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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第二章 愚かな英雄
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第二話 英雄の憂鬱

 とある教会。

 そこではある『人』の結婚式が行われていた。


「…………」


 秋葉は悲しげな目で見ていた。

 華々しく美しいウェディングドレス姿のガイア。

 彼女と末永く結ばれる結婚相手は秋葉――――ではない別の男。

 二人は壇上で、目を合わせている。


「では、誓いのキスを――」


 神父が言うと、男はガイアのベールをあげ、誓いのキスを――





「ふざけんじゃねえ!!!」





 遠く離れた椅子に座っていた秋葉は突然声をあげ、立ち上がる。

 秋葉は男に向けて拳を強く出す。

 当然、拳は男に届きはしないが前に出した衝撃波によって、男の体に大きな風穴を空かせた。


「ガイアが他の奴と結婚だぁ? そんなこと、数多の神が許しても俺は許さねえからな!」


 秋葉が言い張ると、ガイアが呆れた顔でため息を吐く。


「はぁ…………あんた何様のつもり? 言っとくけど僕、アキレスのこと好きになった覚えはないよ。幼馴染みだからって僕のあれこれ決めないでくれる?」

「っ! だが俺は、お前を必ず――」



「お兄ちゃん」



「!?」


 秋葉は自分を兄と呼ぶ声に反応し、周りを見る。

 すぐ隣に、死んだはずの妹が立っていた。


「アキナス!? 無事だったのか? どうやってこの世界に――」

「お兄ちゃんじゃ、ガイアお姉ちゃんを守ることはできないよ」

「ぇ…………?」


 妹アキナスの否定に、秋葉は動揺する。

 

「どうして……!?」

「なぜって、だってお兄ちゃん――」

 突然、アキナスの口、目、鼻から血が溢れてくる。

 よく見ると体全体に切り傷、紫色の大きな痣、餅のように膨れあがった腫れ物ができていた。

 腹からは胃、腸などの内臓が飛びでて、床に落ちていく。






「私のことも守れないお兄ちゃんが、お姉ちゃんを守れるわけないじゃん」




   ◆




「うわあぁぁぁ!!」


 秋葉が叫び声をあげると、見える景色が一変した。

 一軒家のリビング。秋葉は布団で寝かされていた。


「…………」


 秋葉はさっきまでの出来事を夢であると悟り、体を起こしては辺りを見渡した。


「ここぁどこだ? 普通の家……にしては窓がない」


 すると時計に目が行く。針は丁度七時を指していた。しかし、それだけでは午前か午後か分からなかった。秋葉は机に置いてあったリモコンを手に取り、テレビを点ける。


『午前七時になりました、ニュースをお送りします。昨日午後四時頃、暦島こよみじま県文月市にて、マンションの一室が爆発する事故がありました――』


「げっ、もう朝なのか。それより俺はなんでここに…………」


 秋葉が考えていると、扉が開き誰かが入ってくる。


「…………起きたか、アキレス」


 入ってきたのは荘夜。料理ができない夏織のためにいつも朝早く起きて朝食を作っている。


「ニュクス? 俺は一体……?」


 秋葉が戸惑いながら訊ねる。

 荘夜は朝食を作りながら受け答えする。


「あぁ、お前は昨日僕たちの隠れ家に居候しに来たんだが、無理矢理トラップを突破するもんだから途中で気を失ったんだ。袋叩きにしても、アキレスの黒歴史とガイアの秘密を暴露しても起きなかったから仕方なくそこで眠ってもらった」

「おい! もっとまともな起こし方はなかったのか!? 俺の黒歴史ってなんだよ!」

「寝ているガイアを盗撮したそうじゃないか」

「はぁ!?」

「ってお義兄さんが――」

「鋭太郎のやつか! あの野郎、言っていいことと悪いことの判断はできるだろ!」

「否定はしないのか」

「…………」


 秋葉は何も返す言葉がなかった。秋葉は気になった話を口にする。


「なあ、ひとついいか? ガイアの秘密ってなんだ?」

「教えて欲しいか?」

「あぁ頼む!」

「断る」

「なんでだよ!」

「知らない方が身のためだ」

「聞かなきゃわかんねえだろ!」

「そうか、そこまで言うなら――」






「……………………んぅ」


 個室――

 眠っていた鋭太郎が、照明の光に照らされ目を覚ます。

 窓がないためもあり、朝の時間帯になると自動的に電気が点くようになっている。


 アキレスが気絶した後の出来事だが、あの後アキレスは一向に目が覚める気配がなかった。夏織は夕飯時に目が覚めた。放置するもの気が引けると思った三人はあらゆる方法で起こそうとしたが、結局目覚めず。仕方なくアキレスをリビングで寝かせたまま、三人は就寝した。


「朝か…………窓がないせいで自覚が――ん?」


 鋭太郎は体を起こそうとすると、何者かに抱きつかれている感覚に気づく。

 左を向くと、気持ちよさそうに寝ている夏織が、鋭太郎の体に抱きついているのが見えた。

 自室にベットがなかった鋭太郎は半ば強制的に夏織と寝たのだ。

 左腕に当たっている胸の感触が、鋭太郎の性欲をかき回す。


「…………っ!」


 鋭太郎は生唾を飲む。

 過去に二回ほど異性に告白している彼なら、無論人並みの性欲があってもおかしくないことである。

 鋭太郎は夏織の顔を覗く。ぐっすりと寝ており、少しくらい触っても起きなさそうだった。


「っ! 何考えてんだ! 付き合っているとはいえダメだ!」


 鋭太郎は性欲を抑え、起き上がりベットから離れ立つ。


「……クソ親父みたいになるくらいなら、俺は子供を作らん」


(それなのに性欲がある。矛盾してるよな…………)


「っておい」


 鋭太郎は現在普通に立っている。それなのに夏織が抱きついたまま離れない。

 足が宙に浮き、頭を鋭太郎の肩に乗せた状態で寝息を立てている。


「おーい」


 鋭太郎は夏織の頬をつつく。反応なし。


「…………」


 脇をくすぐる。反応なし。

 額にデコピン。反応なし。

 胸を――


「バカヤロウ! セクハラやめい!」


 鋭太郎は壁を殴ることでなんとか抑えた。


(どうすれば起きるってんだ? 逆にここまできたら既に起きてましたパターンか?)


 鋭太郎は夏織を起こす案を考える。


(恥ずかしいが、試すしかないな)

 思いついた鋭太郎は、夏織の耳元に口を近づけ、吐息混じりで囁くように言う。



「朝だぞ、起きて」




 ……………………




「起きない…………恥ずかしい思いしただけじゃねえか! どうやったら起きるんだこいつは!!」


 鋭太郎は一人虚しく、恥ずかしい思いをした。


(待てよ、普段から一緒に暮らしている荘夜なら起こせるんじゃないか?)


 鋭太郎は夏織を抱きつかせた状態のまま部屋を出て、リビングに足を運んだ。


「荘夜、いるか?」


 鋭太郎はリビングに入ると、椅子に座ってくつろいでいる荘夜の姿が目に入る。


「おはようございます」

「おはよう。早速で悪いんだが、夏織を起こしてくれないか?」


 鋭太郎は抱きついている夏織を指差し言った。

 荘夜は時計を見、対応する。


「そのまま放置しても大丈夫ですよ」

「えっ?」

「もうそろそろ起きると思います」

「なぜに?」


 鋭太郎が疑問に思っていると、決まったように夏織が目を覚ます。


「うぅ…………」

「うそだろおい……」

「あっ、おはようございます。鋭太郎さん」

「お、おう…………おはよう」


 夏織は何事もなかったかのように鋭太郎から離れ、椅子に座る。


「すみません。姉さんは決まった時間ピッタリに起きるものでして」


 荘夜が言うと、それを確認するように鋭太郎は時計を見る。

 針は丁度八時を指している。


「そりゃすげえな」


(とはいえ決まった時間にしか起きられないってことは、緊急時とかやばいんじゃないか?)


 鋭太郎が思っていると、机に四人分の朝食が置かれる。


「できたぞ」


 秋葉が、全員分の朝食を作ったのだ。


「おう、サンキュ」


 鋭太郎は惹かれるように椅子に座った。


「朝食を作ってやったぞ。約束は守って貰おうか」

「あぁ」


 荘夜は立ち上がり、秋葉の耳元で言う。



「ガイアの彼氏だが、天空神ウラノスだ」



「…………は? あんなチャラ男と?」


 受け入れがたい真実に、数秒の間が空いた後、秋葉は聞き直した。


「あぁ、生憎事実だ。神世界にいた頃からな。僕たちが神世界に行く二年前くらいから」

「…………」


 秋葉は膝を落とし、死んだ魚のような目で上を見る。

 荘夜は平然と椅子に戻る。


(あの様子だと相当嫌なこと言われたみたいだな)


 鋭太郎は心配しながらも、朝食に手をつける。



   ※



 文月学園高等部校舎、三階一年A組教室。


「ごめんね、今日は休みだって言うのに」


 鋭太郎たちとその担任である柚乃がいた。

 柚乃は教卓の後ろに立ち、鋭太郎たちは並んで一番前の席に座っていた。


「大丈夫ですよ」

「手短にお願いするわ」

「よろしくお願いします」

「…………」

「どうしたの? 元気ないみたいだけど」


 不良というレッテルを貼られた秋葉が無愛想で言葉を返さないことはいつものこと。

 しかし、光を遮断しているように暗い目付きで、上の空を見ている秋葉だったため柚乃は心配した。


「大丈夫です、少し経てばいつもの様になりますよ」


(さらっと言ってるけどなぁ荘夜! お前のせいだろ!)


「そう…………では、話を始めましょう」


(放置するのかよ!)


「まずは改めて、私たちのことについて話すわね。私はローマ神族のユーノーです。普通に柚乃で構わないわ」

「ローマ神族…………つまり、夏織たちはギリシャ神族ってことですか?」

「その通りよ。この人間世界で言う神話の名前から取ってるわ。内容は、私たちにとってはほぼ無縁だけれど」


(今度改めて神話について勉強し直すか。今後出てくる敵を予測できるかもしれない)


「自分で言うのも恥ずかしいものですが、ローマ神族最高位の女神です。ちなみに夫がいます」

「その夫ってもしかしてユピテルですかね?」

「ん? ユピテル?」


 柚乃が初めて耳にしたような顔をした。


(あれ? いないのか?)


「そんな聞くだけで耳が腐りそうな名前の方なんて知らないわ」

「何があったんだよ!!」


 柚乃の毒舌に、鋭太郎は敬語を忘れてツッコミを入れた。


「あっ、神話では私の夫になってましたね。残念ですが、そうじゃないんです。それに、あんな女誑しのクソ野郎と結婚するくらいなら、女は中身だとか言っておきながら美女に少しでも褒められたら発情する童貞キモ豚野郎と結婚した方がマシなものね」


 柚乃が優しい口調で、笑顔で言った。内容は物騒であるが。


(そっちの世界のユピテルってそこまでダメな奴なのか!?)


「じゃあ、誰と結婚したんですか?」

「ごめんなさい。それは誰にも教えられないわ」

「いえ、無理に言う必要は」


(気になるが…………今知ったところで何にもならないもんな)


「私はこのくらいでいいかしら。他のみんなも、自己紹介したら?」

「私は一度したわ」

「僕は、ニュクスで夜の神というくらいで何も……」

「…………」

「そう、なら私が紹介するって形でいいかしら?」

「好きにどうぞ」

「まかせます」

「…………」


(待てよ、紹介するのはいいがこれ、第二章前にあった人物紹介の意味が消えちまうんじゃねえか?)


「大丈夫よ。差別化はしてるつもりだから」

「うぉお! 人の心勝手に読むんじゃない!」




「まずは薊夏織さん。混沌の神カオス。神世界の中でもかなり優秀で、アイテールなどの上位の神からも一目置かれていたわ。でも自由爛漫で、任務を拒否、放棄することが多かったわ」


(まあ、今までの様子からなんとなく想像つくな)


「その罰として、人間世界の観察を任されたときに、あなたを見つけたの。厳しい現実と必死に戦っているあなたを見て、夏織は惚れたの。それから十年以上観察し続け、我慢できなくなった夏織さんは――」

「それ以上は言わないで! もう私のことはいいでしょ!」


 夏織が恥ずかしいように顔を赤くさせ、立ち上がり言った。


「そう? 鋭太郎くんにアピールするいい機会かと――」

「いいから!!」

「はいはい。わかったから」


 柚乃がこれ以上話さないことにすると、夏織は落ち着きを取り戻し座る。




「次は薊荘夜くん、夜の神ニュクス。神話と違って男で、夏織さんの弟ね。優秀さは姉譲りね、性格は対照的だけど。神世界でも女性に人気があったわ」

「やっぱイケメンはどこ行ってもモテるもんなんだな」

「ですが寄ってくるのはメス豚どもですから」

「めっさ失礼だな! モテない男が聞いたら激怒するだろうな!」

「荘夜くんは一流の暗殺者で、様々な実績を残してるわ。そのため通常の戦闘では力負けすることが多いけど、許してあげてね」

「それ本人の前で言うか普通…………」

「事実ですので、お気にせず」




「最後は椿つばき秋葉くん」

「…………」


(すでに『少し』は経ったはずだが…………荘夜に何吹き込まれたんだ?)


「本名アキレス。ギリシャ神族のヒューマン。普通の人間ってことでいいわよ」


(人間に近いものって秋葉が以前言ってたが、英語にしただけじゃねえかよ! エフェクトの名前とかも全部英語だからなんとなくわかってたけど)


「一度神世界を救った英雄よ」

「ずっと気になってましたが、秋葉って具体的に何をしたんですか?」



「十年前…………神世界の秘密兵器ともいえるデウス・エクス・マキナが暴走したの」



(機械仕掛けの神。名前だけでも威圧を感じるな)


「デウスは神世界が外部から襲撃を受けた時の最終手段として作られたから、並の神はもちろん、上位の神でも歯が立たなかったわ。アイテールも、夏織さんも、私も」

「エフェクトも【ケイパビリティー】も無効化する仕掛けが施されていて、私たちの攻撃は無意味だったわ」


(全盛期の夏織でも無理だったのか)


「でもたった一人――エフェクトも【ケイパビリティー】も持たない、純粋な力を持つ秋葉くんだけは対抗できたの。そしてデウスを完全に破壊できた。勝ったのはマグレかも知れないと思われたけど、神でもないヒューマンが一人で倒したこともあり、秋葉くんは英雄として称えられるようになったわ」

「そんなことが…………」

「私から見れば、この中で未知数の鋭太郎くんを除けば一番強いと思うわ」

「そうね。私も一度は負けてるし」

「僕の刃も、アキレスにとっては蚊に刺される程度だった……」

「まじか」



「――その話、ちょっとちげぇ」



 秋葉がやっと口を開いた。目は虚ろなままであるが。


「デウスをやったのは俺一人だけじゃねえ…………ガイアもいた。ガイアがいなければ近づくことさえできなかっただろうな……あぁ、なんであんな奴のところへ……………………」


(あっ、どういうことかもう察せました、はい)


 秋葉の瞳からポロポロと雫が流れ落ちる。


 それを見た柚乃は、秋葉に近づき耳元に口を近づける。




「神奈さんは――ガイアは、あなたのこと今も好きに思ってるわよ」




「は…………!?」


 信じがたい――信じたいことを耳にした秋葉の瞳に光が差した。


「多分、あなたが想いを告げてくれないから、寂しくなって彼氏を作ったのよ。まだ間に合うと思うわ」


 柚乃が言うと、秋葉は立ち上がる。



「ちょっとコンビニ行ってくる」


「お、おう。どうぞ……」


 秋葉は全速力で教室を去って行った。


(何かあると皆よくコンビニに行くんだな)


「さて、紹介を終えたところで、本題に入るわ」


 柚乃は去って行った秋葉にお構いなく話をする。


「でもその前に、ちょっと空気が悪いわね。荘夜くん、窓開けてくれる?」

「わかりました」


 荘夜は立ち、近くの窓を開けた瞬間――




「うぐっ!!」




 鋭太郎が柚乃に投げ飛ばされ、窓から外に投げ飛ばされた。




「ちょっとだけ、試させてもらうわ」




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