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傀儡の王

帝国は滅んだ。

だが、滅びは終わりではない。


黒崎レンは、破壊の果てに“支配”を選んだ。


皇帝は鎖に繋がれ、魔術師は沈黙した。

それでも彼らは生かされ、再び玉座に戻る。

だが、今の帝国に“意思”はない。


語る声はレンのもの、

祈る民はレンの幻影を見上げる。


――神の国は死んだ。

 そしてその骸に、新たな王が座した。


第六章『傀儡の王』。

これは、滅びの中に築かれた“偽りの秩序”の物語。

◆第一節 尋問と真実


 音のない亜空間。

 黒い鎖に縛られた皇帝アレストと宮廷魔術師ザルヴァートは、

 目の前の少年――黒崎レンの姿を見据えていた。


 少年の手には禁書《原罪の書》。

 ページが自動で開き、赤い光が二人を照らす。


「質問に答えろ。

 勇者召喚――なぜそんなものを繰り返した?」


 皇帝は唇を噛み、沈黙する。

 代わりにザルヴァートが口を開いた。


「……信仰だ。

 神の声を失ってから、帝国は力を保てなかった。

 だから我らは異界の勇者を呼び、その魂の力を――“神”の代わりに使った。」


「魂を、神の代わりに?」


「そうだ。勇者の魂は純粋だ。

 異界の人間は、ここの理に汚されていない。

 その魂を抽出し、神殿の水晶へ封じる。

 それが“神の声”として再生される。

 ……祈りを繋ぐための、偽りの装置だったのだ。」


 レンは静かに頷いた。

 その目に、怒りはなかった。

 あるのは――冷え切った理性だけ。


「なるほど。

 つまりお前たちは、“神”を創るために異界を食ったってわけか。」


 アレストが顔を上げた。


「違う! 我らは民を導くために――!」


「導く? それは支配の言い換えだ。」


 レンが指を鳴らすと、鎖がわずかに締まった。

 二人の身体が震え、声を詰まらせる。


「祈りを食い物にし、魂を燃料にして、

 それを“神の奇跡”と呼んだ。

 ……くだらねぇ茶番だな。」


 その言葉は淡々としていた。

 だが、空間そのものが微かに震える。

 彼の怒りは、もはや感情ではなく“意思”に変わっていた。


「あんたらの神は、もう死んだ。

 今度は――お前らが、俺の下に立て。」


 その瞬間、鎖が光を放ち、

 二人の首筋に黒い紋章が刻まれた。


「……っ! これは……!?」

「契約だ。俺の理の下で、二度と“偽り”を口にできないようにする。」


 レンは立ち上がり、静かに背を向けた。


「生かす価値があるだけ、まだ幸運だと思え。」



◆第二節 複製体計画


 レンは亜空間の中心で、禁書を開いた。

 そこに記されたのは、存在複製と魂転写の術式。


「……これを使えば、“本物”を殺さずに済む。」


 彼は指先で空をなぞり、二人の輪郭を魔力でなぞる。

 光が分裂し、そこに“もう一人の皇帝”と“もう一人の魔術師”が生まれた。

 その姿も声も、完全に同一。


「これが、お前らの代わりに帝国を動かす“器”だ。」


 ヴァルゼインが跪く。


「主よ、この複製に、どのような意思を宿されますか?」

「俺の理だ。

 命令、忠誠、統制――全部、俺の魔力で縛る。」


 複製体の目が開き、

 その瞳にレンの魔力の紋章が浮かんだ。


「これでいい。

 “神の国”は死んだ。

 今度は、“俺の国”として動いてもらう。」



◆第三節 傀儡の帝国


 数日後。

 帝都は表面上、平穏を取り戻していた。

 新たな皇帝と宮廷魔術師が、民の前に姿を現す。


『神の沈黙を打ち破り、我らは再び祝福を得た!』


 群衆が歓声を上げ、鐘が鳴り響く。

 だが、その声の裏で――

 帝国の中心に座る黒崎レンは、静かにその光景を見ていた。


 民は喜び、祈りを捧げる。

 けれど、その“神”はもう存在しない。

 祈りの先にあるのは、ただ一人の異界の少年。


「人は祈る対象さえあれば満足する。

 真実も偽りも、関係ねぇ。

 ……なら、利用しない手はない。」


 ヴァルゼインが一礼し、報告を告げる。


「主の理、帝国全土に浸透を確認。

 反乱の兆しは皆無。」


「よし。

 このまま“神の奇跡”を演出してやれ。

 民が望むなら、どんな幻でもくれてやるさ。」


 ネフィアが冷たい笑みを浮かべる。


「あなたって、本当に人間が好きなのね。」


「好きじゃないさ。

 ただ、観察する価値があるだけだ。」


 その言葉に、ザグレイドが小さく笑った。


「主よ、外の国々が動き始めています。

 “沈黙した帝国”が突然復興したことで、

 他国が怪しんでいるようです。」


「そうか。

 なら――そろそろ、“外の世界”にも顔を出す頃かもな。」


 レンは立ち上がり、静かに空を見上げた。

 帝都の上空には、薄く裂けた亜空間の境界が揺れていた。

 その向こうに、未知の闇が待っている。



◆第五節 影の訪問者


 夜。

 帝国の城壁の外、黒き霧が漂う。

 そこに、ひとつの影が姿を現した。

 人ではない。

 角と翼を持つ、魔族のような存在。


「……見事だな、“異界の王”。」


 低く、笑うような声が響く。


「人の国を傀儡にし、神を否定し、理を支配するか。

 我ら魔族の王が――お前に興味を持った。」


 その声に、レンは薄く笑った。


「……面白い。

 なら、次は――お前たちの世界を見せてもらおうか。」


 夜風が吹き抜け、

 帝国の城壁に影が溶けていった。

神を失った帝国は、黒き手によって再び動き出した。


皇帝は玉座に戻り、魔術師は忠誠を誓う。

だが、それはすべて――黒崎レンの意志によるもの。


民は知らない。

祈りを捧げるその先に、

もはや神も救いも存在しないことを。


ただ、一人の青年の影があるだけ。


滅びの跡に残ったのは、支配と静寂。

だがその静寂こそ、帝国にとっての“平和”だった。


そしてレンは、ただ静かに見下ろしていた。


「……これでいい。

 偽りの国は、偽りのまま生きていればいい。」


その言葉とともに、帝国は沈黙した。


――神の国は終わり、

  人の理による“傀儡の帝国”が誕生した。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。


7章も力を入れていきたいと思っております。

今後とも、宜しくお願い致します。

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