表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の魔王  作者: エレンシュキガル
傭兵編
7/7

第六話


 黄金の姿に人々が目を奪われる中、誰かが呟いたであろうその呟きは伝染していき、やがて会場全域へと広がった。


 王族、貴族、商人、平民、全てのモノを魅了した存在。ある者は英雄だと、ある者は王だと、ある者は天使だと、ある者は神だと、過剰な反応を示している。


 しかし、『黄金の夜明け』の団員たちはその言葉を否定しない。事実、バージルに忠義を、忠誠を誓い、彼を神聖化している。その事に何の疑問も抱かず、戸惑いもない。そう彼らに思わせるほどのバージルのカリスマ性は、天元突破していた。


 そのバージルを目の前にするデリックも圧倒されていた。完璧とも言え、理想の人間、そう思わせる存在に圧倒されていた。それと同時に本当に人間なのかと、バージルに恐れを抱く。


「ふむ、面白い、気に入った。貴公、私の下へ来ないか?」


 周りの視線や感情を気にすることも無く、バージルはそう言って手を差し出した。その軽い言動は決闘の最中では異質である。


「……はぁ?」


 手を差し出されたデリックの脳に混沌が訪れていた。これは所謂、スカウトや引き抜きと言われるものだ。それ自体はこれまでに幾度と無く経験してきたが、このような大舞台で、しかも決闘という名の殺し合いで勧誘されたのは初めてだった。


 そして巡る激情、あの神聖を帯びた存在に認められた優越感、歓喜、高揚が心を締め付ける。彼の、バージルの手を握れば、どんな未来が待っているのだろう、そう思わずには居られない。


 だが――


「折角の勧誘に心苦しいが、断る」


 そんな未来はデリックには訪れない。


「何故だ?」


 バージルが自ら勧誘する事は珍しく、断られる事は今までにない。その為、疑問に思った。


「俺は『竜の尾』団長デリックで、カルコサ公国の英雄だ。それ以外の何者でもない」


 理由は簡単だった。自分は誰かと、自問自答した時、帰ってくる言葉は『竜の尾』団長のデリック。それだけだった。


「そうか、実に残念だ」


 そう告げたバージルだったが、表情は依然として変わりなく、言葉の真意は伺えない。ただ、声色だけは哀惜の念が入り混じっていた。


「ならば、終わらせよう」


 透明色の宝玉がデリックへ向くと同時に、方陣が展開される。紋様にも、言語にも、数式にも見える方陣は魔性を保有し、方陣全域に魔力が浸透すると淡く発光する。


「あはは、桁が違いすぎる」


 デリックは力なく呟いた。圧倒的過ぎた。目の前の光景にただただ圧倒された。しかし、不思議と恐怖はない。幾度と感じてきた死へと誘う独特の臭いが鼻腔を突く。幻覚であるのは理解していても脳が錯覚してしまうほどの死。


「勝てないとは思ったものの、ここまで違うと清々しい気分だ」


 後悔はない。しかし、未練はある。今まで選んできた道が間違いだったと思いたくない。思ってしまったのなら自分の人生を否定する事へ繋がり、共にしてきた仲間を裏切る事にもなる。だけど、欲を言えば――


「――生きたかった」


 三重に連なる方陣は身の丈を軽く越す。完成の予兆でもある強烈な光に誰もが息を呑み、後は発動を待つだけ。そして無情にも発動される。


真紅クリムゾン爆裂・ノヴァ


 デリックを中心に数十メートルほどの範囲で真紅に発光し、血色を思わせる瘴気が彼を優しく包む。死が迫っているにも拘らず、心情は穏やかだった。身を包む瘴気は太陽の光に照らされ、煌びやかに輝く紅がとても幻想的で目を奪われた。


「――あぁ、綺麗だ」


 強烈な爆発と共に真紅の巨大な火注が天を貫いた。莫大な威力に雲海は弾け飛び、凄絶な爆音が会場を揺らす。


 バージルの強大な上位魔術を見た人々は圧倒され、言葉を発する事ができない。その傍ら術を行使したバージルは割れた空を見つめる。


「本当に残念だ。面白い奴だったのだがな」


 『竜の尾』団長デリック。享年三十二。この決闘を以て、黄金が夜を明けた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ