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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第三章 最狂の幼馴染み
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第七話 違和感




「アイテール!!!」




 鋭太郎が隕石と奮闘している頃――

 柚乃の夫――アイテールを目前にした秋葉は、感情に身を委ねるように地を蹴り、アイテールに襲いかかろうとした。


「月<グラビティ・ブラスト>」


 秋葉の拳とアイテールの頬との距離が寸のところで、柚乃のエフェクトが発動する。

 秋葉の体が上空から落下するように後ろに引っ張られ、壁に張り付いた。


「先生!?」


 なぜ敵の親玉であるアイテールに肩を持つのか。

 神奈は理解できずに混乱していたが、柚乃がエフェクトを発動したのを見て、別空間から剣を取り出し構える。


「神奈さん、下ろしなさい。私たちは戦うために呼んだ覚えはないの」

「だったらちゃんと説明してくれよ! どうして先生がアイテールの味方につくのさ!」

「あなた達は勘違いしてるの! アイテールは敵じゃないわ!」

「ふざけんじゃねえ!!」


 力尽くで壁から離れた秋葉が叫んだ。エフェクトが消えた訳ではないため、重力圧に負けじと体勢を低くし、片手と両膝を床に着け、踏ん張っていた。


「そいつが、そいつが俺の妹を!! 直接殺したのはエレボスだろうけどな! 人質にした時点でアイテールが殺したも同然だろ!!」

「――ユノ、もういい。離してあげてくれ」

「…………」


 アイテールが優しい口調で柚乃に言うと、柚乃は黙ってエフェクトを解除した。

 重力圧が突然なくなったがために、秋葉が前に倒れた。


「ちぃ!!」

「やめなよ!」


 これに懲りなかった秋葉が立ち上がり、再びアイテールに襲いかかろうとしたところを、神奈が腕を引き抑えようとした。


「離せ! あいつを! ぶっ殺さねえと気がすまねえ!」


 獣のように鋭く、殺意に満ちた眼差し。

 アイテールをどれほど恨み続けてきたのかが、本人の口から語られずとも一目でわかる。

 そんな彼を見たアイテールが、ベットから体を下ろす。


「ッ!」

「!? だめ! 無理しないで!」


 地に立とうとしたアイテールだったが、全身に痛みが走り、膝を落とす。柚乃が駆け寄ろうとするが、アイテールが彼女に手の平を向け、静止させた。柚乃の動きが止まったのを確認すると、両手を地面に着け――




「…………すまなかった」




 頭を下げた。


 地に額を着けた。


 神世界を統治する主が、『英雄』という肩書きがあるだけのただの住民に。


 土下座した。



「!?」

「!?」


 アイテールの行動に秋葉と神奈は驚愕し、自然と動きが止まった。


「…………………………」

 


 ――数十秒の沈黙が辺りを制した。



「……謝るってことは、認めるんだな」


 冷静を取り戻した秋葉であったが、恨む気持ちに変わりはなかった。

 秋葉はゆっくりとアイテールの前に歩み寄る。


「待って!」


 また仕掛けてくると不安になった柚乃が、アイテールの前にサッと移動し、両手を広げる。


「アイテールは何もしてないわ。あなたの妹を、殺したりも、人質に取ったりも!」

「?」


(人質にしたのも? いや、あの時、俺に任務を言い下した確かにアイテー…………ル?)


 秋葉は違和感を覚え、頭を抱える。


(あれ、アイテールって、どんな姿だっけ?)


 秋葉はアイテールに目を移すが――


(いや、確か神は人間の形してねえから見たって思い出すはずが――)


「あれ……おかしいな…………」


 秋葉はあることを思い出した。

 ウラノス戦にて窮地に落ちた際、駆けつけてくれた鋭太郎と荘夜。

 ポセイドンが、鋭太郎の武器を見てこう叫んだ。



――その武器、アイテール様愛用の木刀ですよ!



「…………」


(あのサイズの木刀を人外が扱うにはちっぽけすぎる。人型の神だったってならそれでいいんだが……妙だな。一度会ってるのに顔を思い出せねえ……)


「……そろそろ、気づいた頃かしら」


 秋葉の様子を悟った柚乃が口を開いた。



「あなた達は記憶違い――いいえ、記憶を改ざんされたのよ……エレボスに」





    ※



 隕石が落ち、街がざわつく中――

 鋭太郎は夏織を抱えながら、できるだけ人目につかない路地裏などを通って学校に向かっていた。


(隕石が落ちたにしちゃあ街の被害が少なすぎる。着地時に周辺の衝撃を抑えるエフェクトでもあの隕石に仕組んだんだろうな。衝撃で夏織を死なせちゃ元も子もない――ん?)


 鋭太郎は不意に足を止めた。


(なんであいつらは夏織を殺そうと思わないんだ? どうせ連れ帰っても処刑されるに決まってる。いや、奴隷にするっていうなら話は違うが、それなら尚更夏織を渡すわけにはいかねえな)


「ぅ……鋭太郎……さん?」

「!?」


 一向に目が覚めなかった夏織が、今になって目を覚ました。

 夏織は寝ぼけながら辺りを見渡す。


「夏織!?」

「ここは……どこ? 何をして――」

「悪い、説明は後だ! 今は学校に向かう!」


 鋭太郎が再び走り出す。

 目覚めない夏織を柚乃に診てもらうことから、皆と合流する目的に変わったが、学校に向かうことに変わりはなかった。


(連絡手段がない以上、皆が知ってる学校に向かうのがベストだな)


「…………」

「夏織、体の調子はどうだ? いいわけないとは思ってるが……」

「…………」


 鋭太郎が尋ねているが、夏織は言葉を返さずに、空を見ていた。


「夏織?」

「落ちてくる…………」

「はいぃ!? ってまさか――」


 察した鋭太郎が空を確認しようとしたときには遅く、隕石は街に落ちた。


「ぐっ!!」


 落下の衝撃で街が揺れる。

 鋭太郎は身を屈め、地震に耐える。


「ちぃ! 急いで合流しないと!」


 鋭太郎は路地裏を走り抜ける。



   ※



「…………ッ」


 森の中――

 横たわっていた荘夜が目を覚ます。


「僕は…………ぐはッ!!」


 重い体を起こすと、体が痛み、思わず血を吐いた。


「!?」


 荘夜は自分の刀が腹部に刺さった自身の体を見て、思い出した。


 荘夜は銀髪の男に不意打ちを仕掛け、刀で首を貫こうとした。

 しかし、紙一重のところで、何故か刀が何の予兆もなく消失。

 荘夜に気づいた男は、刀を取り出し、勢いよく荘夜に突き刺した。

 その刀は、荘夜のものだった。


「くッ……早く、お義兄さん達に知らせなくては――うぐっ!!」


 荘夜は立ち上がろうとするも、痛みで思うようにいかなかった。


「くそっ!! どうして僕は……ここまで弱いんだ! 努力はしてる! してるつもりさ! なのになぜ、力が手に入らないんだ!! 姉さんみたいに強くなれなくていいさ! せめて……足でまといにならない力を――!!」


『本当に、その程度でいいのか?』


「――!?」








 ――荘夜の姿は、もう森から消え去っていた。


 ――この街からも。


 ――文月市からも。





 この――荘夜の失踪こそが、この先起こる戦争の、『真の引き金』になるとは――



 誰も、知る由もなかった…………


 風邪をひいてしまい、更新が一日遅れとなってしまいました。すみません!

 また、別作の「その探偵、問題児につき」を久しく更新しましたので、そちらの方もよろしくお願いします!

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