95話 天を下り、地を求めるか。
ソラがいる大広間が今までにないほどの激震に揺さぶられ、地下施設の壁に大きな亀裂が走った。轟音と共に幾つかの悲鳴がソラの耳に届き、頭上の壁が崩れ落ち土砂が舞い上がっていく。「ヤバいヤバい、ヤバいっス!」ソラは不足するケーブルを探すことをあきらめて、都市魔法を稼働させるために使用されているケーブルを無断で引っこ抜くことに決めた。そのケーブルを引っこ抜こうとした矢先に、ソラの体が潰れた。
部屋の頭上の裂け目から少年少女の塊がソラの体に落ちてきたのだ。ソラがクッション代わりとなって潰れてくれたおかげて、辛うじて少女は床に叩きつけられるのを逃れることが出来た。
舞い上がる土埃の中で潰れた体を何とか起こしてソラは、その降ってきた者たちを見た。
「ココッち! それとノインっちじゃないっスか!!」
ココの体の至る所が焼き裂かれ、魔動器装備が赤黒い血で染め上がっている。それが魔術によって体が焼かれたのだとソラは瞬時に悟る。ノインはその四肢の大部分が喰われたように消滅しており、満身創痍の状態だった。その土煙が収まらないなかでココの言葉が消え入りそうなほど小さく聞こえた。
「大丈夫、大丈夫だから」
それを聞いたソラは再度ココの姿を見て、胸の傷が致命傷であることに目を見開く。「全然、大丈夫じゃないっスよ?」とソラはその床に広がっていく血だまりを見た。
「大丈夫。ノインは大丈夫だから、いまその体を直すから―――」
ココは自らの体が動かないと知るや、手足の魔動器を稼働させて自身を無理矢理に動かして、ノインの側に近づいていく。ちょうど彼女のノインの顔が間近で見れるようになった時点で、ココはすばやく聖霊魔術を編み始めた。その様子にソラは彼らのそばに近づき、ノインの容態を伺う。
ノインの四肢は魔動人形の自動回復を遥かに超えた損壊で、新たな手足を製作しなければならない。ココの魔術は、彼女が装備する魔動器を素材にまで戻して、改めて人形体の手足を作り上げる制御式だ。しかし、ココのその傷ついた状態では魔術を成功させることはできないだろう。
「ココッちーーー!!!」
ソラは自分が秘蔵していた傷薬の薬液をココにぶっかけていく。ソラにとっても目の前で瀕死の聖霊の愛子がいるのだ。愛子を守ることに理由などいらない。とにかく持てるだけの薬液をココに注いで、なんとか止血するまでに至った。
ソラの回復薬も手伝ってココの魔術が辛うじて成功する。ノインの両手両足に粘液性の液体が張り付き、少しずつノインの手足となっていくことにココは安堵した。そして、ココはその場に糸が切れたように崩れた。
またも頭上で轟音が鳴り響く。
新たに割れた裂け目から、巨大な蛇がその姿を人の形に変えながら落ちてきていた。
地面に降り立ったリヴィアの体は腹に穴が開き夥しいまでのエーテルが溢れていたが、それを構うことなく、すぐにココに回復の領域魔法を展開する。ココが回復していくのをみて、自身も欠損した体を再生させ、ココを胸に抱き寄せた。
「ココ! よう戦ったの。あとは大丈夫じゃ。この吾に任せて、ゆっくりと休むのじゃ」
その言葉に擦れた声でココは抗う。
「戦うよ! 私はもう誰も失いたくはないんだ。だから、戦う!」
ココは、体に装着された残された魔動器装備を稼働させようとすが、すでにエーテル切れだった。「リヴィアちゃん!」ココがリヴィアを振り向いて魔動器装備を指差す。
「ココ。はっきり言って分が悪い。弥覇竜とまともにやり合うと、この天異界1層そのものが吹き飛んでしまうのじゃ。そうなってはこの層に生きる精霊たちは皆消えてしまう。だからこそ、ココ。退くのも決断じゃ。アレは吾とココを狙ってやって来ているのじゃからな」
そう言ってリヴィアは大きく穿たれた天上の大穴を見上げた。その先には咆哮する弥覇竜が聖炎を吐いていた。
中枢制御室の大広間では、弥覇竜の咆哮に震えあがり身を強張らせる者が多く、なかには泣き崩れる者もいた。しかし、激しく動くものがいた。誰もが立ちすくむ中でソラだけが猛然とケーブルを切断していたのだった。
「うおおおおおお――――!!!ヤバいっスヤバいっす!早くこの場所から下天しないとおおお!!」
しかし、ソラの力では中心結晶と都市魔術魔動器を繋ぐケーブルを切断することは敵わない。その様子を見てリヴィアは呟いた。「あれは、下天の魔動器か?」とリヴィアの疑問の声をココが拾う。
「そうだよ。私が住んでいた小さな浮島の中心結晶からでも現世界に下天できるように創り上げた下天魔動器。これを使えば必ず下天が成功する。ただ、一回使うと壊れちゃうけど」
ココはその下天魔動器から視線を外すことなく一言一句を噛みしめる様に説明し、そしてリヴィアを見上げた。都市エーベの損壊は著しく、このまま戦いを存続させることが出来ないことは明らかだった。
「分かった。退こう」
そう決断したココは、組上げられた下天魔動器に歩いて行き、その操作パネルに動作入力を始めた。ソラはソラでケーブルを断線できないことを知ると、ケーブルが短く届いていない箇所に戻り、その短いケーブルを無理矢理に伸ばして魔動器と接続させようと、奮闘していた。
「ソラちゃん! そのままケーブルを片手に持ったまま、空いた片手の方を魔動器接続口に突っ込んで!」
言われたとおりに片手をケーブルに、もう片手を接続口に突っ込んだ。見ればソラ自身がケーブルとなって、不足を補っている。「おおお!! この手があったっすかああ!!」と感激しているソラをそのままに、ココは魔動器に都市の中心結晶体との連結を始めた。
「ぐぎゃあああああ!!!」




