第6話アーダリは女性のためのサロンを考える
アーダリは自分の趣味を生かし、仕事にするため同性が好きな女性のためのサロンを考えます。
アメリーも乗り気になってきましたので、わたくしは続けます。
「きっと、悩める女性は多いでしょう。特に同性が好きな悩みは、誰にも打ち明けられません」
悩みは誰にもありますが、同性が好きな事は特に話せないでしょう。
「そうですね。教会では同性愛について話せませんからね」
悩み事は教会で話す事が多いのですが、同性愛を禁止している教会では話せません。
なので、同性愛を公表している方、わたくしのように地位のある貴族か
有力な富豪ぐらいしか、同性愛を公表できません。
しかし、平民が同性愛者と言うことを、表立って言えません。
また、地位のある貴族でも、同性愛に理解がない方が多いです。
なので、貴族であっても打ち明けられませんし、わたくしもそういう方を知っています。
特に貴族令嬢は、他家へ嫁ぎ、世継ぎを産まないとなりません。
わたくしも幼い頃は、他家へ嫁ぐと父からいわれていました。
しかし、アメリーとの初体験後、父にはっきりと
『わたしは女性が好きです。なので男性と結婚いたしません』
と言いました。
父は頭を抱えながら、『そうか……』と言っていました。
ただ、時より一時の気の迷いでないかと、確かめましたが
それでもまったく変わらぬとわかり、最終的には認めたと言いますか
諦めたと言うのが正しいと思います。
「なので、他では話せない悩みを聞き、また同じ嗜好の者同士で話したり……」
わたくしは一度溜めますと
「夜の悩みも、もちろん聞いたり解決します!」
と力強く言うのでした。
「それでそのお悩みを、どうやって解決するのですか?」
アメリーは聞きますが
「それは、手取り足取り、お互いの身体に触れながらです!」
と言いますと
「それが一番の目的ですよね?わかっていましたが」
と言って、ふうっと息を吐くのでした。
「口で説明するより、触れあった方が早いです。それに同性同士ですから、なにかと教えやすいのです」
わたくしがこう言いますと、
「なんでこうなったんですかね……。以前はちゃんと男の子が好きでしたのに……」
とため息をつきます。
「元はと言うと、アメリーがわたくしの初めてを奪い、女性同士の良さを教えたのが原因ですよ!」
アメリーによって、女性同士の快感を知らなければ、わたくしも男性が好きになっていたと思います。
一応、初恋は相手は貴族の男子ですから。
「それはフリードリッチ様から与えられたお役目ですから、仕方がありません」
と言うのでした。
確かに、アメリーはわたくしの身の回りの世話の他に、夜のお供もありました。
ですが、まさか本当に……とは思っていませんでした。
「まさか本当に……とは思っていませんでしたよ」
わたくしがこう言いますと、アメリーは
「アーダリさんも、アントニー様の件がありましたし、同じじゃないですか」
と冷静に返してきます。
「う、そ、そうですね……」
わたくしはこれを言われたら、言い返す事が出来ません。
「それに、初めての割にはとても……」
わたしはこれ以上言わないよう、口を塞ぎます。
「アメリー、わたくしたちの事は良いのです。
とにかく、同じ嗜好と趣味を持った者同士が集まる場所を作りたいのです」
わたくしがこう言いますと、アメリーは口を塞ぐわたくしの手を払いますと
「わかりました。理想は良いですね、理想は」
と言いました。
「理想はといいますが、何か問題があるのですか?」
わたくしが聞きますと
「集まる場所だけなら、全く問題はありません。ただ、夜の部分ですよ」
とアメリーは言います。
たしかに、夜の部分は問題です。
王国には古くからあり、遊郭があり、300年の歴史を持っています。
そして、合法的に春を売る事が出来ます。
一方、1か所を除き、春を売るのは禁止です。
唯一の許可地域は工業地地域に近い、男性の多い地域です。
その地域は遊郭から遠く、また遊郭は値段が高いため
通りに女性が立ち、安く春を売っていたと、本に書いてありました。
そのため、治安の悪化や病気の蔓延が問題になったそうです。
そこで、売春婦の管理、病気の予防のため、その地域を登録制にし
税金をしっかり払う事を条件に、営業を許可する地域としたそうです。
こうして、高級な遊郭と安い風俗街として、現在も棲み分けています。
そして、営業許可をとるにしても、現在は新規申し込みは受け付けておりません。
もし、営業許可をとるとしましたが、廃業の店が出るか、営業権返還があった時です。
「それはわかっています。夜のサービスは許可された場所以外では禁止、とメガネに教えてもらいました」
わたくしはこう言いますが、メガネとは、父の弟のネフ叔父様です。
メガネと呼ぶのは、文字どおりメガネをかけているからです。
ネフ叔父様は、現在は法務大臣ですが、以前は法務省執行官として、各種法律の対応をしていました。
なので、メガネ……いえ、叔父様から法律の事を教わり、法律についてはある程度詳しくなったのです。
「ネフ様から教わっているのなら、納得です。それでは、どうするのです?」
アメリーは聞きますが
「それは後で良いではないですか」
とわたくしはあっけらかんと言います。
「結局、考えてないのですね……」
アメリーは呆れます。
「そもそも、新規の営業許可なんて取れませんし、どちらも女性が来られる場所ではありません」
とわたくしは言います。
遊郭は観光地になっていますが、17時以降は女性が入れない訳ではないです。
しかし、女性を相手にする娼館はないので、女性が訪れる目的がありません。
また風俗街は、男性ばかりな地区で、治安もよろしくありません。
そんな地区に、女性がいるだけで危険なので論外です。
「ちゃんとわかっているのですね。それではどうするのです?」
アメリーは再び聞きますが
「別にわたくしに営業権がなくても、営業権を持っている方が居れば、後は建物があれば良いのです」
とわたくしはこう答えました。
「要は乗っ取りですね」
アメリーはこう言います。
「人聞きの悪い言い方ですね。今の遊郭は、土地と建物の所有、営業権は別々な方と言うのは普通です!」
現在の遊郭は、それぞれ所有者が違うと、叔父様が言っておりました。
「そうなんですか?それは良いのですか?」
「法務大臣の叔父様がおっしゃっていますので、間違いないはずです」
「ネフ様がおっしゃるなら、信用できます」
「そうです。あと、性的な事でなければ、場所を選びませんので
夜のお悩み相談は後にして、まずは良さそう物件を探しに行きましょう」
夜の事はともかく、女性の集まるカフェやサロンとして営業できそうな物件を探します
「それより、まず住む所を探すべきでは?」
やる気になった所、アメリーはこう言います。
ただ、折角ならば、住居も一緒にするのもありですかね。
その方が何かと楽ですし、自分の部屋なら、お互いの合意によって……ふふふ。
わたくしは想像して、思わず笑います。
「アーダリさん、よだれがでていますよ」
とアメリーが言いますので、慌てて手近にあるタオルを取りますと、口元を拭きますがよだれは出ていません。
「出ていませんよ」
わたくしが言いますと
「そのような、顔をしてたのです。では、やる気になったようなので、物件を見に行きますか」
アメリーがこう言いますので
「ですね。では、着替えて出かけましょう」
わたくしは、アメリーに着替えを手伝ってもらい、ホテルを出たのでした。
お読みいただきありがとうございます。
ノクターン版でははっきり娼館を作り、自分も娼婦として働くでしたが
全年齢版ではカフェやサロンにしました。
ただ、そうであってもアーダリは夜の相談に乗る気でいます。
とはいえ、同じ悩みを抱える女性が集まり、相談や話が出来る場所を作ること自体は
アメリーも理想としては良いといっています。
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