第7話アーダリは街に出る
アーダリとアメリーはホテルを出て、物件探しに街へ出ます。
ただ、その前に空腹なので、食事をしに行きます。
ホテルを出ますと、通りは人や馬車、タクシー、市電の他に
時おり自動車が走っており、本日も賑やかです。
「本日も賑やかですね」
わたくしがこう言いますと
「これもフリードリッヒ様のお陰です」
とアメリーが答えます。
「確かに、お父様が経済、技術、軍事の発展に尽力し、平民を豊かにしましたからね」
「それなのに、その娘のアーダリさんときたら……」
アメリーは「はぁ」とため息をつきます。
「アメリー、ここは『そうですね。アーダリ様もご立派です』と言う所ですよ」
わたくしがこのように言いますと
「は?家を追放された方が、何を言っているんですか?ご自分が何を言っているか理解しています?」
といつも以上に強く当たってきます。
「と、とにかく、良い物件がないか、探しに行きましょう!」
と無理やり話題を変えます。
「そうですね。もう13時になりますからね」
アメリーは懐中時計を出して、時間を確かめます。
「ところで、アメリー。ここに来てからずっと気になっていましたが、なぜメイド服なんですか?」
わたくしはアメリーに聞きますが、ホテルに来てからもずっとメイド服姿です。
「それこそ、ご自分が何を言っているか理解しています?メイドだからに決まっています」
とアメリーは今度は呆れた顔をします。
「それはわかっています。だからと言って、常にメイド服でいる事もないかと思ったのです」
「メイドがメイド服を脱いだら、ただの女性ですよ?何を言ってるのですか」
とアメリーはわたくしに言います。
(なんでしょう、このままではわたくしがおかしいようですね)
これ以上続けると、わたくしがおかしいようなのでこの話もやめましょう。
「物件探しには少し遅い時間ですが、空腹なので先に食事をしましょう」
わたくしは起きたばかりなので、まだ食事をしておりませんから先に食事をしたいです。
「わたしも、昼はまだなのでそうしましょう」
と今度はアメリーも素直です。
「では、市電に乗り中央大通りに向かいましょう」
わたくしとアメリーはホテルの前にある『シェントールホテル前』の市電乗り場から市電に乗ります。
そして、しばらく行った『中央通り』電停で降ります。
中央大通りは名前の通り、王都の中心部であり、もっとも賑やかな通りです。
「ここはさらに賑やかですね」
通りにはさらに多くの人たちが行き来しています。
わたくしとアメリーは邪魔にならないよう、傍らに移動して話します。
「この時間だと、営業しているお店はありますかね?」
わたくしがアメリーに聞きますと
「中央大通電停から南に行けば、昼食を過ぎても営業しているお店がありますよ」
と昼食の時間を過ぎても、営業しているお店があると答えます。
「そうですか。では、そちらに行きましょう」
「わかりました」
わたくしとアメリーは歩きだしますと、いくつかのレストランやカフェが営業中です。
「思ったより、店が多いですね」
「ここは中央官庁、大規模商会、新興企業、証券取引所と政治経済の中心で働く人が多いです」
「まさに王都の行政や経済の中心と、中央大通りの名に恥じていませんね」
「なのに、アーダリさんと来たら……」
アメリーはまたこう言って、突っかかってきます。
「アメリー、いちいち突っかからないでください」
「そうしたいのですが、あのような事をしましたからね」
「これ以上言わないでください。きっと空腹のせいですよ。
早く店で美味しい物を食べましょう」
きっと空腹で機嫌が良くないと思います。
「いえ、そんな事はありません」
「いいから、行きますよ!わたくしはとにかく空腹なので!」
とわたくしは強引に、アメリーの手を引っ張り、良さそうなお店に入りました。
「ごちそうさまです」
「おいしかったです」
わたくしとアメリーは食事を終え、お茶とデザートのケーキを頂いています。
「お腹いっぱいになりましたので、物件を見に行きましょう」
アメリーも満腹で、機嫌がよくなったようです。
「そうします……と言いたいのですが、これから遊郭へ行きましょう」
とわたくしが言います。
「は?また何を言っているのです?」
アメリーは満腹で満足した表情から、ジトッとした目でわたくしを見ます。
「アメリー、話を聞いてください。今、急に思いついたのですが、夜の事はやはり夜の街で聞くのが一番じゃないでしょうか」
食事をしながら、アメリーとサロンの話をしていましたが、夜の相談をどうするかという話題になりました。
夜の相談は、サロンやカフェで行うのは好ましくないですが、あくまでも個人的な相談で
こちらからお金を求めず、相手がお礼をくれるという体、という抜け道があります。
この手があると話しましたが、アメリーは「まったく、そう言う事はすぐ思いつきますね」と言って話が終わりました。
そして、食事をしながら、夜の事は夜の街の方に任したらよいのではと思ったのでした。
「また、唐突ですね。もっとも、アーダリさんが唐突じゃなかったことは、今までありませんが」
アメリーは今日何度目かわからない、大きな息を吐きます。
「とにかく、話を聞いてください。夜の相談もすると言いましたが、相談を受けるには答えるための知識と経験が必要ですよね」
「まぁ、そうですね」
「でも、わたくしは経験はありましても、知識がありません」
「かもしれませんね」
わたくしは経験は豊富ですが、知識はと言われますと、相談に乗れる程ではないと思います。
「なので、経験と知識が豊富な娼館の方たちに教えを請おうと思いました」
「あ~、そう言う事ですか」
アメリーはこう言いますと、1度お茶を口にします。
「アーダリさんにして、まともっぽいお考えですね」
「っぽいではなく、まともなんです」
「夜の事は、夜の人たちに聞くのは、間違っていませんからね」
アメリーはわたくしの言う事を流してこう言います。
「そう言う事です。あと、折角ですから、借金を抱えている娼館を買い取るのも良いですね」
わたくしはこう言うと、お茶を口にしました。
「もしかして、そちらが本来の目的ではないのですか?」
アメリーはわたくしの方を睨みつけるように見ます。
「買い取った所で、女性にサービスはできませんから」
買い取った所で、遊郭に来る女性はいないと思います。
「アーダリさんの事ですから、フリードリッヒ様とネフ様に頼み込み、女性のための娼館を作りそうですね」
アメリーはこう言いますが……その手がありました!
「アメリー、その手がありました!そうですよ、女性のための娼館を作れば良いのです!」
わたくしは、その考えはなかったと、アメリーの手を取ります。
「もしかして、わたし、やらかしちゃいましたか?」
アメリーはこう言いますが
「やらかしておりません!むしろ、良い考えです!アメリー、ありがとうございます!」
とわたくしが気づいてなかった事に気づき、お礼を言います。
「はぁ……」
アメリーがきょとんとした顔をしていますが、遊郭へ急いでいきましょう。
「アメリー!善は急げですよ!お茶も頂きましたので、早速遊郭へ向かいます!」
わたくしが席を立ちあがりますが
「待ってください!まだケーキが残っていますので、これを頂いてからです!」
と言って、まだ半分以上残っているケーキを口にします。
「アメリーは甘い物が好きですからね」
アメリーはケーキやお菓子、果物など、甘い物が好きです。
だから、残す訳にはいきませんよねと思ったら
「違います!同じ料金を払いますので、全部頂くだけです!」
料金の方を気にしてでした。
アメリーは残りのケーキを全部口にし、お茶を飲みますと席を立ちます。
「では、行きましょう!お勘定は、アーダリさんお願いします!」
と言って、わたくしより先に店を出るのでありました。
お読みいただきありがとうございます。
市電の路線は細かい設定はちゃんとありますが、まだ公表していません。
ただ、ホテルの前の電停名は、アーダリたちが滞在しているホテル名です。
遊郭へ行くのは唐突ではありますが、アーダリの思い付きと考え両方です。
全年齢版では遊郭を出すのが難しいですが、アーダリの無理な理屈で遊郭に行く事にしました。
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