第5章:暴かれる悪意と、完全犯罪の計画
第5章:暴かれる悪意と、完全犯罪の計画
久我は、保健室で月島雫の「心の声」を読み取った。それは、学園の闇を映し出す、おぞましい記憶だった。生徒会の幹部がブラジャーを盗ませ、SNSで売買しているという真実。久我は、その闇の根源である佐伯雄太を、生徒指導室に呼び出した。
佐伯は、生徒たちから絶大な信頼を寄せられる優等生。頭脳明晰で、指導室という場所で向き合っても、その完璧な仮面はびくともしない。
「先生、一体何のお話でしょうか?僕は、生徒会長のブラジャーが盗まれたことなんて知りませんよ」
久我は、佐伯の心に蠢く黒い感情をはっきりと捉えていた。獲物を弄ぶような、歪んだ愉悦の感情だ。
「とぼけるな!君がブラジャーを盗ませ、SNSで売買していることを知っているんだぞ!月島さんに、盗ませたんだろう?」
久我の言葉に、佐伯の顔色が一瞬で変わった。だが、すぐに嘲笑を浮かべ、余裕ぶった態度に戻る。
「…証拠は?」
その一言が、久我の心臓を鷲掴みにした。そうだ。証拠がなければ、この男を追い詰めることはできない。久我の能力は、心の闇を暴くことはできても、警察に通じるような物理的な証拠にはならない。久我の焦燥を読み取った佐伯は、追撃するように言い放つ。
「ああ、月島ね。……正直、あんな地味でブスですよ。利用する以外に価値なんてないでしょう」
久我の脳裏には、小動物のように可憐な月島の姿が浮かぶ。あの美少女が、こんなクソ野郎に利用されていたことに、久我の腹の底から激しい怒りが湧き上がった。だが、それと同時に、無力感が久我の胸を締め付ける。この悪意に、自分は心の声を読むこと以外で対抗できないのかと。
佐伯は久我の感情を見透かし、最も卑劣な言葉で核心を突く。
「先生、僕を疑わないでくださいよ。…僕が言えば、先生も月島のこと好きにして良いんですよ? 先生、何だか月島のこと好きみたいだし。あげますよ。先生モテて経験豊富そうだから物足りないかもですが、月島正真正銘の処女ですよ。先生の色に染めてください」
佐伯は、月島を物のように扱い、久我の「救済」という動機を卑しい欲望へと巧妙にすり替えた。
「先生、僕たち、やっていることは同じじゃありませんか?先生も、彼女の心という名の愛を与えて、その心を支配する。ふふ、同じ穴の狢ですよ」
佐伯の言葉は、久我の最も弱い部分を的確に突き刺した。久我の心の中で、「正義」と「支配欲」が激しく衝突する。しかし、久我はその毒を断ち切った。目の前の男の悪意は、久我の心を揺さぶる資格さえない。久我は怒りを堪え、冷たく言い放つ。
**「戯言を。僕が君と同じだなどと、笑わせるな。**どんなに上手く隠しても、君がやったことは僕にはわかる。ブラジャーに、君の悪意がこびりついている」
久我のその言葉に、佐伯は自分が追いつめられていることを確信した。
佐伯は久我に背を向け、悠然と指導室を去っていく。ドアに手をかけたところで、佐伯は久我を一瞥し、冷酷に言い放った。
「ああ、そうだ。僕の父は PTA の役員で、この学園の理事とも親しいんですよ、久我先生。変な真似をすると、あなたの方が潰れますよ」
久我は彼を追うことができなかった。佐伯が向かう先を、彼の脳裏ははっきりと捉えていた。




