第8章:雫の決別と、教師の誤解
第8章:雫の決別と、教師の誤解
雫の告白:過去への決別と新たな一歩
佐伯雄太が自白し、学園の闇が一掃された夕方。久我は職員室で事件の顛末を報告する書類を作成していた。
その時、職員室のドアが控えめにノックされ、月島雫が静かに姿を現した。彼女の顔には、事件に巻き込まれていた時の怯えや罪悪感はなく、どこか吹っ切れたような、清々しい表情が浮かんでいる。
久我はペンを置き、優しく声をかけた。
「月島さん、もう大丈夫なのか?」
雫は久我の優しい問いかけに静かに頷くと、視線を佐伯が座っていた席へと向けた。
「先生、佐伯先輩の自白、見届けました。私が盗みを強要されていたことも、すべて公になったんですよね」
久我は優しく頷き返した。
「ああ。すべて明らかになった。君が盗んだブラジャーも、蘭先生が証拠品として処理してくれた。もう、誰も君を責めたりはしない」
久我の言葉を聞くと、雫は深呼吸をし、ポケットから小さく折りたたまれた手紙を取り出した。それは、佐伯宛てのものだった。
「私、佐伯先輩に、ちゃんとお別れを言おうと思って」
久我は言葉を待った。雫は手紙を握りしめ、まるで自分に言い聞かせるように、震える声で告白した。
「私、佐伯先輩のことが好きだったんです。入学したての頃、学校の裏で不良の人たちに絡まれていた私を、佐伯先輩が助けてくれたんです。その時の先輩は、ただ優しくて、誰も私のことを見てくれない時に、私に初めて手を差し伸べてくれた。生徒会も、皆のためにっていつも遅くまで残って頑張ってた。憧れだった。良くないことだと思ったけど、下着を売ったお金もみんな生徒会に寄付してた。だから、彼に認めてもらいたくて、彼が私を見てくれるなら、どんなことでもするって思っちゃって……」
「……そうか。佐伯の抱える闇は深かったが、君にとって佐伯は、光だった時期もあったんだな」
「はい……でも、あの人、白鳥麗が生徒会に入ってから先輩は人が変わったようになった」
久我の脳裏には、彼女の胸に触れた時に読み取った、あの切ない「先輩に嫌われたくない」という心の叫びが蘇った。
雫は久我の顔をまっすぐ見つめると、瞳に強い光を宿して続けた。
「でも、先生が助けてくれて、気がついたんです。あの時の私の気持ちは、本当の『好き』じゃなかった。ただ、誰かに必要とされたいだけの、依存だったんだって」
そして、雫は顔を紅潮させながら、決意に満ちた言葉を口にした。
「だから、もう大丈夫。私には、本当に大切にしたい人、本当に好きな人ができたから」
(雫 モノローグ):(先生、この『好きな人』は、先生のことですよ。佐伯先輩への気持ちは依存だった。でも、先生へのこの気持ちは、私を過去から救ってくれた、本当の『好き』なんです!)
彼女の視線が、久我の顔に釘付けになった。
久我先生は、その言葉にパッと顔を輝かせた。「そうか!それは本当に良かった!君を大切にしてくれる人なのか?」と、教師としての最高の祝福を口にした。
雫は、喜びで瞳を潤ませながら、さらに核心へと踏み込む。「はい……。私を、誰よりも大切にしてくれた人だから。私、ずっと自分に自信がなくて、誰ともちゃんと向き合えなかったんです。でも、その人が、私の一番醜い部分も、一番弱い部分も、全部知ってくれました」
久我先生は、真剣な顔で頷く。「ああ、そうだろう。君の過去の過ちや、あのブラジャーの件まで、すべて受け入れたんだからな。出来た人だ」
雫は「そうなんです。最初は、先生が光をくれた。でも、本当に救ってくれたのは、あの人です。ブラジャーの盗難を知っていても、『大丈夫だ。君を助ける』って言って手を差し伸べてくれたんです!」と、久我自身の行動を彼氏の献身として語った。
久我は「そうか。君を過去から救い出した、真の英雄というわけだ。ぜひ、その彼を大切にしなさい」と、目を細める。
雫は「佐伯先輩には、今までありがとうございました、って伝えてください。私は、もう過去には戻りません。先生が助けてくれたから、今の私がある」と、久我への愛を重ねた。
久我は親指を立て、「ああ、もちろんだ。君の幸せが、先生にとっての最高の幸せだよ。これからは、君も幸せになるんだ」と、満面の笑みで答えた。
キス待ちと教師のハグ
雫は一息つくと、表情を引き締めて久我を見つめた。
「最後に、先生。白鳥さんには気をつけて。佐伯先輩だけじゃない、彼女に近づいた人、みんなおかしくなった。あの人は、魔性の女だから」
雫は、意を決し久我先生に一歩近づいた。キスをねだりたい。極度の緊張と羞恥心から、顔を少しだけ右に傾けるキス待ちのポーズを取ってしまった。雫は「あの……せんせ」と呟き、そっと唇を潤ませるように舌で撫で、目を閉じる。
久我は、目を閉じ顔を傾けている雫を見て、鼓動が耳鳴りのように響くのを感じ、猛烈に混乱した。
(久我 モノローグ):(待て、なんだこれは!?キス?いや、違う!そんなはずはない!これは感謝と、新しい恋への決意だ!ここで動揺してはいけない!教師の俺が、ここで本能に負けるわけにはいかない!)
久我は、教師としての熱意を込め、雫の肩をガシッと掴んだ。「よし!月島さん、分かったぞ! 先生の気持ちは、この体で伝える!」
久我は、雫を力強く抱きしめた! 頬へのキスを待つ雫の顔は、久我の固い肩に押し付けられた。
雫は「ふぇ!?……せんせ?」と小さく声を上げ、次の瞬間、久我の背中にぎゅっと腕を回し返した。久我の熱血監督のような激励を、**「愛の祝福」**として受け止め、久我の肩口に顔を押し付けながら涙目で「はいっ……!せんせ、ありがとうございます!私、頑張ります!」と感謝を述べて、職員室を後にした。
狂乱の羨望と、佐伯からのLINE
雫が去った後、久我奏太は一人デスクで、激しい羨望に駆られる。
(久我 モノローグ):(くそっ……!あんな健気で良い子が彼女なんて羨ましい!冗談抜きで、俺が付き合いたいくらいだ。見た目も顔も性格も、そしてあの程よい胸の大きさまで、本当に俺のど真ん中、めちゃくちゃタイプだ。職員室で抱きしめた時、背中に回した腕の熱、押し付けられた柔らかな感触を、今だって鮮明に思い出せる!くぅ〜月島さんを独占できるなんて、どんな前世の徳を積んだんだ、その男は!)
その時、久我のスマホに佐伯雄太からメッセージが届く。
[佐伯雄太]:
久我先生。謹慎中にもかかわらず、ご連絡失礼します。
先生が月島さんを救ったことは、私も認めます。
でもね、私も、彼女が孤独で誰も見ていない時に、彼女に**『存在価値』**を与えていたんです。彼女は私にとって、手のかかる妹のようなものだった。この事実は変わりませんよ。
先生。私たちの違いは、『愛』という名の支配の方法でしかないんです。先生も、彼女の心という最も醜い秘密を握り、愛を与えて、その心を支配していらっしゃる。私と先生は、同じ穴の狢だ。
だからこそ、理解できる。先生が職員室で彼女を抱きしめたのは、教師の理性を保つための方便でしょう?月島は、もう貴方のことが好きでしょうがない。夢中ですよ、先生。彼女は付き合いたいと思っている。私のような歪んだ愛から離れ、貴方という『偽りの光』に本気で恋しているんだ。
月島を前にして、先生の股間が疼くたび、あなたは**『教師の理性』で押さえ込もうとしたでしょう。その『理性の壁』の裏側で、あなたは彼女の体を、彼女の純粋さを独占したいと、強く願っているだろ?**
月島さんは、無垢で純粋な子だ。先生でなければ、また別の誰かに依存してしまう。**だから、絶対に離さないでください。先生が彼女の『偽りの光』ではなく、『真の光』**となって、彼女の愛を、その依存を、一生背負い続けてください。
さあ、久我先生。月島が心底惚れているあなたなら、月島さんという**『私の最高傑作』を、『先生の最高傑作』**に塗り替えてみせてくださいよ。
彼女は、まだ誰も手をつけていない処女です。彼女の**『支配者』**として、どうか彼女の全てを染め上げて差し上げてほしい。
(佐伯……!お前は最後まで、自分の歪んだ支配欲を肯定するのか……!)
久我は、握りしめたスマホの画面を睨みつけた。佐伯の言葉は、まるで熱を持ったナイフのように、久我の心を抉った。
(久我のモノローグ):(――独占したい?ああ、そうだ。月島さんのように素直で可愛らしい子と付き合いたいと、俺だって思ったさ。職員室で抱きしめた瞬間、胸が激しく高鳴ったのは本当だ。だが、違う! あれは佐伯のお前のような卑しい欲望じゃない。彼女を悪意から守りたいという正義だと思いたい)
(月島さんは、俺という教師の生き方を認めてくれたんだ。佐伯……お前の『最高傑作』という言葉は歪んでいるが、月島さんへの想いは本物だったんだな。『月島を大切にしろ』というお前の最後の『託し』、教師として、この**『新しい彼氏』を全力でサポート**させてもらう!)
佐伯の「妹のようなもの」「無垢で純粋な子」という言葉は、まるで久我が無意識に求めていた**「純粋な関係性」**を代弁しているかのようだった。
久我は、佐伯の**「恋愛の託し」を最後まで理解せず、「月島さんの新しい恋を成功させる教師としての使命」**を託されたと、完全に自己完結し、**白鳥麗という「魔性の女」**の闇に立ち向かう決意を新たにするのであった。




