第12章:蘭の真実と、後継者としての試練
第12章:蘭の真実と、後継者としての試練
後継者と、その試練
遥との一件の次の日。久我は、遥の涙と、彼女が訴えかけた心の叫びについて、ずっと考えていた。彼は、自分の心が、生徒たちの心の闇だけでなく、遥の**「独占したい」**という激しい感情にも深く囚われていることを自覚していた。
部屋のインターホンが鳴り響き、モニターに映っていたのは、保健医の**黒崎 蘭だった。その艶やかな姿は、昨日の遥の涙とは真逆の、底知れぬ謎をはらんでいる。久我は、蘭の出現によって、停止しかけていた思考を、再びこの学園の「闇」**に引き戻されることを悟った。
「久我先生。佐伯君の件、ご苦労様。でも、これで終わりだなんて思っていないでしょう?白いブラジャーは誰のだったのか」
久我は、自宅の玄関で、目の前の光景に言葉を失った。蘭が、ゆっくりとブラウスのボタンを外し、その下に身につけていた、黒い下着姿を露わにしている。
「ウフフ、白かと思った?残念ね。今日は黒のブラジャーよ…。白いブラジャーの謎と、もう一つ。先生、私の胸を揉んでも、何も分からなかったでしょう?答えを知りたいかしらね」
蘭は久我の目をまっすぐに見つめて言った。
「あなたの能力は、他人の心の闇を読み取る、まるで呪いのような力。でも、私には、その記憶を消すこともできるの」
ゾッとするような真実だった。久我の能力が蘭の胸に効かなかったのは、蘭が自分の記憶を意図的に消去していたからだ。彼女は、久我の力を試しながらも、自分の内面を見せることを拒んでいたのだ。
蘭は、さらに言葉を続けた。
「さて、あなたが最初に見つけた、あの白いブラジャー…。その持ち主は、私よ」
久我は、背筋が凍りつくのを感じた。あのブラジャーは、蘭が久我を試すための、最初の「鍵」だったのか。
「あのブラジャーから何も感じなかったでしょう?…それは、あなたの能力がまだ未熟だったから。でも、最終的にあなたが読めたのは…」
蘭は妖艶に微笑んだ。
「そのブラジャーに、私が**『悲しみ』という感情を込めたからよ。私の能力は、他者の感情を模倣し、物質に定着させる力。そして、あなたの力を増幅させる『触媒』**なの」
蘭の能力が、久我の力を一段階進化させた。ブラジャー越しに記憶を読めるようになった理由が、これで明らかになった。
真の試練と、愛憎の暴走
しかし、まだ疑問が残る。佐伯が盗んだ麗のブラジャーから、なぜ佐伯の記憶が読めたのか。
久我は、その疑問を蘭にぶつけようとした。しかし、蘭の方が先に口を開いた。
「佐伯君のブラジャーも、私があなたに渡す前に、触っていたわ。彼の醜い記憶を消すため、なんて思っていないでしょうね?」
久我は、息をのんだ。蘭の瞳は、冷たい光を宿している。
「いいえ。逆よ。彼の歪んだ愛を、ブラジャーに濃縮してあげたの。あなたが、この学園の闇の底を直に覗けるように」
その言葉は、蘭が、久我の知らないところで、この事件全体を操っていたことを意味していた。彼女は、久我を試すために、わざと佐伯の記憶を増幅させたのだ。
「私には分かるのよ、先生。あなたが本当に見るべきものは、他人の醜い欲望ではない。もっと、深い…」
蘭はそう言って、久我に近づき、彼の耳元で囁いた。
「あなたの能力は、誰かの悪意を読み取るだけではない。私の悲しみ、そして誰かの愛も読み取ることができる。その力を、この学園を救うために使ってほしいの」
久我は、蘭が久我と同じ特異な力を持つ存在を探していたのだと悟った。
その時、玄関の奥から、ツインテールの少女、黒瀬 遥が姿を現した。久我のブカブカなTシャツとスウェットパンツ姿だ。
「先生、まだ起きてたの?…あ、もしかして私がいなくて、寂しくて眠れなかったとか?」
遥はそう言って、どこか誇らしげな表情を浮かべた。
「あの時、私がブラジャーを渡したのは、先生の能力が本物か試すためだったの。変態童貞教師じゃなければ、あのブラジャーから何も感じないはず…って、蘭先生が言ってたから」
遥の言葉に、久我は驚愕した。これまでの彼女のツンデレな態度は、すべて久我の能力を測るための**「試験」**だったのだ。
蘭は静かに頷き、遥に視線を向ける。
「早乙女校長は、かつてあなたと同じ能力を持っていました。ですが、彼女は『本当の愛』を知り、それを失うと同時に力を失ってしまったわ。この事件は、すべて校長があなたを後継者として選ぶための、壮大な**『後継者試験』**だったの」
遥は、蘭の視線に一瞬怯んだように見えたが、すぐに久我の袖を掴んだ。
蘭は、そんな遥を見て、微かに口角を上げた。
「ただ、一つだけ誤算があったわ。あの娘は、先生を試しているうちに、あなたのことを**『支配したい』**という本能的な愛に目覚めてしまったようね。あの涙と、あなたの家に来たことは、もう試験の合否とは関係のない、彼女自身の愛憎の暴走よ」
遥は、顔を真っ赤に染め、蘭の言葉を否定するように久我の胸倉を強く掴んだ。
「ち、違う!別に、先生のことなんて好きじゃないし!ただ、先生の童貞は、私が最初にもらう権利があるって言ってるだけ!」
その必死な叫びは、蘭の冷たい指摘よりも、久我の心に深く突き刺さった。
後継者試験の終焉
蘭は、冷たい視線を久我の背後へと向けた。久我のブカブカなTシャツとスウェットパンツ姿で立つ遥の姿を上から下まで眺め、意地の悪い笑みを浮かべる。
「昨日はお楽しみだったのかしら?」
蘭は、ブラウスを留めずに、艶やかな黒い下着を露わにしたまま、楽しそうに言った。
蘭の言葉に、遥は顔を真っ赤に染め、久我の胸倉を掴んでいた手を咄嗟に離した。
「な、なな、何言ってんのよ!お、お楽しみなんかじゃないわ!これはその…っ、先生が、変な夢見て魘されてるか確認してやっただけよ!別に、寂しがってる先生の隣に寝てあげたとかじゃないし!」
遥は必死に否定したが、久我の服を借りている事実が、彼女の言い訳の信憑性を完全に奪っていた。
そして、久我もまた、顔を耳まで真っ赤にしていた。蘭にブラジャーの真実と試験のすべてを理解させられたはずなのに、遥との一夜について問われると、理性とは関係なく動揺し、言葉を失った。
二人真っ赤な顔で、顔を見合わせることさえできない久我と遥を見て、蘭は満足そうに微笑んだ。
「ウフフ、無駄かしら?私は、あなたの心の闇だけでなく、**『愛憎』**も読み取る力が成長したか、確認したかっただけよ。結果は上々ね。先生、あなたはもう、後継者試験を終えたわ」
すべてが、一瞬で久我の脳裏に流れ込んだ。
久我の**「呪い」が、誰かの「希望」**へと変わる瞬間だった。蘭は静かに久我に告げた。
「…私たちを、救って」
久我は、蘭と遥、そして校長の早乙女咲の、複雑な思惑と悲しみの連鎖を理解した。彼は、自分の能力が、そんな彼女たちを救うための唯一の**「光」**であることを悟った。
彼は、遥との間に生まれた愛憎渦巻く特別な感情、そして麗とのデートで感じた純粋な温かさを胸に、この学園に潜む真の闇に立ち向かうことを決意した。
【第一部・完】




