序章
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ここは、戦場。
辺り一面、草原だったはずの大地は兵士たちに踏み躙られ黄土色と化し、青かった空も大気の急激な変化により灰色の空へと姿を変えている。
打ち合う剣戟の甲高い音が鳴り響き、兵士の怒号、悲鳴、断末魔が絶え間なく戦場を奏でる。魔術師による攻撃で、人が赤々と燃え盛り、大地は割れ、旋風が吹き荒れ、荒波が戦場を包み込み、混沌と化す。
そして何より、大地を埋め尽くすほどの兵士たちの死骸が地獄絵図を形創っていた。
彼らはただただ殺し合い、奪い合い、己が欲するモノの為に命を懸けている。自らの誇りや愛すべき者を守るため、我が国、我が主に勝利を捧げる為に。
「凄絶の一言に尽きる。我が国の魔術師は優秀だ。しかし、この戦、長くは持たぬだろう」
王、純白の衣を身に纏い、黄金の王冠を被り、玉座に鎮座する男。王は遠見の水晶を片手に、悲哀に満ちた声で呟いた。
水晶に浮かぶ映像は、火が奔り、土が砲弾となり、帝国軍の侵攻を食い止めている所であった。膨大な数の暴力が押し寄せる中、魔術師は善戦をしていた。一人で十人の戦士を相手にし、中には百人近く相手取る魔術師もいた。しかし、彼らの貯蓄されていた魔力はもう底を尽きかけていた。
「恐れ多いことに帝国軍の数は数十万を超え、我が兵士の数は残り数万となりました。あの帝国軍の新型兵器により三万近くの兵が犠牲になったのが大きいでしょう」
王の言葉に、側近の騎士が答えた。帝国の新型兵器である、魔導兵器の導入により、王国軍は多大な打撃を受け、敗戦を辿っている。
「流石は帝国だ。大国相手に私では荷が重すぎたのかもしれぬな。……バージルが王の座についておれば違った結果になっておっただろうに、ままならぬ」
事実、帝国軍がこの王都に侵攻してきた時点で、王国は敗戦したも同然であった。この王都が堕ちるのも時間の問題だ。
「いえ、陛下も最善を尽くされました。このような結果になったのは残念でなりませんが、敵が強大だったのです。ですが、バージル殿下ならば……違う結果になったのかもしれないと思ってしまうのも無理はございません」
王は窓から王都を眺めた。ここから見下ろす景色は絶景だった。青い空に広がる下に活気ある城下の町はいつも賑やかで、笑顔の絶えない町がいつも見えていた。しかし今ではそれも無くなり、人々は避難し、王都に残るのは王国に命を奉げた勇敢な兵士だけ。
王として善政を敷き、難なく人生を謳歌してきた。貴族たちの反乱も無く、戦も他国に比べれば数少なく、平和な国だったと心からそう思っている。ただ『女神の申し子』と呼ばれたあの息子が脳裏に浮かんだ。
「奴の将来をこの目で見れぬのが残念で仕方が無いぞ。それで奴はどうした?」
王は思わず騎士に聞いてしまう。将来有望である愛すべき血筋を受け継ぐ息子を。
「バージル殿下は既に避難しております。帝国が避難先を襲撃することもございません。陛下も避難してくださいませ。ここは我ら、国王直営騎士団が敵の侵攻を食い止めておきますゆえ」
騎士は跪き、頭を垂れた。その近衛騎士の様子見て、後ろに控える騎士たちも跪く。彼らの勇敢で死すら覚悟する騎士の姿に王は満足した。
「ならばよい。私は王だ、そして死する時も王だ。私は退かぬ、敵が如何ほど強大であろうと王としての責務を全うするのみよ。では我が騎士たちよ。出陣だ」
そして王率いる直営騎士団は前線へと赴く。その王は魔術師最上位に階位するメイガスとして、最前線で力を揮う姿は正に魔王であった。