第11話 ポメラリア家と娼館
ホテルに借金取りに渡す1万2000アニーを取りに来ました。
部屋でお金を数えている時、ポメラリア家が現在娼館を所有していない理由を
アメリーがアーダリに聞きます。
ホテルに着きますと、2人をホテルの前に待たせ、1万2000アニーを部屋に取りに行きます。
「よくあんな嘘を思いつきますね」
アメリーは金庫からお金を出し、数えながらこう言います。
「嘘も方便ですよ。ただ、昔は娼館を所有していたと、本に書いてありました」
たまたま実家の書庫で見つけた「ポメラリア家の歴史」という本に書いてありました。
この本はしっかりとお爺様に取材しており、ポメラリア家公認の本です。
しかも、かつての闇と言ってもいい部分まで記載されていますが
お爺様も許可を出していますし、その部分も歴史にも残っています。
そして、娼館を所有していたのは、100年前までだったそうです。
「そうなんですね。でも、今は所有していませんよね?」
アメリーが言うとおり、お爺様の代では所有していませんでした。
「お爺様が言うには、宰相家が娼館を所有し、搾取するのは好ましくないとおっしゃり全て手放したそうです」
「そうなのですね」
「ただ、娼館は他の貴族も所有していました」
我が家だけでなく、他の貴族も娼館を所有していました。
「しかし、ポメラリア家が手放したとなりますと、他の貴族も所有をする訳にはいかず、手放す事になりました」
「なるほど。ポメラリア家が手放したのに、所有していましたら評判が悪くなりますからね」
「ええ、お爺様はそれを利用したのです」
お爺様は体面を気にする貴族の心理をうまく使い、貴族から娼館をすべて手放すことに成功。
今まで貴族に上納していた分は、そのまま娼館の物になり、税金を払っても収入が増え、待遇改善をさせたそうです。
「ポメラリア家が人気なのはこういう所なんですよね」
「ええ、自ら率先する事で他もやらせるのです」
「でも、100年前に娼館を手放したのに、なぜ所有していると思っているのでしょうか」
アメリーの疑問ももっともです。
確かに表向きは娼館を手放したのですが、裏では名義を変えて所有している貴族が居るからです。
これは違法ではないですが、貴族の道義には反しています。
ただ、これにより、ポメラリア家も娼館を密かに所有しているイメージがあるのでしょう。
ポメラリア家は娼館を所有しなくても、十分な収入源があるので所有する必要がありません。
それに、その方が遊郭の労働環境を改善するという説得力が増します。
「裏で所有している貴族が今もいるかです。ポメラリア家はもちろん、所有していませんよ。
ただ、密かに所有しているイメージがあるのかもしれません」
「なるほど、そう言う事なんですね。だから、ポメラリア家は人気なんですね」
アメリーの言うとおり、自ら率先するし、平民のための政治をするのでポメラリア家は人気なのです。
「アメリーはわかっていますね」
わたくしはアメリーを褒めますが
「だから、アーダリさんも街で女性を引っかける事が出来たのですね」
とアメリーは言ってお金を数え終わりますと、紙袋に入れ、布で覆います。
「間違いではありませんが、わたくしの事は良いです。お金が用意できましたら、渡しに行きますよ」
確かに、家が人気なのでわたくしが街で声をかけられたのは間違いないですが、引っ掛かるものがあります。
ただ、今は借金取りをいつまでもホテルの前に待たせるのは、ホテルにも迷惑なので早く渡しに行きます。
「借金取りをホテルの前に待たせると、ホテルに迷惑ですから早く行きましょう」
「そうです」
わたしたちはできるだけ早く、ホテルの前で待っている借金取り2人の元に向かうと、1万2000アニーを手渡しました。
「お金はこれです」
「へい、しかと受け取りました。ただ、中身を確認させてもらいます」
借金取りはこの場で数えようとしますが、ここで数えるのは迷惑です。
「ここで数えるのは迷惑なので、少し離れた所にあまり人目につかない公園がありますので、そちらで数えてください」
ホテルから少し離れた裏通りに公園がありますので、そこに移動するようにいいます。
「わかりました」
借金取りも了承しましたので
「では、こちらです」
裏通りの小さい公園へ移動します。
「よくこんな公園を知っていますね」
アメリーはこう言いますが、この公園は市電が通りホテルがある中央駅通りから1本入った裏通りにあり、人目につきにくい場所です。
「詳しくは言いませんが、ちょっとした事で知りました」
「そうですか。でも、お金を数えるのは良い場所ではありますね」
人目がないということは、お金を数えるには都合が良い場所です。
そして、既に借金取りの2人はお金を数えていました。
「確かに、1万2000アニー受け取りましたぜ」
「これで俺らも帰れます」
「それじゃ、俺らは行きますんで」
借金取りの2人は1万2000アニーを受け取ると、帰っていきました。
「これで恩を売れましたね」
わたくしは笑います。
「まったく、アーダリさんの方があくどいですね」
アメリーはこう言って、ため息をつきます。
「良いじゃないですか、これで娼館を買い取る話が出来ますので」
「そうですが、買い取ってどうするのですか?」
アメリーは買い取ってどうするか聞きますが
「さ、ホテルに戻りましょう」
わたくしはアメリーの質問を、無視してホテルに戻ろうとします。
「アーダリさん、逃げても無駄ですよ。もっとも、ホテルに戻っても部屋に閉じ込めて問い詰めるだけですが」
アメリーはわたくしの腕を素早くつかみます。
「買い取った後の事は、それから考えればいいのです」
わたくしがこう言いますが、実は買い取る事を考えても後の事は考えていませんでした。
「要は考え無しですが」
アメリーは呆れて息を吐きます。
「買い取った所で、女性が来る事は無理ですし、例えお父様とメガネの力を使っても
そう簡単に女性が来られる場所にするのは無理ですし」
「なのに、1万2000アニーを払ったのですか」
「それに関しては、単なる借金の立て替えです。買い取るかは別として、娼館の方たちと話が出来ます」
娼館の買い取りは別にしても、娼館の方たちと話をする事はできます。
「確かにそうですね。13時以降ならいつでも良いと言っていましたが、どうします」
「支払いが済みましたので、明日にでも行きます」
借金を立て替えましたので、その事をお伝えに行きます。
そして、一緒に経営についてと、夜の相談についてのお話を聞きます。
「そうですか。上手くいくかどうかは別としまして、アーダリさんがやる気なら良いです」
アメリーはわたくしがやる気を出した事については、良しとします。
「それでは、ホテルに戻りますが、アメリー手を離してください」
ホテルに戻るので、アメリーに手を離して欲しいと頼みますが
「いいじゃないですか、このままホテルに戻りますよ」
と言って、手をつないだままホテルに戻ります。
そして、人通りが多い中央駅通りでは、みなさんに注目されてしまいました。
お読みいただきありがとうございます。
ポメラリア家などの貴族はかつては娼館を所有していました。
しかし、イメージ戦略でポメラリア家は娼館を手放しました。
ただ、そうであっても裏で所有しているイメージがあるため、アーダリのはったりも通用しました。
小さい公園はアーダリがナンパしていた場所で、あとはいわずもかな。
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@shiizu17