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悪霊 Evil spirit ――異世界死生 編――  作者: ナ・ココ・なご
世界の始まり
9/98

9話 魔動器。少女の夢路。

 ココたちの暮らす小さな浮島。


 そのレンガ造りの古い家屋一階の奥にある大きな部屋―――彼女の研究室にペルンは採取してきたエーテル結晶を袋から取り出し、等級判別魔動器に一つ一つ通して整理している。ココは部屋の大部分を占領している大きな魔動器の前で眉間にしわを寄せていた。彼女の目の前にはあの七色結晶石があった。その解析作業をしながらココは腕を組んで、そして何度目かの唸り声を発している。


「ああ~、わけ分っかんない!ホントどういう仕組みなんだろ?」


 ココは解析魔動器に目を向ける。先ほどから何度も解析方法を変えて挑んではいるが、虹色結晶体の分析結果はエラーだけを伝えてくるだけ。


「もう!ペルンッ。全然分っかんないんだけどー。私に教えて欲しいんだけどー」

「あ?なんで、そこで俺なんだべよ」


 ココは地団駄気味にペルンに愚痴をこぼしてしまうが、それで解決しないことは十分に了解している。ただ、ちょっとだけ甘えてしまってもかまわないよね?と彼女は思うのだった。

 その研究室の中央には一体の人形があり、それこそが彼女が真心を込めて作り上げている魔動器人形。ココは虹色結晶から目を離して未だ眠りにつく人形を見つめる。


「だいじょぶ。必ず目覚めさせるからね―――」


 部屋にアラームが鳴り響き、もう一つの解析魔動器が狭間での『蝕』の分析完了を告げてきた。


 制御式の一部に概念浸食があったことを解析魔動器は少女に伝える。概念浸食とは、その前後での法則や概念が書き変わることをいう。そして、その世界内存在における概念の変更を本来であれば知ることは出来ない。なぜなら世界は概念浸食後の世界にすべて置き換わってしまうのだから。もちろん、そこに生きるすべての者たちの記憶をも書き換える。その広がりは、過去・現在・未来の全ての歴史を含んでいる。だから、世界の内で生きている者たちの認識では、今までも『そう』であったし、これからも『そう』であり続ける。だが、ココだけがその「世界の書き換え」の違和感を感じ取ることが出来た。そこで彼女はその「世界書き換え」の前後を比較するために、自分の魔法を測定させる魔動器を創った。この魔動器がココの魔法を測定することで蝕によって変化した世界書き換えの度合いを判断しているのだった。


「やっぱり……ペルンの言った通りだ。あの『蝕』は蝕甚に間違いないよ」


 魔動器の表わす計測数値の羅列を目で追いながら、その意味するところを的確に読み解いていく。ココはその数値から顔を上げると、もう一度虹色結晶石の姿を確認した。あの虹色結晶石は甚蝕の浸食にも耐え得る力を有している。だからこそ、この虹色結晶石を人形体に組み込めば想像を超える魔動器人形が誕生するはずだ。


 そんなココの考えの頭越しに、ペルンの勢いのある声が飛んできた。


「んだべ!やっぱり蝕甚だっけべした。しっかしよお、蝕甚のど真ん中にいたのに無事に帰ってこれたっていうのは奇跡ってやつだべよ。いや、むしろ俺の運が、奇跡を導いたってことだべなあ。がはははっ」

「そこは石のおかげって言えばいいのに~」とココはじろりとペルンを見やる。そして先ほどの蝕の分析内容を彼に言うのだ。


「今回の概念浸食は『蝕甚』で間違いないです。分析結果の数値を見れば、制御式の各部位が浸食・法則が変更されているから、この世界の意識自体も変容されてしまっているのは確実。つまり、世界の常識が書き変わってる。しかも!この規模の大きさから判断するに、天異界の上位の次元階層にもダメージが及んでるかもしんないっ!!」


「ココの言う概念浸食ってやつか。ホントにそんな事が起こってんだべかねえ。にわかには信じらんねえんだけども、狭間のことは分からないからなあ。まっ、そういうことでいいんじゃねえの?」


「ペルン、本当にそうなんだから!概念浸食とは何なのか?何のために生じているのかって、その意味を解明することも大事な研究テーマなんです。それに―――」

「へいへい。難しいことは良く分がんねけども、荷物の整理は終わったべ。んだから俺はここで昼寝でもして、ココの研究でも眺めてんべよ。まっ、何か人手が必要だったら起こしてくんろ~」


 そう言ってペルンは空になった頭陀袋の上で横になり、ココに繋いでもらった義手をひらひらと動かしている。その様子に「うん、必要があったら起こすからー」と軽く返事を当てて、ココは魔動器人形の起動制御式の確認作業をしていると、虹色結晶体についての解析結果を知らせる音が鈍く聞こえてきた。


「そっかあ。やっぱり石の正体を解析するのは出来ないってことになるのか……。ただ、エーテル含有量が自己回復しているってのは事実ということで間違いはないってことだ」


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