魔王と我 2
※これは以前投稿した短編、『魔王と我』の続きになります。
「むぅ、こんなひらひら恥ずかしいのである」
我は今、魔王――ヴァーリスが選んだ真っ白なドレスを身につけておる。我の人形が幼子であるから、ぴったり合うドレスがなかったらしくヴァーリスが頼んだ特注品である。
胸元に美しい赤色の薔薇をさし、レースのついたひらひらのこんな若い女子が喜びそうなものを着ているのは我にはなんともまぁ、恥ずかしくなった。
「やっぱり凄い似合ってる! 超可愛い」
「ぬぅ、そんなほめるではない」
ド直球なヴァーリスの言葉には少し照れてしまうのである。
それにしても目をキラキラさせて、嬉しそうにこちらを見ているヴァーリスは中々可愛いものである。うむ、これが友人の言っていた年下の魅力という奴かの。
褒められるのは照れるが、悪い気はしない。
「照れてて超可愛い――――!」
何だか叫んでヴァーリスは我に抱きついてきた。
「…むぅ。抱きしめられたら折角のドレスがぐちゃぐちゃになるのである」
ぎゅーっと思いっきり抱きしめられ、我はそんな言葉を発する。
しかしこ奴は本当に恥ずかしくなのだろうか。可愛い可愛いなどと連発しよって。そんな我のドレス姿みたぐらいで嬉しそうに笑っているこ奴の方が可愛いのである。
ふむ、これが知人のいっていた年下の魅力と言う奴か。
「わ、ごめん」
慌てて離れて、落ち込んだ表情をするヴァーリスは、正直噂の魔王とは全く重ならない。
誰だ、こ奴を頭脳明晰でクールなどと言った馬鹿は。
「それより、ヴァーリス、そろそろ時間であろう」
我がそういえば、ヴァーリスははっとした。
「折角の結婚式じゃ、主役が遅刻するわけにはいかぬだろう」
我がそういって笑えば、ヴァーリスも笑った。
――――今日は結婚式だ。我とヴァーリスの。
求婚されて、戦って、我と結婚する権利を見事勝ち取ったヴァーリスはすぐさま我を婚約者として発表したのだ。
しかも我がヴァーリスに負けたのが悔しくてもっと強くならなければ、と行動している間に結婚式の準備まで終わっていた。
どうやって調べたか不明だが、我の親族や友人達にまで結婚式の手紙は出されたらしい。
むぅ…、我の家族達はさぞ我の結婚に驚いた事だろう。我より強い奴などそうはいないだろうから、我はきっと結婚などせんとつい十年ほど前にいっていたのに負けてしまったのを知られたなどちょっと恥ずかしいのである。
「行こうか、アーシェナ」
「…うむ」
優しく手を差し伸べたまま名前を呼ばれて、それに恥ずかしく思いながらも我はその手を取った。
会場への扉を開ければ沢山の魔族や竜族、そして近隣諸国からやってきた人間や獣人などが居た。
全体的に魔族と竜族の割合が多い。
魔王であるヴァーリスの結婚式だからか派手だ。あと自慢じゃないが、我は竜族最強として有名だったし、何百年も生きている中で知り合いも多い。
そ奴らにもしっかり招待状は届いていたようで、今この場に姿が見える。
ヴァーリスはぶっちゃけあまり頭がよくは見えないが、有能であるのは確からしかった。というか、ヴァーリスの側近には我と居る時だけあんなにアホっぽいのだと言われた。
うむ、我にだけ態度が違うなどと可愛い奴め。
我は番を裏切る浮気という奴が嫌いじゃ。だから、我だけを見ていると全面で出してるヴァーリスの態度は素直に嬉しい。若干恥ずかしいが。
我より強い奴としか交際しないと若い頃からいっておった我は、男と付き合うのははじめてである。たった数カ月で結婚までいくなど、人生とはわからないものである。
結婚式とはいっても新郎新婦の紹介と、あとはパーティーのような感じのものなのだ。
人間の君の結婚式はキスをするらしいのだが、人前でキスなどと恥ずかしい事が出来るか! という心情の我である。うむ、魔族や竜族にそういう習性がなくてよかったと心の底から思うのである。
側近による我とヴァーリスの紹介が終わった後は、我は家族や友人達に囲まれてしまったのである…。ちなみにヴァーリスは一旦側近達の元へいったのだ。
「アーシェちゃんが結婚してくれるなんて嬉しいわぁ」
「孫の顔がようやく見れるかもしれんの」
そんな事をいっているのは我の両親であった。人形の見た目は四十代ぐらいである。我の倍以上生きているのだ。
ちなみにヴァーリスが一目ぼれした我の見た目は母似である。
「姉貴が結婚するとはなぁ…、しかも相手魔王だし」
「流石、義姉さん、なんかスケールが違うわねぇ」
「伯母さんすごい」
こちらは弟家族の言葉である。我の弟は二百年ほど前にさっさと幼なじみの女の子と結婚しよったのだ。
百歳になる子供もいるのである。
うむ、何故我だけ人形が子供なのだ! と家族を見ていると不満に思うのである。
母も父も弟も、そして甥も……、皆人形の見た目は大人なのである。我だけ幼女なのである…。母がいうには母の祖母――もう流石に寿命でなくなっているその人からの遺伝らしいのだが。
「アーシェナってば羨ましい」
「魔王ってロリコンだったのか? それとも目が悪いのか?」
「ようやくアーシェナも結婚か…」
これは友人たちの言葉である。
うむ、シェスよ、それはヴァーリスと我に失礼であろう。我もロリコンかと思ったが、ヴァーリスは我以外の幼女には興味がないようである。
「というか、魔王ってアーシェナに勝てたの?」
「……悔しい事に負けたのだ。本気出したのに勝てなかったのだ」
「えー、それすごっ」
などと驚いている家族や友人達であった。
ふむ、驚くのも当たり前である。我も負けるとは思っていなかった。強いとは噂だったが、まさかヴァーリスがあれほど強いとは予想外だったのである。
そんな風に和やかな会話を交わしていれば、
「何で貴方みたいなのがあの方と結婚するのよ!」
何だかまだ若い魔族が我に突っかかってきた。
ふむ、見るからに美人な少女である。年齢は大体百年生きたかぐらいのまだ子供だろう。
「ちょ、リカーナ、やめた方が…」
「そうですよ! あのアーシェナ・リベリオに喧嘩など…」
少女の周りで慌てている顔には見覚えがある。うむ、我が喧嘩して負かした奴らではないか。我の人形が幼女だからと侮って突っかかってきてムカついたので、縛り上げてつるした記憶があるのである。
我は見た目で馬鹿にされるのが嫌いなのである。
家族や友人たちは我と少女を面白そうに見ていた。
「なによ、こんな子供! こんな子が竜族最強なんて嘘に決まってるわ」
「ふむ、それはこの我に喧嘩を売っていると取っていいな? ならば受けて立つのである。表に出るのである」
我は売られた喧嘩は買う主義である。
そのまま結婚式だというのに我と少女は外に出たのであった。
――――そして十分もたたずに少女は撃沈していた。
我、売られた喧嘩には基本手加減しない主義である。どちらか上かわからせるためには徹底的にやる方が良いのである。
下手に手加減してやると調子に乗られる恐れがあるから、これは当たり前の処置である。
ちなみにまだ子供の魔族の少女には竜化する必要もなかった。殺さないようにはしているが、戦闘不能状態にまでは潰したのだ。
それからは普通に式場に戻ってのんびりとパーティーに参加した。
我が少女を戦闘不能にしたのを知ってからか、敵意のまなざしを向けても突っかかってくる者はいなかったのである。
「怪我なかったー?」
「うむ。我はあんな子供に怪我をさせられるほど軟弱ではないのである。それよりもヴァーリス、恥ずかしいので降ろしてほしいのである」
少女と喧嘩をしてから戻れば、我はヴァーリスに捕まったのだった。
膝の上に乗せられるという行為ははずかしい。この歳になってこんな恥ずかしい事を家族や友人の前でするなど羞恥心がわいてならないのである。
母も父も、弟も! 皆ニヤニヤするでない!
うむぅ、しかしヴァーリスは「恥ずかしがってて可愛いー」などと嬉しそうに笑って離してくれないのである。
それにこんなに我を抱きかかえて嬉しそうに笑っているヴァーリスを見ていると、こんなに喜んでいるのに膝からどけるのは可哀相な気もしてくるし…。
そんなわけでパーティーが終わるまでヴァーリスの膝の上で過ごしたため、『魔王は嫁を溺愛している』という噂が広まるのは別の話であった。
約一年前に投稿したものの続きです
ちょっと書きたくなって書きました。
楽しんでいただければ嬉しいです。