第14話 お茶と塩パン
時間はあまりないものの、お茶を用意したと言うので
アーダリたちはお茶をいただきますが、お茶うけとして塩パンも一緒にだされます。
お茶をいただきながら、アーダリはエルリカに娼館を買い取る事を伝えます。
娼館の中に招かれますと、昨日と同様に受付横の扉から部屋に入りました。
この部屋は大きなテーブルがあり、娼館の前の通りに面した壁には大きな窓とカーテンがあります。
そして、向かって左側には扉があり、右側には扉はありません。
左側は入口にある受付のドアでしょう。
右側はお茶を持ったヘルマさんが出てきましたので、台所の様です。
「アーダリさん、いらっしゃませ。空いている所へお座りください」
ヘルマさんはこう言いますので、わたしとアメリーは座ります。
「事前にお伝えせず訪れたのに、すみません」
「別に構いませんよ。丁度お茶の時間でしたから」
ヘルマさんはわたくしとアメリーにお茶を出します。
「ありがとうございます」
「うちみたいな娼館の紅茶が、アーダリさんのお口にあえばよいですが」
ヘルマさんは笑いながらこう言いますが、わたくしは紅茶を口にします。
(香りといい……味といい……美味しいですね……)
紅茶はとても風味が豊かで、苦みがありながらも甘みを感じられて美味しいです。
「美味しいです」
わたくしが感想を言いますと
「そうでしたか、それは良かったです」
とヘルマさんはさらに笑います。
「とても丁寧に入れていますが、茶葉の蒸し時間から10分前後ですかね」
「はい、それぐらいです。この茶葉はあまりお湯が熱くない方がよいです」
「なるほど」
ヘルマさんは茶葉によって淹れ方を変えているようです。
「あと、こちらはわたしが焼いた塩パンです」
ヘルマさんは一口大に切られた塩パンをテーブルに置きます。
「塩パンですか?」
「はい、塩とバターのみのパンです。アーダリさんのお口に合うかわかりませんが」
「では、1ついただきます」
わたしは塩パンをいただきます。
塩パンといいましてもほんのり塩味でバターの香りがしています。
「シンプルですが、バターと塩のバランスが良く、お茶うけに良いですね」
わたくしは塩パンの感想をヘルマさんに伝えますが
「アーダリさんの口に合い、うれしいです」
わたしの感想にヘルマさんは喜んでいます。
「のんびりお茶をいただくのはよいですが、時間がありませんよ」
アメリーはこう言いますが、塩パンを何切れも食べています。
「アメリー、そう言いつつも何切れも食べていますよね」
「せっかく出された物は残しては失礼ですので」
アメリーはそれらしい理由を言いますが、つまり美味しいと言う事です。
「それもそうですね。ところで、エルリカさんに少しだけお話をしたいですがよろしいですか?」
「はい、良いですが何でしょう」
「実はこの娼館を買い取りたいと思っています」
わたくしはエルリカさんに、この娼館を買い取りたい事を伝えます。
「……」
エルリカさんは何も答えませんが、いきなりこんな事を言いましたら仕方がないですよね。
わたくしもあえて何も言わず、エルリカさんが答えるまで待ちます。
しばらく、沈黙が流れましたが
「……現状を考えますと、経営資金がないので売らないとならない状況です。
ただ、アーダリさんを完全に信用した訳でもありませんので……」
と答えます。
「そうですよね。わたくしも、エルリカさんが良いと言わない限り、無理やり買い取る気はありません」
わたくしはエルリカさんにこう伝えます。
「ありがとうございます。ただ、確かに税金の事を考えますと、現状ではかなり厳しいです……」
エルリカさんは税金の支払いに困っているようです。
「今回は立て替えましたが、今後の事を考えますと支援が必要かと思います」
「そうですが、お金をお借りしても……返せるかわかりません」
エルリカさんは借りても、返せない事をはっきりと言います。
(娼館の経営者はもっと図太い方かと思いましたが、エルリカさんは違いますね)
あくまでもわたくしのイメージです。
もっと図太いといいますか、図々しいのかと思いました。
もっとも、初めの時点で丁寧な挨拶をしていましたので、わかってはいましたが。
「なので、わたくしの考えてる女性のためのサロンに協力してください」
わたくしは女性のためのサロンを作る事に協力して欲しいと頼みます。
「そのサロンがどのようなものかわかりませんが、まずはお話を聞かないと答えられません」
エルリカさんはこう答えますが、はっきりお答えするのは好感が持てます。
「そうですね。本日は時間がありませんので、3日後に詳しくお話ししましょう」
わたくしは3日後に詳しく話す事をお伝えします。
「わかりました。売るかどうかはわかりませんが、お手伝いはしたいと思います」
エルリカさんはお手伝いしたいと言いますので、これは脈ありです。
「それでは、3日後お願いします」
「わかりました」
3日後に詳しく話し合う事が決まりました。
「16時を過ぎましたので、そろそろホテルに戻りましょう」
エルリカさんとのお話が終わりますと、アメリーが懐中時計を見てわたくしに伝えます。
「そうですね。お茶もいただきましたので、そろそろ失礼します」
わたくしたちはホテルに戻ることにします。
「では、お見送りします」
エルリカさんはわたくしとアメリーを入口まで見送ってくださいます。
ルベアさんは掃除が終わったのか、姿がありません。
「では、わたくしたちはこれで失礼します。3日後お会いしましょう」
「わかりました。では、お気をつけて」
「では、ごきげんよう」
「失礼します」
わたくしとアメリーは娼館を出て、大門を出ます。
そして、今度は大門から『大門通り口』から市電に乗り、ホテルに戻りました。
お読みいただきありがとうございます。
アーダリは、エルリカにはっきりと買い取る話をしますが、エルリカもすぐには答えはだせません。
しかし、現状のままではアーダリの支援も必要になるので、ひとまず話合う事にしました。
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