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一緒にワルツを踊るまで

ごめんなさい

作者: 幸花

 アラームより先に起きたのはいつ振りだろう、寝ぼけた頭じゃ思考回路なんて幼稚園児以下だ。数秒で考えることを放棄した。

 ああそういえば、昨夜は酔いつぶれてソファーで寝てしまったのだった、昨日のままの服と暖かな毛布で昨日の記憶が蘇ってくる。

 ふと周りを見ると、友達、もとい犠牲者はどこにもいない。シャワーでも浴びているのだろうか。ならば好都合。見慣れたタバコの箱を取り出し、パキッと先端を噛んで火をつけたら大きく吸う、初めのころ感じた煙が体の中を通り過ぎるいやな感覚も慣れてしまえば快感になり、今ではなくてはならないものになってしまった。それはまるでどろどろとした感情も流れて、通り過ぎて、心地よい感情だけ残っていけばいいという願望かもしれないが。

 いつから間違っていたのだろう、もしかしたら最初から間違っていたのかもしれない。なるほど、始まりが肝心というのはあながち間違っていないようだ。きっと間違っていなければこんなに悩むこともなかったであろう。


「体に毒デスヨ」


 ワザとらしい敬語とともに後ろから現れた相手は嫌悪感を隠すことなく思いっきり顔をしかめた。髪は寝起きのためかぼさぼさでTシャツはよれよれだ。


「オハヨ」

「未成年の喫煙は法律で禁止されてマス」

「いまさら何を仰っているのですか?」


 またタバコを吸う。女性がよく吸う細いタバコは自分には合わず普通のメンソールのタバコ、スーッとする感覚がいっそいとおしい。

 すると口からタバコをとって灰皿に押し付けられた、こいつは悪魔かもしれない。


「死にたいの?」


 タバコひとつで大げさだなあと笑い飛ばしたかったし、突然の行動に怒鳴りたくなったが、その顔は真剣そのもので次の言葉がうまく出てこなかった。大げさに言ってしまえば声の出し方を忘れてしまったようにすら思えた。

 

「なんで泣くのさ」


 なんだか頬にぬるい感覚があると思って触れてみると確かに泣いている。するとブワッっと他人のにおいが来た。自分より大きな背中が近くにあって、思っていたよりずっときれいな手が自分の腰に回されて、ああなんて心地よいんだろう、なんて暖かいのだろうと思ったら涙は止まらなくなっていた。


「生きていて、つらいだけなら、死にたいね」


 そう零したように伝えた言葉は紛れもない本心だった。

 いつものように飾った言葉ではない、顔色も見ることなく相手を伺うわけでもなく、自分に言い聞かせるように伝えた言葉はちゃんと伝わったようで、抱きしめる腕に力が入り体はこわばったように感じた。


「私が選んだ道だから、私が進むと決めた所だから仕方ないけれど、けれど、とても虚しくて、虚像で作られた私を愛してくれる人なんていない、いないよ」


 吐露した言葉はすべて隠していた言葉だ。ばれない様に、見つからないようにそっとしていたものすべてを吐き出す。

 これは汚物だと思っていた、汚い穢れた自分の心なんてものは黒いビニール袋に入れて中身が見えないようにしなきゃいけないと思っていた。

 でも、出してしまった、しかも相手は異性だ。嫌われるに決まっている。

 一番恐れていたことが、起こってしまう。

 でも、一度流れてしまった水は止まらないのだ。


「嫌われてもいいなんてうそだよ、嫌われたくない、そのためならいくらでも嘘を吐くし虚像を作り続ける、愛される私を作り続けるよ」


 すると、腰にあった手が頬に触れる、涙で濡れてしまった赤い頬に暖かい手が。ああ、また涙が落ちてくる。


「嫌いじゃない、嫌いじゃないよ」


 その言葉は、たった一言だけれど、何万といわれた「好き」や「愛してる」なんかよりもずっとずっと愛おしいものに聞こえた。

 いくら虚像の自分に愛を囁かれても響かない、その代わり空っぽの自分に偽りの言葉が溜まっていくだけだった。その言葉はどんどん黒く汚れていき、ついには目も当てられなくなるのだ。

 これが愛なら、いらない。

 こんな、黒く重たく、その上見るだけで吐き気がするようなら愛なんていらない。そう思ってしまうほどに苦しんでいたようだ。


「きらいじゃない?」

「嫌いじゃないよ」

「ほんとう?」

「本当だよ」

「きらわれてないの」

「うん」


 抱きしめられてからはじめての会話は、泣いてこぼれた涙を補うように自分の中にスルスルと入ってきた。言葉が入ってくる分、溜まっていたものは出て行く。まるで魔法みたいだな、なんて思ってしまう。

 言葉はナイフだ、見えない心に傷をつけるためのナイフだとずっと思っていた。でも、このナイフは自分の汚いところを切り取ってくれるそんな気がした。


「あのね、苦しかった」

「うん」

「自分で選んだくせに」

「そっか」

「嫌われたと思った」

「嫌いじゃないよ」


 頬にあった手に触れる、涙で少し濡れてしまったきれいな手。

 大好きな、手に、触れる。

 それから、隠れるように肩口に顔をうずめ、背中に手を回す。


「きらわないで」


 決して好きとは言わない、言えない、言いたくない。

 でも、好きになってもらわなくていいから、愛されなくていいから、どうかどうか嫌いにならないで。


 携帯のアラームがなるまであと1時間。

 その時間だけ、私を許してください。





 ごめんなさい、好きになっちゃいました。




 好きにならないと、決めていたのに。







-END-


 はじめまして、作者の幸花(ユキカ)です。

 あとがきとか大好きなのでこの機能はフル活用していきたいと思います。


 初投稿になりますが、昔から文字を書くときは何かしらテーマを作って書いていました。

 今回のテーマは「臆病」と「恋愛」です。

 嫌われたくないから必死に隠していた本心を吐き出してしまった女の子の話は如何だったでしょうか。私自身もろくでもない恋愛ばかりしてきましたが、隠し事がばれたときほど怖いことはありません、私の場合はたいてい自分を守るために嘘をつきますから。

 誰かのために生きたいと、つねに思いますがいまさら自分を変えるのは難しいですね。


 だからこそ、小さな言葉に救われたりするのです。



 それでは、幸花でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  嫌われたくないと思うことはよくあります。 [一言]  年齢を重ねていくうちに、あまり気にしなくなりました。
2015/11/22 16:16 退会済み
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