第四話
灼熱の太陽が照らす大地の下に、二人の男が対峙していた。心地よい風が吹き抜け、両者を包み込む。
白衣を纏った魔術師と赤髪の戦士。両者の間には二十歩ほどの距離があり、緊迫した空気が流れ、それを見守るそれぞれの団員達も、ある者はまるで祈るような視線で、ある者は心躍るような表情で、声を出さず見守る。
見守る者は彼らだけでは無く、観客らも興奮した様子で二人に視線を合わす。どちらが勝つのかと、興奮した様子で話し合う者も少なくない。特に期待を込めて見つめるのは、豪華客席にいる各諸国の重鎮達だ。
『竜の尾』が所属しているカルコサ公国の重鎮は顔を青く染め、完全に血の気が失せている。前大会の優勝国が成す術も無く、たった二人に蹂躙されれば無理もない。しかし団長デリックが決闘を申し込んだ事により、彼らは起死回生を願うばかりだ。
対して『黄金の夜明け』を雇ったレムリア王国の重鎮達は驚愕と歓喜の入り混じった表情をしていた。彼らの実力を目の当たりした者たちは自らの予想を遥かに超えている事に驚き、噂を聞いていた者は純粋に歓喜した。そして、『黄金の夜明け』を勧誘した張本人は笑いが止まらない様子である。
その他各国もそれぞれの心情に基づいた視線を向けているが、ほとんどの人物は戦力分析のために二人を見つめる。千人切りのデリックか無名の魔術師か。腕に覚えのある者はデリックが有利であるのも承知している故に、勝敗もデリックが決すると信じて疑っていない。
数千人の視線を集める二人は、視線を気にする事無くそれぞれの武器を握る。方や長杖、方や片手剣を二本。バージルが纏うローブの下に装着された軽装の装備は、デリックの着る急所部にのみ重装がされた軽鎧に比べれば頼りない。
「私は『黄金の夜明け』団長バージル。貴公の申し出、有難く頂戴しよう」
フードの中から声が聞こえた。それを聞いたデリックは心臓が高鳴り、脳髄にまで声色が浸透する。高くも無く低くも無い声。しかし、透き通った声色で耳に入るだけでも脳髄まで澄み渡る。
デリックは初めて、声に魅了された。そして高らかに笑いたくなる衝動を堪えた。なんという規格外かと、問いたくなった。まるで恋にでも落ちたような錯覚すら覚えた。
「……感謝する。貴殿とこのような大舞台で出会えた事に感謝しよう。『竜の尾』団長デリックとして、この決闘に命を懸けることを誓おう」
震える声を正し、言葉にした。長々と余計な事を口走ってしまった自分に驚いてしまったデリック。懸命に言葉を見繕い、軽く返すつもりがこの様だ。しかし、恥だとは思わなかった。最後にそう思える存在に出会えた事に感謝をと、本能が悟ってしまったのだから。
バージルが軽く頷く。バージルが声を出さないことに、何故か安堵してしまったデリックは心の中で苦笑う。
雑念を振り払うようにデリックは目を閉じた。今までの人生が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。後悔は何も無い、未練はある。だが、満足していた。花を散らすには勿体無いほどの相手だと。
デリックの力強い翡翠の瞳が開かれ、両手に握られたショートソードを構えた。高揚するデリックを見たバージルはもう一度、ロッドを握り直す。
そして二人の声は――
「では――始めよう」
「いざ――参る」
――交差した。