第三話 恋する少女を助ける者 その2
「…………」
「…………」
一校時目の真っ只中――
恋侍と夏織は授業をサボり、屋上にいた。
「……わりい、まさか鋭太郎がお前の存在すらわからなかったことに気づかなくて」
「別に……鋭太郎さんが噂話なんて流す人だってことぐらいは把握済みよ」
「とりあえず、きっかけは作れたな。一度関われただけでも少しは楽になるぜ」
「次はどうするつもり?」
「んー、次は――――」
昼休み――
「恋侍、今日は――いや、今日も彼女となんだろ…………?」
鋭太郎が恋侍を昼に誘おうとしたが、彼女がいることを思い出した。
「いやー悪いね」
悪気なさそうに恋侍は教室を出る。
「…………」
教室の扉のすぐ近くで夏織が待っていた。
「緊張すんなって、頑張れよ」
恋侍は流れるよう夏織から離れ、遠くで様子を見ることにした。
「さすがの鋭太郎でも昼の誘いを断るアホなことしねえと思うが」
すると、鋭太郎が手に弁当を持ち教室を出た。
案の定、早々に待機していた夏織と目を合わせ動揺する。
「!」
「!?」
鋭太郎はビクッと驚いた程度だったが、夏織は緊張で顔を赤くし、思わず後退りする。
(頑張れよー、これさえ乗り越えられりゃレーンに乗ったも同然だからな)
「え……えと………………あの……」
「先輩、あの時はすみません!」
「…………え?」
鋭太郎が頭を下げ、謝った。夏織は唖然とし目を丸くする。
「……やっぱり、機嫌を損ねたと思われるので一応謝っておこうと」
(律儀やなー、俺にはぜってぇあんなことしねーぞ! 別に謝って欲しいことないけど)
「いえいえ! その必要はありません!」
(あいつ緊張しすぎやん! 敬語になってるやん!)
「それより、あの……一緒に…………」
夏織は顔を逸らし、右手に持っていた弁当を震えながらに胸まであげる。
「え!? えっと、つまり…………」
一緒に食べたいという夏織の想いを鋭太郎は察せた
(よーし! あとはそのまま流れるように――あっ)
ここまで順調に事が運び、思わず喜ぶ恋侍であったが、ここに来て最大のミスに気づいた。
――夏織は、学園のマドンナ的存在であることに。
事に気づいた他の生徒たちが、二人を囲むように集まってくる。
「あちゃー…………」
(俺も慣れねえなぁ……『あっち』の夏織は注目が集まっても人気はなかったからなぁ)
自分の失敗に恋侍は頭を抱える。
気がつけば野次馬の数は二クラス以上になっており、鋭太郎への嫉妬、罵倒の声が絶え間なく飛んでくる。
「………………ごめん! また今度!!」
気苦しくなった鋭太郎は、野次馬を切り抜けて、この場を逃げ去る。
(って、お前が逃げるのかーい!)
予想外の出来事に恋侍はズゴーっと古臭いリアクションで倒れる。
「待って!」
夏織は止めようと声を出し手を伸ばすも、その想いは届かず鋭太郎は階段を駆け上がる。
夏織はその姿を悲しげな目で見送った。
「一体どうしたんだ? あんな奴をお昼に誘うなんて、何かの罰ゲ――」
空気を読まない上、鋭太郎を馬鹿にしたバスケ部部長の日村の発言を聞き逃さなかった夏織は、胸倉を強く掴み睨み付ける。
「鋭太郎さんがなんだって? あぁ? もっかい言ってみろ……!」
夏織は周りに聞こえない程度で言った。とはいえ、この状態を見て驚かない者はいないだろう。
「は、はい……すんません…………」
日村は怯えながら言うと、夏織は彼を離し野次馬を抜けて階段を降りた。
「わりい、あれは俺のミスだ!」
「…………」
時刻はまだ一時過ぎ――
恋侍は夏織を連れ戻し、誰もいない屋上にやってきた。
「俺は存在消せるもんだからつい!」
「別に……怒ってないわよ」
「そう思ってるなら腹を殴るのをやめろ――やめてくれ! やめてくださいお願いします! お願いします夏織様!」
まだ怒りが残っている夏織は、腹いせに恋侍の腹部を連打する。
恋侍の腹部は砕け肉片が飛び散り、上半身と下半身が別れた。下半身が後ろに吹き飛び、上半身はだるま落としのように地面に落ちた。
「ここまでくると自己再生に時間がかかるな。下半身取ってくんね?」
「……下半身取れとか、セクハラだわ」
「なんでや! お前がやったんだから仕方ねえだろ!」
「ちっ」
夏織は舌打ちをするも、大人しく従い恋侍の下半身を片手で取り、引きずって本人の元へ返す。
「もっと丁寧に扱えよ!」
恋侍は上半身を仰向けに倒し、自分で下半身をちぎれた断面に当てると、みるみる内にくっつき元の状態に戻った。
「どうして服も再生するのかしら?」
「こうなること前提で、入学当初から制服に再生魔術を仕組んであるだけだ。こっちからも言わせてもらうが、その威圧的な口調なんとかした方がいいぞ。鋭太郎の前でボロがでたらドン引きされるかもしれんぞ。しないと思うけど万が一な」
恋侍は立ち上がりながら言った。
「今回は失敗したが、鋭太郎に好印象を与えられたから十分だ。次はお待ちかねの放課後――」
「ごめんなさい」
「?」
夏織が突然謝ったかと思うと、一枚の手紙を出した。
「あっ、なるほど」
恋侍は瞬時にラブレターであることを察した。
「サッカー部の山本とか言う奴からよ。無視してもいいんだけど、それじゃ『夏織』としての面目が潰れるから、手短に行ってくるわ。でも、鋭太郎さんを待たせる訳にはいかないから、今日は普通に帰らせていいわ」
四時過ぎ――下校時刻。
「…………」
「鋭太郎、何俺のこと新鮮な汚物を見るような目で見つめているんだ?」
「汚物に新鮮とか関係ないだろ!! ……どうせ彼女と帰るんだろ」
「ザッツライト!」
「はいはい俺はぼっちで帰りますよっと」
鋭太郎は一人教室を出る。
(一緒に帰っても良かったが、あくまで彼女がいることにしなくてはバレてしまう)
少し経った後で恋侍も教室を抜け、校舎から去ろうとした。
「恋侍くん」
「?」
柚乃に呼び止められ、足を止め振り向く。
「ちょっといいかしら」
「ウィッス」
「いつもありがとう。鋭太郎くんのこと」
「幼馴染みですし、当然のことっすよ」
恋侍は、放課後は人目につかない物理室に連れて来られた。
「夏織さんの方はどうかしら?」
「意外と順調っすよ。上手くいけば今週中には交際できそうだ」
「それはよかったわ」
「……先生は認めてるってことですよね? 夏織が鋭太郎と付き合うこと」
「えぇ、その方が鋭太郎くんも幸せになれると思うわ。彼女がいるのといないとじゃ、人生も変わってくるものよ。私が……あの子を放してなければ…………もっと幸せに――」
「あれはしゃーないっすよ。むしろあのまま抱えてたらアイテールごと重傷を負ってたかもしれないし――いや、絶対死んでたわ。あのままだと」
「…………」
「そう自分を責めないで欲しいっす。まだ罪滅ぼしはできまっせ。あっ、俺そろそろ夏織のところ行くので失礼しまーす!」
恋侍は物理室を後にしようとする。
「あなたも…………自分を責めない方が、エロスも安心するわよ」
「…………」
恋侍は無言で帰った。
グダグダな過去編続きですみません。
もうしばらくこのような話が続きます。
今後ともよろしくお願いします。




