四話
彼女、『小宮山 弥生』との出会いはほんの一瞬。
時間にして五分あったかどうか。
その日、六月七日は修学旅行の最終日で完全自由行動。
午後五時半に駅に集合。
あとは各自自由にすればいい。
そう言われたのは朝五時。
十時にはチェックアウトするので荷物は必要なものだけ持っていくこと。
必要ないものは全部宅配で送るから、十時までに担任の先生のところにもって行きやがれ。
みたいな感じ。
それで俺は旭と一緒にいろんなところを回っていた。
そしてもう五時十五分。
全力疾走で駅に向かっていた。
結構な距離があったのでちょくちょく歩きながら。
そんなときに美少女がナンパされているのを見つけたのだ。
『てめえら!!女一人を大人数で囲んで恥ずかしく無いのか!!』
『そうだそうだ!!』
『あん?やろうってえのか?』
『金だけ置いてどっかいけ』
『そうだそうだ!』
てきなことがあった。
その美少女こそが今現在目の前にいる小宮山 弥生であった。
去り際に、
『コウちゃん!時間時間!!』
『やべ!俺の名前は榎本 公太!木野中学三年だ!時間が無いのでさようなら。送ってあげられなくてごめんね?』
『ぼ、僕の名前は鹿野 旭!…って、ちょっと待ってよ!!』
と言った覚えがある。
よく彼女は覚えていたものだ…
俺はフラグ立てかけてきたことも忘れていたというのに…
「あのときはありがとうございました。お礼も満足に言えなくて申し訳ありませんでした」
「い、いや別に…そんなお礼を言われるほどのことはしてませんよ…」
おおおおおおおお落ち着け俺。
彼女にフラグが立っている前提で話すんだ!
フフフ、俺に会いにきてくれたのかい?
俺の頭が正常稼動していることが分かった。
これから俺の家に…
NG!!
だめだ俺…速く何とかしないと…。
…よし、落ち着いた。
「いえいえ。名前と学校名が分かっていたので会いに行こうと思っていたんですよ」
その唇を奪っていいかなハニー?
俺の思考が暴走している…
「ありがとうございます?」
「なんであなたがお礼を言うんですか?
それよりも敬語はいいですよ。同い年ですし」
「ああ、分かった。小宮山さんも普通に話してくれればいいよ」
弥生ちゃんも普通に話してくれればいいよ、俺の呼び方はご主人様で。
ダメだ。
予想外のことに頭が混乱している。
これじゃあ、ただの変態じゃないか…
いや、俺結構変態だった気が…
「うん、分かった。私のことは弥生でいいよ。
あと、君の事はなんて呼べばいいかな?」
ご主人様で。
「好きに呼べばいいよ」
「う~ん…それじゃあ、コウちゃんで!」
あ、そうですか。
ほぼ初対面なのにそのチョイスとは…
「ま、まあいいか…」
「ん?嫌だった…?」
「いや、周りに呼ばれているのと同じだったからびっくりしただけ」
せんせーい。弥生ちゃんが可愛すぎまーす。
「そうなんだ。…あ、電車きた。
それじゃあね。もう行かないと…」
「そう…なんだ…」
メアドを聞け!
電話番号は?
今度一緒に遊びに行こう!
無理です。
「また、ここに来れる?」
「ええと…分からないけど…」
「その飴」
「うん?」
「次来るとき、その飴持ってきて」
「え?」
飴?
甘い物好きか?
「お願い」
「…分かった。来れるか分からないけど」
「来れるよきっと」
「そうかな。それじゃあまた、弥生」
「うん。また、コウちゃん」
そういって彼女と反対の電車に乗った。
気づいたときには見覚えのある駅。
時刻は五時四十五分。
友達との約束にはまだ、間に合う。




