トラックの運転手の話
作者の方々はどのペースで投稿しているのでしょうか?
読んでくれる人がいることさえが嬉しいです
「……そんなことが」
啓は、笑い混じりに言った。
ーー正直、あんなに躊躇なく行うなんて思ってもなかった……
「やっぱり、機械だから……?」
「まあでも、機械には心はないらしいし」
怖い。キカイって怖い。
「でもごめんな……危なかった?」
「大丈夫、身に起こったことは何もない」
ただ、恐かっただけ。死を恐れたんじゃなくて、啓が私に殺意を抱いたように感じたのが……とても恐かった。
それは、言わないことにした。
「大丈夫。ほら、この通り」
私は、一度くるりと回ってみせた。
そして、私はほら、と例の機械を握りつぶしてみせた。
途端に、白髪のヤツが姿を現わす。
誰にも傷がついていないことを知り、啓は微笑む。本当に嬉しい時は、こんな風に笑うことを、私は知っている。
「ごめん……説明、まだだったよね。その機械のことなんだけど……」
曇った顔を見せる啓。
「私の生活を手伝ってくれる機械の?」
そっと、聞いてみた。
「そう、その機械……レオは、あ、レオっていうんだ」
初めて知った……ずっと、機械機械言ってゴメンナサイ。
「レオ……ね。ごめん、これからはレオって呼ぶから、殺そうとするのは……」
「ごめん。……レオは、生活を手助けするために生まれ、主人の為に尽くす。だけど、誕生する前からレオ達の種族は人間を嫌っていたんだ」
優しく殺伐な啓の声は、私には少々重かった。
「……レオは、私を殺そうとしてるの?」
啓を挟んで三人。道路側にはレオが歩いている。
これも啓の優しさだと知る私。
「……うん、そう、レオは人間が嫌いだから、人間をすぐ殺そうとする。僕の場合は、……制御してるけど」
人間が嫌いなレオ。
ちらっと横顔をのぞく。
無表情に歩くレオは、機械じみてるな、と思う。
「そっか」
けど、レオにはレオの種族がある。
人間でなくとも、機械ではない。
もっとも、機械と呼んでしまったこともあるのだけれど……そこはほんとゴメンナサイ。
角を曲がるとき、急にトラックが姿を現した。速いスピードが私を襲う。
いつもなら、別段困ったことはないのだけれど、……不覚にも考え事にふけってしまい、トラックにも気づかない模様だ。
おかげで啓は叫ぶし、レオはトラックを止めようと跳ぶし……
ガシャがががーん。
また、余計なお世話を焼かせてしまった。
いつもいつも、啓には頭が上がらないと思っている。
「大丈夫!?ケガは!?」
その声は周囲の人をも黙らせる程の大声。
「……ごめん。啓こそ、喉潰れちゃうよ?」
ケロっと、笑ってみせる。
啓のこんな顔はみたくない。好きじゃない。
啓は、口を開いたが何を思ったのか、そっと閉じた。
それをみていたレオは、トラックの運転手に怯えられながらも、そっと二人に近づく。
それも無表情で、ただただ佇んでいるだけで。
ーーレオは、レオ達は、寂しい種族だ。
ーーこんなときにも無表情しかない。
無表情。無表情。無表情。
ーー何か、考え事をしているの?
ーー私、レオの声、まだ一度も聞いてない。
「レオ」
レオは、すっと自分を向く。
私は、くしゃくしゃにレオの白髪をかき乱す。
ただ、あまりに反応がなさすぎて、すぐに手を戻した。
「ごめん」
無表情が返ってくることは承知の上なのに、ホントに無表情が返ってくると凹む。ちょっと恥ずかしい。
けれど、レオが極々小さな小さな笑顔を返したのは、彼女が気づくことはできなかった。
啓を除いて。
トラックの運転手さんの後々のことは、深く考えたら負けです。