第2章 家畜化された悪魔
朝。
縁側でヴァシャが軍用マグカップで緑茶を啜りながら伸びをする。その隣、15cm太の相撲縄で柱に縛られた悪魔が不機嫌そうに座っていた。ボロボロの和装スーツに、折れかけた角が痛々しい。
「ふーん、悪魔さん、寝心地どうだ? 飯はうまかったか?」
ヴァシャが下駄でポンと悪魔を蹴る。
「ふざけるな! 俺は地獄の王だ!数百万の魂が震えてるぞ!」
悪魔が牙をむく。
「へーえ、偉そうだねぇ」
ヴァシャはあくびをしながら茶を飲む。
「餌やってるこっちが偉いんだよ。文句ある?」
悪魔は俯いて呟く:
「これ...武士の風上にも置かん...」
「なに?この根性なしが!」
「...本当に地獄に帰してくれないのか?」
悪魔の声にはかすかな期待が混じる。
「は?ペットは外に出さんよ。ほら、草でも食ってろ」
悪魔が猛然と飛び上がるが、特注の相撲縄が首をガツンと引っ張る。ヒノキの柱は微動だにしない。
「なにこれ?!解けない!」
爪で縄を引っ掻くが無駄だ。
「んー...海軍式だったか?侍結びとか?」
ヴァシャは顎を撫でる。
悪魔が縄を噛み切ろうとするが歯が立たない。
「地獄に帰りてえええ!」
涙声で喚きながら暴れる。
「うるさい! もう一声あげたら鍋物にするぞ」
「なぜ俺を恐れない?!」
悪魔が突然真顔で聞く。
「お前...本当は何者だ?」
「ロシア人だ。お前は泣き虫妖怪。男らしくしろ」
「まさか...あの『特別学級』に...?」
悪魔の顔から血の気が引く。
「お?知ってるのか『あの』教室を?」
ヴァシャがニヤリと笑う。
「しまった...」
悪魔が慌てて口を押さえる。
「よし、明日から『矯正授業』だ」
指の関節をポキポキ鳴らす。
悪魔は完全に絶望した漫画顔で顔を覆った。