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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第二章 愚かな英雄
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第九話 作戦

「くっ……!」


 鋭太郎は必死に走っていた。

 暴風雨によってできた流水の道を、流れに負けずに走っていた。

 以前の鋭太郎なら押し負けて流されているだろう。今の鋭太郎は負けるどころか、まるで水が彼を避けるように楽々と走れていた。


(そういやどこにいるか聞いてなかったな…………どうしよ)


「おはようございます」

「おう…………んぅ!?」


 誰かの挨拶に鋭太郎は驚き、声がした後ろを向く。


「なんだ、お前か」


 後ろにいたのは、好きなアニメを見たいがために遅れてきた荘夜だった。


「そちらは学校と反対方向ですが、どちらに?」

「秋葉がウラノスと戦ってるみたいだ。助けに行く」


 鋭太郎は言うと、再び走り始める。


「待って下さい。単に突っ込むだけでは勝機はありません」


 荘夜がそう言い止めると、鋭太郎の足が止まる。


「ウラノスはクロノスより下ではありますが、この人間世界ではウラノスの方が圧倒的に上です」

「…………!?」


(クロノスより!? 時間停止に勝る者など考えられはしないが…………!)


「人間世界は今、様々な環境問題を抱えているようですが、神世界よりは断然増しです。もとい、雲がない晴天が見られる時点で明確かと」

「……つまり、神世界の時よりも気候を操れると」

「その通りです。言うまでもありませんが、この暴風雨はウラノスの【ケイパビリティー】によるもの。この程度なら神世界でも可能ですが……まだこの上がありそうです」

「…………」


 鋭太郎は考える。


(考えてみりゃそうだな。ウラノスの能力は使い方次第で射程距離無限の殺人マシーンになる。不意打ちを考えてなくはないが……そういうのはイマイチ成功しないし――)

「お義兄さん、ここで話すのもぎこちないので、上がりましょう」


 荘夜は高く跳躍し、近くの建物の屋上に立った。

 それを見た鋭太郎は戸惑う。


「んな、上がるっておま――」

「大丈夫です。何も考えなくても普通にできますよ」

「って言われてもな……」


 鋭太郎はやってみるだけと思い、両足に力を入れ、跳躍する。

 鋭太郎は荘夜が上がった建物よりも遥かに高く飛び上がった。


「うおぉわ!?」


 鋭太郎は慌てながらも荘夜のいる屋上に着地できた。


「そこまで飛べれば、後は慣れるだけですよ」

「……慣れる気がしない」

「さて、話を戻します。アキレスを助けに行くに当たっては、やはり不意打ちしかないですね」

「それが上手くいく案が思いつけば苦労しないが……」

「大丈夫ですよ。僕は絶好調ですから」

「いや、お前が良くてもって……んん!?」


 荘夜が突然鋭太郎の前から消えたかと思うと、後ろに回りこんでいた。


「いきなり移動すんな――ん? 待て、今の瞬間移動だよな?」

「はい。僕の【ケイパビリティー】は影を自在に操れ、中に潜って別の影に移動することも可能です。もちろん光に当たるところは不可能ですが」

「それ自在に操れる意味が――いや、場合によっては強いのか」

「はい。この天候のおかげで今日は無双できますよ」


(目の前にも射程距離無限のアサシンがいる。条件付きだけど)


「その能力を使えばほぼ確実に不意打ちは成功するとみていいが……肝心の秋葉の場所がわからないんだよなぁ……」

「大丈夫ですよ。既に秋葉の影と正体不明の二人の影を探知しました」

「マジか!? 万能だなおい!」


(二人の影……ウラノス以外の――つまりポセイドンが既にあっちにいるってことか。急がないとマズいな)


 鋭太郎が焦り始めると、ウラノスが手を握ってくる。


「っ!」

「近くに移動します。手を離さないでください」


 そう言うと荘夜は地面の中に沈むように影の中へ。鋭太郎を連れて。


「うぉおおおおおお!! ……あれ?」


 飲み込まれる勢いに思わず目を瞑った鋭太郎。次に目を開いたときにはもう別の場所へと移動していた。

 何処かのビルの屋上である。


「ここは…………っ!?」


 鋭太郎が辺りを見渡していると、近くの路上で倒れている秋葉と、その近くで立っているウラノスとポセイドンの姿を確認した。


「あいつ! 左腕が!」

「仕掛けますか?」

「いやまだだ!」


 鋭太郎は下の様子を見て考える。


「…………なあ荘夜」

「何ですか?」




「影になってる場所ならどこにいても能力使えるんだよな?」




   ※



「がはぁ!!」


 大剣が秋葉の体を貫き、彼は血を吐き出す。


「遅かったじゃないか……ポセイドン」


 ウラノスは秋葉を貫いた人物の名を口にした。


「危ないところでしたよ」


 ポセイドンは大剣を抜き、ウラノスに近づくと彼の右腕に左手をかざす。


「海<リウィンド・ヒール>」


 ポセイドンがエフェクトを唱えると、ウラノスの右腕が元に戻る。


「サンキュー」

「全く、あなたはよく大怪我するんですから、いい加減に回復エフェクト覚えてください」

「えー、これ以上エフェクト覚えたら頭パンクするから勘弁」

「いや、指の数しか覚えてないですよね? しかもどれも【ケイパビリティー】を応用しただけの――って、こんな論争してる場合ではなかったですね」


 ポセイドンが秋葉の方を振り向き言った。


「ちぃ……!」


 全身から夥しいほどの血が流れる。いつ死んでもおかしくない状態であった。


「散々コケにしてくれたねぇ…………どうしてくれるか」


 ウラノスがあざ笑いながら秋葉に歩み寄ろうとすると、ポセイドンが制止に入る。


「少しは警戒することを覚えてください。彼の武器は何にでも変化できるなら尚更です」

「んなこと言われても……てかそれ知ってるって事は見てたのかよ! ……まぁいいや、オレはちょっくらガイアの迎えに行ってくるから、始末はよろしく」


「っ!?」


 ウラノスは学校方向に跳躍する。


「させるかよ!!」


 秋葉は最後の力を振り絞って『ライフル』を構え、ウラノスを狙い撃とうとする。しかし、ポセイドンがさせまいと秋葉の右腕を大剣で切断した。


「ばふぁっ!!」


 秋葉は強烈な痛みを伴い、横に倒れる。


(畜生……こんなところで……)


「フッ…………」


 ウラノスは飛んでいる中秋葉を見て、勝ち誇ったように鼻で笑う。


「っ!」


 突然、ウラノスの体が何かに引っかかるように宙で止まった。左足首に違和感を感じたウラノスは確認すると、黒い影のような紐が、地上から飛び出し足に絡んでいた。


「これは――!」


 ウラノスが何かに感づいていると、黒い紐がしなり、ウラノスを地面に叩きつけた。


「いってぇ……」


 ウラノスが痛そうに頭を抱える。


「大丈夫ですか!」


 ポセイドンは急いでウラノスの元へ駆け寄る。


「あぁ、平気平気」


 ウラノスが頭を掻きながら立ち上がると、遠くから何かが迫ってくる振動と騒音が徐々に聞こえ大きくなる。


「っ!?」


 ウラノスたちの前方から、百メートルはある黒い津波が迫ってきた。


「くっ、こうなったら――」

「まあ落ち着けって」


 何か策を打とうとするポセイドンに対し、ウラノスは制止し、冷静に指を鳴らす。

 するとなんと、暴風雨が嘘のように消え、青い晴天が姿を見せる。

それと同時に、黒い津波も何事もなかったかのように消えた。理由はわからないが、この津波で破壊されたものは何一つなかった。


「まあ、どこかには隠れてるとは思ったけどね、ニュクス」

「っ!?」


 ウラノスが出した名に、ポセイドンは驚き辺りを見る。しかし、荘夜の姿も、気配もなかった。


「あれ? 気のせいだった? それとも晴れるのが想定外で思わず逃げちゃったとか?」


 ウラノスが荘夜をおびき出すため、大声で煽るように言った。

 それでも荘夜がこの場に姿を現すことはなかった。


「――まあいっか。とりあえず、オレは学校に行ってくるから、後はよろ」


 ウラノスがそう言うと、再び宙に飛び、学校へ向かった。


「くそっ…………!」


 秋葉は両足だけで立とうとするが、痛みがそれを妨害し、ただ地面に這いつくばるしかできなかった。


「…………」


 ポセイドンはゆっくりと秋葉に近づく。その眼差しはなぜか悲しげだった。


「……俺にも、妹がいます。もし、誰かに殺されてしまうことがあったら、あなたと同様――相手が大物であろうと復讐を誓うでしょう。アキレス、あなたのおかげで裏切ったら身内の人間が殺されることを知りました。俺も、妹を守るために……あなたを殺します」


 ポセイドンは大剣を振り下ろし、秋葉にトドメを刺そうとした。


「!?」


 その時――後ろから何者かが襲ってくる気配を感じた。ポセイドンは振り下ろすのを止め、後ろを向くと自分の影から荘夜が現れ、刀でポセイドンの体を貫こうとしていた。

 ポセイドンは右に回転しながら大剣を横に振る。荘夜は瞬時に攻撃をやめ、後ろに後退して距離を置いた。


「久しぶりだな、ポセイ」

「このような形で親友と再会してしまうとは……残念です」

「僕もだ。だが、姉さんを狙っているのであれば、相手がお前であろうと斬り倒すのみ!」


 荘夜は刀を構え、突進しポセイドンとの距離を一気に縮める。ポセイドンは対抗しようと大剣を両手で持ち、向かってくる荘夜に合わせて振り下ろす。

 腕力に関係なく、大剣であれば刀など容易くへし折れる。ポセイドンにとってこの状況、負けるはずがなかった。


 ――何かを練られていないならの話であるが。


「何っ!?」


 突然、何かによる攻撃によって、大剣が横に弾かれた。

 迫り来る荘夜の前方にできている影から、なんの予兆もなく鋭太郎が飛び出し、木刀で大剣を払ったのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 鋭太郎は勢いに身を任せ、木刀でポセイドンの左肩を叩く。


「うぐっ!!」


 攻撃を受けたポセイドンは右に距離を置き、左肩を痛そうに抑える。


「上手くいきましたね」

「あぁ、ほぼ運任せの作戦だったが、ここまでいくとは思わなかった」


(影の中暗く何もなくて怖かったなんて言えない)


 作戦の内容はこうである。



・ウラノスかポセイドン、どちらかが分裂しそうになるまで待つ。確率としてはウラノスが学校に向かう方が高い。


・分裂しかけたのならそれを荘夜の能力で制止し、巨大な攻撃を仕掛けて自分がいることをわざと教える。


・当然、荘夜の能力とバレればウラノスは即行で雲を晴らし、おびき出すであろうが、あえてここで動かない。


・諦めたのならばすぐにその場を去るが、ここはあえて止めない。


・ポセイドンがアキレスにトドメを刺すところで奇襲、ここで失敗しても構わない(というより失敗前提)


・奇襲に応じて成功失敗関係なしに鋭太郎が影から登場し、不意打ちをする。


・ポセイドンが距離を置いたところで荘夜がエフェクトを使い、秋葉を学校に送る。


・学校に送れれば後は柚乃が治療し、ウラノスに不意打ちを仕掛けられるだろう。



 と、作戦にしては雑であるが、今のところ順調である。


「お義兄さん、どうしてウラノスが場を離れると?」


「学校にはガイアがいる。どうせ『もの』としか見てないだろうけど一応自分が愛した女だ。万が一手にかけることになったら他の男にさせたくないって話だろ」


「では、アキレスにトドメを刺す前に分裂すると思ったのは?」


「ポセイドンは学校に来てない。とはいえ影で秋葉の様子を伺ってたのであれば、ガイアを学校に送る隙を与えないだろう。つまり、別の仕事を任せてたって判断できる。まあ確定ではないけど。そう考えると、ポセイドンは、秋葉を始末した後、別件に戻るためウラノスとは別行動になる。ウラノスは一刻も早くガイアに会いたがってると思ってるから、ポセイドンに任せてこの場を去ったのだろう。あいつを信頼しての行動だな」


「なるほど……」


「おい……説明してる、場合かよ……!」


 鋭太郎が長々しく説明していると、秋葉がツッコむように言った。


「あー、わりい――っておい、あんときより酷くなってるじゃねえか! 大丈夫か!」


(なんでこの傷で生きてられるんだよ! 早く学校に送ってやらないと!)


「大丈夫なわけ――おい、なんだよそれ……」


 秋葉は目の色を変えて鋭太郎の『何か』を見ていた。


「うぇっ!? 俺の体におかしいとこあったりする!?」


 鋭太郎は焦りながら自分の体を見回すが、特におかしいところはなかった。


「お義兄さん……その木刀……どこで…………?」

「ん? これ? 先生から貰ったもんだが……何かマズかった?」


 荘夜も驚いた顔をするため、鋭太郎は戸惑い始める。


(この木刀、特殊なのか? いや、神世界の物だからそれは当然だと思うけど……)


「っ!! 確か、鋭太郎だったな」


 ポセイドンも驚いて、鋭太郎に尋ねる。


「おう、そうだが」




「その武器、アイテール様愛用の木刀ですよ!」






 遅れてしまい、本当にすみません。

 いつもこのような調子ながら、愛読してる方々に感謝してもしきれないです!

 今週は年末年始となりますが、通常通り更新する予定です。(なろう初心者なので、年末年始に投稿できるかとかについてはイマイチわかりませんが、その時はすみません)

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