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黄金の魔王  作者: エレンシュキガル
傭兵編
6/7

第五話

 

 両手の剣を力強く握り、大地を疾走する。やることは先手必勝。バージルが魔術を行使する前に接近するデリック。瞬く間に距離を詰めるデリックの背後には砂塵が舞い、鎧を身に着けているというのにそれを無視した速さに周囲の者は息を呑む。


「はぁぁっ!」


 棒立ちのまま静かに佇むバージルの懐まで辿り着くと、右手に握られたショートソードを横に一閃。疾走した勢いを乗せた過激な一振り。剣線に乗る一撃に観客は声を上げる。


 しかし、完璧な一撃を華麗なバックステップでかわすバージル。身の重さを感じさせない軽快な動きに度肝を抜かれるデリック。勿論、此処にいる全ての人々がその動きに度肝を抜かれた。


 斬れる。そう確信した一撃だった。歴戦の戦士なら避けることは可能であったろうが、相手は魔術師。有り得ないとしか言い様がなかった。二流の戦士でさえ、あの一撃を受け止め体勢を崩すか、命の花を散らすかどちらかだろう。


 表情すら伺えないバージルがロッドを前に突き出そうとする行動を目にしたデリックは、一気に身体を加速させる。魔術を行使させる訳にはいかない。術が発動してしまえば、迂闊に近寄る事が出来ない。それを危惧し、足を動かす。


「魔術は使わせん!」


 そこからデリックの猛撃が始まった。両手に握られたショートソードによる華麗なる剣舞。力強く、そして華麗で、思わず目を奪われる剣戟の数々。


 一振りの剣ならず、二振りの剣による攻撃は読みずらい。細かな動きで追い詰める左手、右手で確実に仕留めに行く。時には誘導し、フェイントを織り交ぜならの剣戟は苛烈を極める。


 二刀流の極めることは膨大な労力、時間、経験を有する。一刀流さえも極めることは限られた人間しか到達できない高み。それを掴み、更なる高みへと上り詰めたデリックは正に最強を名乗るのに相応しい剣技を誇示している。


 『千人切りのデリック』そう呼ばれるほどの武勇を立て、名声が轟き、周辺国家に畏怖されてきた存在。傭兵という職業柄、消耗品として使い潰される現状を軽々と打破し、カルコサ公国に無くてはならない存在として君臨しているのだ。カルコサ公国の最強の騎士と同格とされ、人々に羨望を抱かれ、デリック自身の人柄の良さもあり、慕われている。傭兵でもあるにも係わらず、高貴な人物として語り継がれてきた。


 しかしだ。そんな存在がこの決闘ではどうだろう。デリックの空を切り裂く剣戟を軽々と避け、時には鋼で構成されたロッドの柄に受け流される。今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたデリックでさえも目の前の現実に混乱するしかなかった。


 魔術師とは何だったのかと、自問自答するデリック。後方で術を行使し、決して前線でなど戦わないのが魔術師だ。前衛の魔術師何て聞いたこともない。魔術師とは後衛でこそ真価を発揮する。それが、それが、この魔術師はいとも容易く一流戦士と前線で戦闘を繰り広げている。


 表情が見えない。声も聞こえない。攻撃もしてこない。それがデリックには不気味だった。こちらは常に全力。もはや、心が折れそうになった。だが、それは許されない。此処に散っていった仲間の為に、カルコサ公国を誇りに思う国民達の為に、そして自分が歩んできた人生が、決して心を折らせない。


「ぉぉぉおおぉぉおおぉぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛」 


 竜の如き咆哮が戦場に木霊する。低重音の声が割れ、喉を潰さんばかりに唸る咆哮。戦場の空気はデリックが呑み込んだ。


 それを聞いたバージルは小さく笑った。それは本当に小さく、この戦場にいる誰にも聞こえず、デリックの咆哮に掻き消された。


 デリックの猛撃を絶妙なタイミングで受け流し、バージルは後方へと距離をとる。その際、使用された行動は跳躍。高く、宙を舞う姿は、身体能力の高さを表すだけでなく、彼を見るもの全てが魅了された。


 金色の刺繍が所々に施された純白の衣が風に靡き、ロッドの先端に嵌め込まれた透明色の宝玉が太陽の光で燦々と輝く。跳躍の反動で被っていたでフードが外れ、バージルの容姿が具現した。黄金色に煌く髪に、心を見透かすような空色の澄んだ瞳。そして全てのモノを魅了する魔性の美貌。



 人々が息をするのも忘れ、視線を奪われ、バージルが太陽を背にする姿はまるで――



 ――天使のようだ。そう誰かが、呟いた。



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