第5話 図書館の最初の謎とふたりの決意[1]
昨日の帰り道、なつみはそらたに「明日、ひとつ行きたいところがあるんだ」と言った。
歩道の影を並べながら、彼女の声は真剣で、けれどどこかワクワクも混じっていた。
「図書館?」
「うん。ちょっと、気になることがあってね」
この日、ふたりが向かったのは市立図書館。
けれど、ただの読書のためではない。
なつみは肩までの髪を高めの位置でポニーテールにまとめ、栗色の髪が陽にきらめいている。
白い半袖シャツに、小さなワッペンのついた紺のミニスカート。その下には黒いスパッツがのぞいていた。
暑さに負けない、夏の“ゆうしゃ”スタイル。
一方そらたは、すこし大きめのTシャツに半ズボン。黒髪を分け目もつけずにざっくり整えて、眼鏡の奥の瞳がどこか緊張気味だった。
背中のリュックには、お手製のまほうつかいの帽子と、拾った枝で作った杖を忍ばせていた。
「ちゃんと持ってきたよ」
そらたはなつみにそっと帽子を見せた。折り紙と画用紙を組み合わせた、三角帽子。ところどころ、セロハンテープの跡が目立つ。
「かっこいいじゃん!」
なつみは笑った。声が明るくて、空に飛んでいきそうだった。
「でも、図書館の中じゃ、帽子も杖も禁止だからね」
「う、うん……それはわかってるけどさ」
そらたは帽子をリュックにしまいながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ぼくなりに、ちゃんと、まほうつかいでいたいなって思って」
なつみは一瞬きょとんとしてから、ふっと目を細めた。
「うん。ありがとう」
なつみは、お姉ちゃんが最後に残した言葉とノートを手がかりに、ある“場所”を探していた。それは、お姉ちゃんがかつて「ほんとうの魔法」を見つけた場所。その場所に、何かが残されていると信じていた。
そらたはその目的をまだ知らない。
でも彼は、なつみの言葉を信じていた。
「……なっちゃんの冒険には、ちゃんと意味があるって、僕は思ってる」
なつみは少し驚いたようにそらたを見た。
「……聞かないの?」
「うん。なっちゃんが話したくなったら、きっと話してくれるから」
その言葉に、なつみの胸の奥がほんのり熱くなった。
「ありがとう、そらた」
「ぼく、勇者にはなれないけど……魔法使いなら、なっちゃんのそばにいられるから」
帽子のつばを直しながら、そらたは小さな声でつぶやいた。
なつみはふっと笑った。
―――そう、そらたがそばにいてくれるなら、どんな“まおう”だって、きっとこわくない。
ふたりは図書館の階段をのぼり、涼しい空気の中へ足を踏み入れた。