柊side 第一章
-柊 side-
第一章 夢の入口
おれには、ひとつだけ、ふつうじゃないところがある。
——夢の中に入れること。
この能力が使えるようになったのは、
たぶん、拓真のことを好きになってからだ。
最初はただの偶然だと思ってた。
たっくんが見てる夢の中に、
たまたま迷いこんだだけだって。
でも回数を重ねるうちに分かった。
おれは、たっくんの夢の中にだけ、入りこめる。
今日もまた、たっくんの夢の中にいる。
目の前のたっくんは、どこかぼんやりした顔で立っていて、
おれはいつものように、決まったセリフを口にする。
「おれのこと、好きじゃなくなった……?」
なんで、いつもこの言葉なんだろうって、自分でも思う。
ほんとは逆がいいに決まってるのに。
でも、このセリフから始まる夢の中だけは、
いつもとちがう「もしも」が起きるかもしれないからだ。
たっくんが、おれのことを好きになってくれるかもしれない。
現実ではまだ言えないことを、
夢の中でだけ、こっそり試している。
ピピピピ——。
耳の奥で、目覚ましの音が鳴った。
「んー……」
世界が白くかすんでいって、
たっくんの姿も、さっきの言葉も、朝の光にとかされる。
目を開けると、天井と、見慣れたカーテンの柄。
枕元のスマホを止めて、ひとつ大きなあくびをした。
「……おはよ、自分」
布団をけっとばして起き上がる。
ここから先は、いつもの朝。いつもの、おれの一年が始まる。




