始動
隕石が、森と街に落ちた。
地面が砕け、多くの建物が崩れ落ちる。
街の光景は、暴風雨の災害時よりも酷く荒れ、復興作業が水の泡となった。
数多の悲鳴と、建物が崩れる轟音が飛び交う中――鋭太郎は夏織を抱え、学校に足を運んだ。
(着いたのはいいが、本当にいるかだな)
「鋭太郎さん、もう大丈夫ですよ」
「ん? あっ、悪いな! ずっと抱えっぱで」
鋭太郎は今になって恥ずかしさを感じ、夏織をゆっくり降ろし地に足を着かせた。
「いえ、むしろいい思いを――ぅ……!」
夏織が鋭太郎よりも先に足を動かすと、急のめまいが彼女を襲い、足を崩す。
「大丈夫か!?」
「……平気です。しばらく眠っていましたから。あれから何日経ちましたか?」
「約一週間――正確には十日だな」
「とても長く眠ってしまいましたね、体が鈍るのも仕方ありませんね」
夏織はゆっくりと、自力で体勢を戻す。
「……無茶すんなよ」
「ご気遣いありがとうございます」
二人は校舎の中へ進む――
「おいお前ら! こんな時に何のようだ!」
――校舎に入り、昇降口にて浴びせられた第一声がそれだった。
隕石の影響を受け、校舎も崩れかけている。
声を発した国語担当の男性教師は、避難しようとしていたところだった。
(まさかこいつが出てくるとは思わなかったな。『あいつら』はもう出番ないのに)
「柚乃先生はいるか?」
鋭太郎は普段のノリで敬語を使わずに聞いた。
「はぁ? お前みたいなカスが、柚乃先生に何のようだ!」
早退の件もあってか、教師は質問に答えてくれなかった。
「お前みたいな奴は頭が良くても態度が悪い奴は、高校だろうと一年は持たんぞ! 全く、柚乃先生が気を利かせてなければ今頃退学だぞ! 何度も頭を下げてまでお願いする理由はよくわからんが……ん? よく見たらそこにいるのは薊じゃないか」
「…………」
鋭太郎の後ろにいた人物が夏織であることを今知った男性教師。名を呼ばれても夏織は動じることはなかった――が、顔が非常に険しかった。
「どうしてこんなやつと一緒にいるのか……最近交際を始めたという噂が教師内でも広まっていたな。何がともあれ、薊がこの堕落を気取った救いようのない奴と一緒にいるのは間違って――」
ガシャ――ッ!!
あからさまな鋭太郎への愚痴文句に怒りが込み上がった夏織は、近くの下駄箱を強く蹴った。下駄箱は大きく凹む。金属の箱が潰れる音が辺りに響き、教師の言葉を遮る形で止めた。
「…………」
「…………」
鋭太郎と教師は唖然とし、硬直する。
「……どこにいるの?」
「さ、さぁ…………」
「っ!!」
今度は地を踏みつける。昇降口の石床にひびが入り、その衝撃で崩れかけの校舎が振動する。
「思い出しました! さっき不良達と学校を出ました! 本当です!! 信じてください!!」
夏織に恐れをなした教師は、震えながら必死に答えた。
「不良か……秋葉達だな」
教師の無様な姿を置いて、鋭太郎が言った。
「そうですね。彼らは家族みたいなものですし。行きましょう」
「おう」
二人は校舎を後にし、外を歩き始める。
「しかし、参ったな……先生がいないとは。秋葉もいないとなると万が一戦力に欠けちまうな」
「…………」
「まあ正面からの戦闘は避けたいところだな。体勢を立て直すのに一度隠れ家に行きたいところだが、隕石が落ちた位置からすれば、道中で鉢合わせになりそうだ」
「…………」
「荘夜がいれば影を利用して――どうした? やっぱり具合悪いか?」
下を向き、黙々と歩いている夏織を、鋭太郎は心配する。
「いえ、大丈夫です。ただ、ちょっとお手洗いに……」
学校からそう遠くないコンビニ内――
騒動によって店内には誰もいないが、鋭太郎達には関係なかった。
「…………」
夏織はトイレで用を足している――
『――もしもし、元カレですけどもー?』
――フリをして、恋侍に電話をかけていた。
「今は緊急時よ、ふざけないで」
『わーってるって、あっちも回を重ねるごとに派手な手を使ってくるな』
「ねえ、お願いがあるの……」
『何じゃ? 助けてほしいのか? んならユノっちの方が早いかと』
「先生が学校にいなかったの。アキレスとガイアと一緒にいるみたいだけど、どこにいるか検討もつかないわ」
『あー……はい、早くもその段階に――』
「?」
『あっ、いや、こっちの話だ。まあ助けに行けなくないが……あいつ、いるよな?』
「――当然」
『ですよねぇー……』
「…………」
『…………』
……しばらく沈黙が続き――
『……………………今どこ?』
「学校近くのコンビニ――ロースンよ」
『あそこか……オーケー。助けに行きますよ』
「ありがとう」
『ただし、俺はあくまで人間として振る舞わせてもらう。たまたまコンビニに寄って鋭太郎達と合流したって形で。いいか? 絶対に俺の正体を口にするなよ! 体で体現するのもな! もし約束を破ったのなら……俺と鋭太郎とお前で3――』
――夏織は瞬時に電話を切った。
※
街のど真ん中――
隕石が落ちた場所に、紅色の髪で幼い顔立ちの男が、街を見渡していた。
「……兄貴はすでに着陸したか。おれも早くカオスと『二号』を探すとしますか」
遠くに見える森から出ている、異様な煙を見て察した男は歩き始める。
「んー……落下の衝撃が強すぎたせいでもう人がいないな。抑えたつもりなんだけど――おっ!」
キョロキョロと辺りを見ながら歩いていると、一人の男に目が移る。
呑気にステップしながらコンビニに向かっている、恋侍だった。
「へい! そこの兄ちゃん!」
「ん?」
男がチャラい感じで恋侍に声をかけた。それに反応して恋侍は足を止める。
「人を探しているんだ? 水色の髪をした……夏織って名前の人知らない?」
「うーん……わりいな、俺の記憶の中にそのような人物はいないっすね。力になれずにすんません。俺、先急いでるんで!」
恋侍が男に一礼した後、さっきと同様にステップを刻みながら先に進んでいく。
すると、笑顔の明るい男が一変――鷹のような鋭い目つきで恋侍を睨み、右手を前に出す。
「そうか、なら死ね」
男の右手から、灼熱の突風が放たれ、直線的に恋侍の体を呑み込んだ。
弧を描くように地面が溶け、肉が焼けるような音が弾ける。
恋侍の体が、跡形もなく溶かされたように思えたが――
「なんかかわいそうな奴だなー」
「!?」
恋侍は目で捉えられない速度で、男の背後に回りこんでいた。
思わずヒヤッと背筋が凍った男は、振り向きながら恋侍との距離を置く。
「お前多分あれだ、この話だけの使い捨てキャラ」
「は?」
恋侍の言ってることが、男には理解できなかった。
「『なら死ね』とか、いつぶりに聞いたことか……そんな三流の奴は全員俺が瞬殺してあげたが」
「おい、お前……何様だ」
恋侍の舐めた態度に、男は威圧的になる。
「神様ですけど」
「お前の話を聞けばそんくらいわかるさ。お前……俺を舐めてるだろ?」
「もちろんさ」
「敵に教えてやる義理はねえが……俺は『四星神』の一人だぞ」
「知ってる。どうせ五人いるオチの組織だろ? 申し訳ないが、ここで戦うのは遠慮してくれ。『四星神』とか強敵染みた肩書きをもつ奴を、あっけなく殺したくないんだ」
「……殺す!」
殺意が芽生えた男は、右手の人差し指を恋侍に向ける。
「やっぱ戦うん? なら名を名乗っといた方がいいぞー。下手したら当分名無しの状態が――」
「晩夏<ゲイル・ガン>」
男がエフェクトをとなると、無数の風の弾丸が恋侍に向かって連続的に放たれる。
「んげ、見えないのが厄介だなぁ……」
などと言いながらも、適確に、無駄がなく弾丸をスッと避けていた。
「ちっ、ならば――」
男が<ゲイル・ガン>を解除すると、今度は両手の平を前に出す。
「秋嵐<トルネード・ランチャー>!」
男の目前に、竜巻が作り出される。その上に、【ケイパビリティー】をかけ、灼熱の竜巻が完成した。
「受けてみろ!」
男は両手を押し出し、竜巻を放つ。
「…………しゃーない、久しぶりにやるか」
そう言って、恋侍は別空間から――大鎌を取り出した。
毎度お読みいただき、ありがとうございます(今回が初めてという異例の方もいるかと思いますが)
別作の「その探偵、問題児につき」が毎月15、30日の月二回の更新に変更しました。
そのため、変えて早速本作と更新日が被ってしまいました。
極力どちらも遅れないように更新したいと思いますが、基本的には更新の少ない別作の方を優先して更新したいと思っています。
こちらの方を楽しみにしている方にはすみません。
今後とも、よろしくお願いします!
・・・・・・気がつけばこの作品、初更新から一年経っています。
本格的に始めたのは七月頃ですが。




