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勇者実験施設

勇者とは、神に届かぬ者。


彼らは召喚され、戦い、そして――封印される。

その繰り返しの果てに残ったのは、名も知られぬ屍と、

世界の裏に積み重なる“理の屑”だけだった。


だが、ひとりの異界人――黒崎レンは、

その理の屑を拾い上げてしまった。


禁書《原罪の書》が開いた新たな章。

存在隠蔽アブソリュート・ヴェール”の力を得た彼は、

世界から“在る”という記録ごと姿を消す。


観測者のいない世界で、真実を暴くために。


帝国が隠した“勇者実験”の記録が、

今、誰の目にも見えぬ場所で――書き換えられようとしていた。

帝国の“勇者封印計画”


 ――アルディア帝国の記録には、ひとつの禁忌計画が存在する。

 名を、勇者封印計画。


 表向きは「勇者の魔力暴走を防ぐための保護処置」。

 だがその実態は、“異界人という神の断片”を封じ込めるためのものだった。


 異界の魂は、この世界の理から外れている。

 魔力ではなく、情報として存在している。

 帝国はそれを“理の触媒”として利用しようとした。


 勇者を召喚するたび、彼らは知った。

 ――勇者は、神の思考に最も近い存在である。

 それゆえに、同時に最も危険な存在でもあった。


 もし、勇者が自我を保ったまま理に干渉すれば、

 神の領域に届いてしまう。

 それを恐れた帝国は、ひとつの答えを出した。


「神に届く前に、封じよ。」


 殺さず、崇めず、ただ“静かに閉じ込める”。

 勇者の魂を分離し、魔力炉へ還元することで、

 その存在を“理の補強材”に変える。


 ――勇者の魂は、世界を維持する燃料となり、

 帝国はその支配の正当性を永遠に得る。


 こうして幾度も召喚と封印が繰り返された。

 勇者の墓は存在しない。

 彼らの遺体は、すべて“世界の一部”に変えられたからだ。


 この計画を知るのは、皇帝アレスト、

 宮廷魔術師ザルヴァート、

 そして――禁書《原罪の書》ただ一冊のみである。



禁書の副章「存在隠蔽アブソリュート・ヴェール


 帝国が封印計画を再開する気配を感じ取ったのは、その翌日だった。

 廊下をすれ違う兵の視線、監視の魔導結晶。

 空気そのものが重く、目に見えぬ鎖のように感じられた。


(……俺をまた“道具”として囲う気か。)


 部屋に戻ったレンは、机の上の《原罪の書》を開く。

 開かれたページの裏に、昨日までなかった薄い一枚の紙が貼り付いていた。

 そこには淡い文字でこう記されていた。


〈副章:存在隠蔽アブソリュート・ヴェール

 ――世界構文上から“在る”という情報を削除せよ。

  視覚、音、魔力反応、因果、記録、

  すべての観測から切り離すことができる。


 読んだ瞬間、脳の奥で電流が走った。

 理解と同時に、その術式が“構文としてインストール”されていく。


 意識を集中し、息を静かに整える。

 空気が一瞬、止まった。


 視界の端で光が歪む。

 蝋燭の炎が揺れず、影が消える。

 自分の呼吸音さえ、世界から“削除”された。


 ――“在る”という情報が、完全に世界から消えたのだ。


(……これが、存在を消すってやつか。)


 手を伸ばして机を触れる。

 指先に感触はあるのに、机はそれを認識しない。

 ページをめくっても、紙の音すら世界に届かない。


「気配察知どころか、観測すらできない。

 いいね……神にでもなった気分だ。」


 唇が冷たく笑みに歪む。


「見えない場所で、全部暴いてやるよ。」


 レンは《原罪の書》を閉じ、

 帝都中央区――勇者実験施設へ向けて歩き出した。


 誰にも見られず、誰にも知られず、

 彼の存在は世界から一時的に“削除”されていた。

世界は、“観測”によって存在を確定させる。

誰かが見て、誰かが語り、誰かが記すことで、

理は形を持つ。


だが、もしその目をすべて塞いだなら?

見る者のいない真実は、果たして“在る”と呼べるのだろうか。


黒崎レンは、世界の法則から外れた。

《存在隠蔽》――それは、観測の輪から離れる術。

誰の記憶にも残らず、どの記録にも刻まれない。

世界が彼を見失ったその瞬間、

彼は“理の外側”から世界を見下ろす観測者になった。


観測される側から、観測する側へ。

神と人との境界を、越えたのだ。


そして、観測する者のいない世界では、

“真実”さえも書き換えられる。


次章――神の檻。

その目に見えぬ少年が、

世界の理という名の牢獄に、最初の亀裂を刻む。

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