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悪霊 Evil spirit ――異世界死生 編――  作者: ナ・ココ・なご
人形が歩し研鑽の道、形迦而明絶。
79/98

79話 黒き影。戦火の静寂。

◇◇◇


「全部、買いますっ!」


 少女の大声が店内に響き、陳列する武具を揺らした。

 自由都市エーベのはずれにある鍛冶兼雑貨のよろず屋。その小さな店のなかで、ミケは上擦った声でしゃっくりを上げていた。あまりの恐怖に全身が氷のように冷えて、汗が滝のように流れ出ている。


「ふむ」


 よろず屋のカウンター側では、気乗りしない返事がミケの頭上に打ち落とされ、ミケは思わずしゃっくりをあげた。その重々しい声にミケの身震いが止まらない。冷や汗を通り越して気絶寸前だ。既にミケの両目は焦点を合わす事すらできず、ぐるぐると回ってしまっている。


「お主はミケといったか? ‥‥‥して、このよろず屋に何用じゃ?」


 腕組みをしてミケを見下ろすリヴィア。絶対に不興を買ってはいけない存在、その六律系譜の序列2位のリヴィアが問うている。そのあまりの圧力に耐えられず、ミケは床に頭から倒れ込み、ひれ伏した。


「あ、その‥‥‥お店の商品を買いたいなあああってっ!!」


 必死に絞り出した声が叫びに変わってしまう。どうしよう? 隠密・情報収集作戦を失敗したところか、明らかにリヴィアタンの不興を買っている! これはもう自分自身の命も危ないってことだ。ミケは物陰から密かに情報を探るはずだったのに、どうしてこうなってしまったのか。彼女は床に額を擦り付けながら思い返していた。




 そもそもミケは来訪者ネキアの指示により、物陰に隠れてリヴィアタンが都市エーベに滞在する目的を密かに探っていた。


「あれが、件のよろず屋ってわけ~? あんなボロッちぃ店に高位の聖霊様がいるってのは考えられなくない?」


 ミケは大通りの商店で買い込んだ熱々の饅頭を口いっぱいに頬張る。むしゃむしゃと食べながら、手元のメモ書きをめくった。そこにはソラが自由都市エーベに来て店を構えてからの仔細が記されていた。「えーと、時折響く爆発音。半壊する店と泣きわめく店主に、元気いっぱいの少女。あと、ポンコツな農作業用人形も目撃されている‥‥‥っていうか、楽しそうじゃん!私も混ぜろって感じ~」ミケはメモ帳から目を離して、遠くに見えるよろず屋を目を細めて見やる。高層建物の屋根の上に潜伏しているミケは、再びメモ帳に目を落とした。そして、うーんと唸ってしまう。


「これぽっちの情報だけだとネキア様は納得しないよねえ~。いっその事、使い魔でも放って店内の様子を探らせてみよっか? あっでも、使い魔がバレたら大変じゃんか。絶対に情報を探っているってリヴィアタンの不興を買うこと必至! それに、ネキア様から私が大目玉食らっちゃうもんね~。‥‥‥よし、隠密で近づいてみっか!」


 ミケは覚悟を決めて立ち上がったその矢先で、背後から声が掛かった。


「ほう? あのよろず屋に用があるのか?」

「用があると言えば、ある! って、そんなの当ったり前でしょう~」


 そう言ってミケは声の出もとに振り返った。「そうであるならば店まで来てみればよかろう」とリヴィアはミケの肩をぐいっと自らに引き寄せて、転移の術によってよろず屋の店内に移動した。目を白黒にしているミケをそのままにして、リヴィアは店番の椅子にふんぞり返ってミケを見下ろす。


「あれ?」


 ミケは呆然とよろず屋の店内に立ち尽くしていた。一体何が起こったのだろうと店内を見渡し、そしてリヴィアタンと目が合う。その瞬間に全てを理解したミケは、滝のような汗を全身に泡立たせながら「あの、もしかして全部‥‥‥ご存知なのでしょうか?」と萎縮しながらも何とか絞りだした擦れ声が、流れた汗の上を転がっていく。

 リヴィアタンは椅子に腰を下ろして窓越しに浮かぶ大空の一点を見据えていた。そして、ざわざわとリヴィアタンの髪が逆立ち始めていくのだ。ミケはその様子に気圧されてしまい、あわてて顔を下げるもどうしていいのか分からずに身じろぎ一つすることも出来ない。

 ミケの目線は床をさまよい、必至に妙案の糸口を探す。店内には多種の商品が並んでおり、ありふれた素材ながらも質の良い品が陳列されていた。このまま沈黙していても始まらない。リヴィアタンは店番をしているという情報は既に確認済みだ、だから陳列されている商品を買ってしまえば機嫌が良くなるはずだっ!


「全部、買いますっ!」


 よし! 言ったぞ。これでリヴィアタンの機嫌も良くなるはずだよね。そう確信してミケはひたすらに額を床に擦りつける。


 と―――、


 窓の外が急に暗くなり、轟音が空から降り注ぎ、窓ガラスが割れんばかりに震える。バラバラと屋根を叩く音と、真っ赤に燃えた瓦礫が店先に落ちてきていた。何かが燃えているのだ。息の詰まる刺激臭と黒煙が、店の窓の外を黒く塗りつぶしていくのが見えた。

魔術の気配を感じてミケは顔を上げて周囲を探ると、よろず屋を囲むようにリヴィアタンの防御壁が張り巡らされていたのだった。

 ミケはこの異常事態に、すぐさま都市エーベ中枢との連絡回線を開くための魔術式を編む。「早くっ、応答して! 何かマズいことが起こってる!」と通信魔術を発動させようとするが、繋がらない。なんでっ?と周囲を見渡してはっとする。リヴィアタンの防御壁によってあらゆるものが遮断されていることを知って、店の床をのたうち回った。「連絡できないじゃん。連絡が遮断されてっじゃんかああ。リヴィアタンに防壁を消してなんて言えねえし? どうすんのおおおおおっ!!」と頭を抱えてしまう。

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