第8話 図書館の最初の謎とふたりの決意[4]
図書館の最深部、階段の先にある資料保管室。
開架ではない、閉じられた扉の向こう、職員しか立ち入れないその部屋へ、ふたりは静かに忍び込んだ。
鍵はかかっていなかった。
けれど、中に入った瞬間、息が詰まるような空気に包まれる。
ホコリの匂い。紙のにおい。静かすぎる空間。
「……あった」
そらたが、小さな棚の最下段に、やや厚めの古い本を見つけた。
カバーもなく、タイトルも色褪せかけていたけれど――確かにそこには書かれていた。
『まほうのとびら』
なつみがその本を両手で抱きしめた。
「お姉ちゃん……やっぱり、ここにいたんだね」
その声は涙交じりだった。
けれど、それは悲しみの涙ではなかった。
「行こう。とびらの前へ」
ふたりは再び、地下の“秘密の扉”へと向かった。
本を開くと、最後のページに一枚のしおりが挟まれていた。
手書きのメモがそこにあった。
『まほうのとびらは、きっとひらく。
あなたが、あなたのままでいられるなら』
――お姉ちゃんより
その文字は、なつみの記憶にある、お姉ちゃんの筆跡だった。
震えそうな手で、なつみはその本を壁に向かって差し出した。
――その瞬間、扉の中から、カチリ、と何かが外れる音がした。
「動いた……!」
ごうん、と低くうなるような音。
そして目の前の壁が、まるで幻のようにかすれ、奥に隠されていた通路がゆっくりと現れた。
「……ほんとうに、“まほうのとびら”だったんだ」
なつみがぽつりと呟いた。
そらたは、横に立つなつみを見て、静かに言った。
「この先に何があるか、わからないけど……一緒に行こう。なっちゃんが“ゆうしゃ”で、僕が“魔法使い”なんだから」
なつみはこくんと頷いた。
その顔に浮かんでいたのは、勇気と、決意と――少しの不安。
けれど、それでも前に進む強さが、彼女の背中にはあった。
ふたりは手を繋ぎ、ゆっくりと“まほうのとびら”の奥へと歩き出した。
まほうのとびら―――。
大人にとっては、ただの図書館の一角にある古いドア。
でもふたりには冒険を予感させる"まほうのとびら"に見えた。
――それは、ふたりの“冒険”の、ほんとうの始まりだった。