第三話
生い茂る芝生の上に力無く倒れている団員を脳裏に焼き付けながら、デリックは大地を駆けていた。馬が奏でる蹄の音を耳にしながら、思考する。自分に出来ることは、ただ一つ。
『決闘』
それしかあるまい。未知の魔術師のバージルと生粋の戦士デリック。竜の尾が黄金の夜明けに勝つにはこれしかなく、デリックが生き残るにはこれだけ。
人生を共にしてきたと言ってもいいほどの仲間たちは、既に生き残っている者を数えたほうが断然早い。これ以上無慈悲ではいられない。
だが、デリックには気になる事が一つあった。『黄金の夜明け』団長バージルの実力だ。決勝に挑む前に情報収集をした結果、バージルの実力が一切判らなかった。
下位魔術師なのか中位魔術師なのか、それ以上の上位魔術師か、想像したくはなかったが、魔術師最高位の大魔術師なのか。
流石にメイガスは在りえない。ただでさえ、魔術師の存在そのものが希少で、社会的優位な立場にあるのだ。ほとんどの国が貴族=魔術師と言っても過言ではないほど、魔術師は貴重で戦力的にも一線を抜きんでている。
故にメイガスはない。魔術師であるだけでも国に重宝される為、傭兵団の団長をやっているだけでも疑問物だ。メイガスで宮廷魔術師または国賓魔術師の地位になれる。国の上層部にいるだけでも他国に対しての牽制にもなるのだ。マジスターであっても小国なら宮廷魔術師になれる可能性もあり、軍部において将軍の地位は約束されたも同然。
しかし、遠目からでも分かる存在感、滲み出る雰囲気はただ者じゃない。そう感じる故にバージルはメイジ以上は確定的だとデリックは感じていた。
メイジであるだけでも男爵を超え、子爵の地位にも辿り着ける。しかし、マギは叙動者として士爵が普通である。貴族ではないが、平民以上貴族以下の存在で、社会的優位であるのは変わらない。
そんな魔術師との戦いも経験してきているデリック。メイジぐらいでは数え切れないほどの戦いを乗り越え、マジスターとも何度か死線を乗り越えてきた。だから、この戦を勝利で終えるには決闘しかなかった。
デリックには勝算があった。全ての魔術師は共通点があり、術式を構築し、方陣を魔力で回路を繋ぎ、魔術を発動する。術者の技量にも差はあるものの隙は必ずでき、魔術が高位であればあるほど隙は大きくなる。だから魔術師は基本後方で術を行使する。
勿論、例外も存在する。剣を振りながら、魔術を行使する者も少なくない。その場合、術自体は高位なものにはならないのだが。
バージルとの戦闘方針は今まで通り、魔術が完成する前に終わらせる。そう心に決めたデリックは疾走する愛馬を減速させ、大地に足を下ろした。
「おおぅ、敵さんの大将がおいでなさったぞ! どれどれ、中々強そうだ。私が相手になろう!」
嬉々とした表情でバスタードソードを肩に担ぐジェラードを、エドウィンが手だけで制止する。
「俺達は眼中にないようだぞ、ジェラード」
ゆっくりと歩み寄るデリックを冷めた目で見据えるエドウィン。そのデリックは二人と目を合わす事無く、通り過ぎ――
「『竜の尾』団長デリック! 『黄金の夜明け』団長バージル、貴殿に決闘を申し込む!」
――そう高らかに、『千人切りデリック』は宣言した。