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 思いもよらない、想像も出来なかった。

 そんな出会いや結末を、運命と言うのなら……。




西域さいいきへ? え。だって瑞花さんは東域とういきの」

「言ったでしょう。私の役目を果たすと。私が斎宮の位を降りて国を離れるというのは……澪綾れいりょうへ嫁ぐからよ」

「!」

 仄かに甘い香り漂う新緑の季節。

 草の上に座った私の背後で手鏡に映っているのは、東域の斎宮というお仕事をしていたお姫様。

 黒い髪と瞳が綺麗な人、瑞花みつかさんは仕方なさそうに苦笑して、木漏れ日の大樹の下、結ってくれていた私の髪から手を離した。

 真円に近い形をした私達の住む大陸はハルトと呼ばれていて、その中心にある場所、この千年を越す大樹がある土地を狭間と言います。

 大陸の心と呼ばれる、私の旦那さんである樹宝さん。そして風の精霊の長であるビオルさんが、護っている場所。

 そろそろ青い草の匂いが濃くなる、夏の空気。そんな中で言われた事は、衝撃的で。

「そんな顔しなくても良いわよ。皇族として当たり前の義務なんだから」

 馬鹿ね、と。滲むような微笑に悲しむ色はないけれど……。

「私が生きてこられたのは、田畑を耕し税を納め、皇族として敬ってくれた民が居るからよ。だから私達、皇族は……国は存在出来るの。まぁ、今の私にそんな事を言う資格はないわね」

「何でですか?」

「逃げてしまったもの」

 事も無い風に口にするけれど、瑞花さんの瞳が一瞬揺れた。

「だから、次は無いのよ」

 それでも、その声は凛として。真っ直ぐで迷いの無い声音は、青空みたいにどこまでも透き通っている。

 強い、意志を宿して。

「でもぉ、そんなにぃ急ぐことも無いんじゃないかなん?」

 全身をローブですっぽり包んだ背の高い人、唯一見える口許にいつもの笑みを浮かべ、ビオルさんがのんびりと言うと、瑞花さんは首を横に振る。

「西から来る迎えと落ち合う予定になっているのよ。そろそろあちらも着く頃合だわ」

「おやぁ、珍しいねん。お迎えが来るなんてぇ」

「一応、国同士の婚姻だもの。何かあってはどちらも困るから、当然といえば当然よ」

 えっと、普通なら受け入れる側は歓待の準備をしてひたすら待つものらしいです。

 でも、確かそれは国同士の結婚でも同じはずですよね……?

「唯でさえ、あちらは私が嫁ぐ先を決めあぐねている最中なんだもの」

「それって……」

「決まっていないのよ。私は、澪綾の皇帝に嫁ぐことになっているけれど、その肝心の相手が」

「えぇっ?」

「……此処に居る分には必要ないでしょうから仕方ないけれど、少しは他域の情勢を把握しなさい」

 う。確かに、私そういうのよく知らないです……。

「澪綾では現在、四人……いえ、実質は三人の皇子が皇帝の座を争っているの」

 さわさわと風が吹いて青い草原に波を立てる。瑞花さんはそれを見つめながら言う。

「それぞれ出自が違う。得意とする分野も。おまけに均衡を保ってしまうくらいの家筋らしいわ。おかげで、今の今まで膠着状態よ」

「あの、それって、瑞花さん」

「何かしら?」

「お嫁さんに行って、……大丈夫、なんですか?」

 黒い綺麗な瞳が私を見る。そして、微笑んだ。

「私に何かあれば、国同士の戦になるわ。それは今の澪綾も避けたいもの。だから、でしゃばりさえしなければ、命はある程度保障されるのよ」

 でしゃばる気も無いし。そう言って、瑞花さんは事も無げに笑うけど……。

「瑞花さん」

「言ったでしょ。此れは私の義務なの。嫁ぐけれど、私の婚姻ではなく、『国の婚姻』なのよ」

 私が言おうとした事を見透かしたように、瑞花さんは言う。

「良いと言っているの。だから、そんな顔するものではないわ」

「ふぇ?」

 ぷにっと、瑞花さんの指が私の頬を軽くつつく。

「でも、…………ありがとう」

 瑞花さんが浮かべるのは、穏やかな笑みで、私はそれ以上なにも言えなくなってしまいました。




 樹宝さんの所へ巫女に来た瑞花さん。お嫁さんになりに来た私。

 似ているけれど、全然違う私達。

 出会ってまだ間もなくて、これからもっと仲良くなりたいと思っていたけど……。

「リトさんや」

「あ。はい」

 ビオルさんに声を掛けられて、瑞花さんの消えた森から意識を戻す。

「瑞花さんが心配かいぃ?」

「……はい」

 余計なお世話だと言われるかも知れない。

 貴族の間では、結婚は家のため。それが、瑞花さんは国に置き換わっているだけ。

「リトさんもぉ、領主の娘だったからわかってるよねん?」

「はい。位の高い方は家が決めたお相手と結婚するのが、普通です。でも…………」

 瑞花さんは、傷ついていたのに……。

「うぅん……。わかっていても心配なんだねぇ」

「ごめんなさい」

「あは。謝る事ないよぉん。じゃあ、行こうかね」

「行くってどこへですか?」

「うふ。瑞花さんのところぉ」

 ビオルさんはそう言って、何だか楽しそうに笑いました。

 ビオルさんに連れられて、瑞花さんのところへ行くことに……。

 やっぱり、気になります。


 恋歌遊戯 巫女姫の恋占い 第二話「揺らぐ月」


 瑞花さんは、お友達です。私に何か出来ることがあるなら、頑張ります!

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