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魔族との同盟

帝国は沈黙を破った。


傀儡となった皇帝の名のもと、

帝国は魔族との同盟を宣言した。


それは、人間の歴史上、最も禁じられた協定。

かつて幾千もの戦争を生んだ種族同士が、

今、同じ旗の下に立つ。


理由は単純。

お互いに――“敵”を減らしたかった。


そしてその中心に立つのは、

勇者と呼ばれながら帝国を滅ぼした男、黒崎レン。


第七章『魔族との同盟』。

世界の秩序はここで終わり、

新たな支配の形が動き出す。

第一節 帝国声明


 帝国首都バルディア。

 傀儡の皇帝アレストが、玉座の上で書状を読み上げていた。

 その背後には、黒い衣をまとった黒崎レンが静かに立っている。


「本日をもって、我が帝国は魔族領との間に相互不可侵、並びに相互援助の条約を締結する。

 ――これにより、帝国と魔族は共に戦乱を避け、平和を築くことを誓う。」


 その言葉に、宮廷の空気が凍りついた。

 誰も声を出せない。

 その光景を、レンは冷めた瞳で見ていた。


(予定通りだ。混乱は想定の範囲内。)


 傀儡皇帝の言葉を最後まで言わせ、

 レンは静かに踵を返した。


「……次は、魔族の使者との会談だ。場所は地下の会議室。警備は要らない。」


 侍従が慌てて頷く。

 そのままレンは無言で廊下を歩き去った。

 帝国が魔族と同盟――

 この時、世界の均衡は音を立てて崩れ始めていた。



第二節 魔族との会談


 帝国の地下にある石造りの会議室。

 そこには、黒衣の魔族ゼルグレイスが座っていた。

 赤い双眸が闇の中に光り、口角をわずかに上げる。


「帝国の勇者、黒崎レン。

 あなたが……あの神の国を滅ぼした人間ですか。」


「神でも帝国でも、俺にとっては同じだ。邪魔だっただけだ。」


 レンは向かいの椅子に腰を下ろし、

 傀儡皇帝に代わって淡々と話を進める。


「要件を聞こう。」


「単純な話です。」

 ゼルグレイスは片手を上げ、長い爪で机を軽く叩く。

「我ら魔族は、神の名を掲げる人間たちに滅ぼされてきた。

 あなたは、その“神の国”を壊した。

 つまり、我らの敵を潰した。」


「だから、手を組みたいと?」


「利害は一致するはずです。

 あなたは、あなたを殺しに来る者を排除したい。

 我らは、神を信じる人間の国々を潰したい。」


 沈黙。

 レンはしばらくゼルグレイスの目を見た。

 その奥にあるのは野心ではなく、冷たい計算。

 まるで鏡を見ているようだった。


「……面白い。」

 レンは静かに答えた。

「同盟を結ぼう。ただし、支配権は俺が握る。

 俺の命令に従えないなら、協力は不要だ。」


「構いません。あなたのやり方を見届けよう。

 我らはただ、“敵”を減らしたいだけですので。」


 互いに手を差し出す。

 黒い爪と白い指先が触れ合い、

 小さな音を立てて契約の印が刻まれた。


 この瞬間――

 帝国と魔族の同盟が成立した。

 それは、人間の歴史上初めての“禁断の同盟”だった。



第三節 世界の反応


 同盟の報は瞬く間に世界中へと広がった。


 エルフ王国では、森の議会が騒然となる。

「人間が魔族と同盟? ありえない……!」

「帝国は狂ったのか!」


 ドワーフ王国では、交易の長老が怒りをあらわにする。

「鉄鉱の道が閉ざされるぞ! あの勇者の支配下に入るなんて!」


 そして神聖王国――

 大聖堂の鐘が鳴り響き、枢機卿が高らかに叫んだ。


「勇者レンこそ、神に仇なす者だ!

 彼は偽りの王、堕ちた人間!

 この世から抹消せねばならぬ!」


 その言葉に賛同する形で、

 人間諸国は次々と同盟を結んでいく。

 名目は「勇者封殺条約」。

 実質的には、黒崎レンを世界から排除するための多国間連合だった。



第四節 帝国宮殿・戦略会議


 帝国の地図が壁一面に広げられていた。

 その中央に立つレンが、無言で各国の印を見つめている。

 赤い印――それはすべて敵対国を示していた。


 ヴァルゼインが進み出て報告する。

「他国が連合軍を結成しました。

 第一波は神聖王国の聖騎士団、第二波がドワーフの重装兵、

 さらにエルフ国から弓兵部隊が加わるとのこと。」


「連合軍の数は?」


「推定で十万。すでに国境に集結中です。」


 レンは地図から目を離さず、静かに言った。

「……予想通りだ。

 人間は恐怖を力に変える。

 俺を恐れた結果が、これだ。」


 ネフィアが椅子に腰かけたまま笑う。

「どうする? 迎え撃つ?」


「いや、こちらから動く。」

 レンは指先で地図をなぞる。

「連合が揃う前に、隣国アルステリアを落とす。

 名目は領土拡大――だが、狙いは“芽を摘む”ことだ。」


 ザグレイドが小さく頷く。

「つまり、将来的にお前を殺す可能性がある国を先に潰す、と。」


「そういうことだ。」


 ヴァルゼインが問う。

「出撃の指揮は?」


「俺が取る。ただし、正面には出ない。

 ――命令だけで十分だ。」


 その声には、怒りも激情もなかった。

 ただ冷たく、すべてを計算し尽くした響きだけがあった。



第五節 侵攻開始


 数週間後の明朝。

 帝国・魔族連合軍、国境を越える。

 黒い旗が風にたなびき、兵の列が果てしなく続く。


 先頭に立つのは、魔族三将――ヴァルゼイン、ネフィア、ザグレイド。

 彼らは各々の軍を率い、

 炎と闇、幻を操りながら前進した。


 空を覆う黒雲の中、

 レンは帝都の塔から戦場を見下ろしていた。

 傀儡皇帝の報告を受けながら、

 彼は淡々と命令を下す。


「北方部隊、進軍開始。抵抗勢力は排除。

 民間人は保護対象外――戦場での判断に任せる。」


「はっ!」


 報告が続く中、

 レンは窓越しに遠くの炎を見つめた。

 その表情は、どこまでも静かだった。


「平和なんて望んでいない。

 俺が生き延びるなら、それでいい。」


 その言葉が口から零れた瞬間、

 戦場全体が赤く染まった。

 帝国と魔族の連合軍が、人間諸国への侵攻を開始したのだ。


 ――世界は、勇者の手で再び燃え上がった

帝国と魔族の同盟は、

ひとつの信仰と、ひとつの恐怖を同時に壊した。


世界は叫び、各国は慌てて手を取り合う。

それは平和のためではなく、

生き延びるための連合だった。


だが、黒崎レンはそのすべてを見透かしていた。


「人間は、恐れでしか動けない。」


そう呟いた声は冷たく、

その瞳にはわずかな憐れみすら浮かんでいた。


帝国と魔族の旗が、

世界を二分する炎となって翻る。


これは、勇者の戦争ではない。

ただ、ひとりの生存者が選んだ“合理的な戦い”の記録だ。

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