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悪霊 Evil spirit ――異世界死生 編――  作者: ナ・ココ・なご
黒魔術師・災呪の穢れ
60/98

60話 自由都市エーベ。その中枢。

 ペルンはソラの体を持ち上げて滝ツボを目掛けて放り投げた。ソラもソラで「よく見ておけっス!オイラの採取がどれほどのものか見せつけてやるっスよおおおおっ!」と放物線を描くなかで、ペルンを指差し豪語していた。


 ドボンと大きな水音が、飛瀑の水音にも負けずにペルンの元に届く。


「ペルンさん。ソラさんも女の子なのです。もっと優しく丁寧に接しなくてはいけません」


 と、ユリは苦言を呈する。そして、彼女は荷車魔動器から水中活動用の衣類を探しながら続ける。


「では、私たちも採取に加わわりましょう。そうすれば早く終わるはずです」


 ユリがノインに彼の分の水中用衣類を手渡してから、ペルンを見やった。


「んだな。まあ、早く終えるに越したことはねえからな。それにトサカ娘に採取量が負けたとあっては、農作魔動人形の名折れだべよ!」


 ペルンは腰に水中採集用の編み袋を提げると、そのまま滝つぼに飛び込んでいった。「では、ノイン様も先に行って下さい。私も着替えてから皆のもとに参ります」と草陰の中に入っていく。ノインはそのまま服を脱ぎ捨て、歩きながら水中用の衣類に着替えていく。


「エーテル変性体って昆布のような形をしている、と。僕は、向こうの滝つぼの岸壁あたりが気になります。よし! 探してみましょう」


 そう言って、瀑布が弾ける直下に歩いて行った。100テリテ(*150m)の落差のある落水は、その落差と水量からして想像以上の重さがあるはずなのだが、ノインは平然とその身を滝のなかに沈めていくのだった。その先に感じられた微かなエーテル反応を目指して。

 




 ノインたちとの通信を終えたリヴィアはその受信機を元の場所に設置し直す。隣にいるココは、ソラが作製した通信魔動器を右や左に見ながらその動作と制御式の組み立てについて見分を開始していていた。


「やはり、黒針くろぬいが現れたか‥‥‥」


 独りごちるリヴィアは腕組みをして店先に目線を放る。

 通信魔動器が設置されている店のカウンターに店番として座っていたリヴィアは、眉間にしわを寄せた。ソラの店に客はいない。一日に数人の客が来れば御の字だ。そもそも多くの客は大通りの商店街に行く。だから、今日もソラの店は静かな一日が流れるのだろうと思っていた。だが、黒針くろぬいが現れたとの知らせを受けてからは、リヴィア自身も浮島に警戒の意識をさらに幾重にも張り巡らす。この浮島が魔獣により陥落することは容易に考えられることではないが、用心に越したことはない。それに自らの分体も一つ既に放っているのだ。準備は万全であろう。


 警戒に穴のないことを確認してから、リヴィアは隣で唸っているココを愛でる。技術屋然として通信魔動器を詳しく観察しているココの頬を指の甲で優しく撫でた。少女の熱い体温が伝わってくる。リヴィアは微笑み、そして自由都市にエーベに着いた初日を思い起こしていた。





 ココの飛空艇が自由都市エーベに着岸した日。

 リヴィアは荷下ろしをすることなく早々に「野暮用じゃ」とだけ告げて、とある場所


―――自由都市エーベの中枢に向かった。


 自由都市エーベは、天異界の次元階層・最下層『静海の宴』に浮かぶ学術都市だ。その都市は多くの雑居な建物群が積み重ねられた景観であったが、学術の名に恥じない様々な研究機関を街に備え付けている。建物の上に、また建物が積み重ねられて形成された都市は迷路のように入り組んでいて、都市の住人はどのようにして目的の場所に歩いていけるのかも学術都市の迷怪さに一役買っていた。


 その怪奇な都市を支配するのは来訪者ネキア。彼女は次元階層第三層『骸の冠』に存在を置いている天則者(あまつことわりのもの)で、天異界に輝く星の一つとなっている。天異界の星々は強き者たちの表れ。リヴィアは第四層『虚空苑』に存在を置く。その第四層は存在の在り方が大きく様変わりする階層だ。虚空苑に存するものは、全ての浮島及びその系譜従者と原典とが混然一体となり一つのモノと成る。だから、リヴィアタンはそれ自身が浮島であり系譜従者でありその総てであった。


 それに対して第三層までは、それぞれの次元階層に浮島が系譜により相互に連結し従者もまたそれらの浮島に多種多様に住んでいる。それらが第四層に至ることで総てが総量として一つになる。ただ、来訪者であるネキアは一つの存在には決してなり得ない。なぜならネキアは聖霊ではなく来訪者であるためだ。



 この自由都市エーベに暮らす聖霊の数は10万に及ぶ。その総てが人の姿形をしているのは現世界に一度降りたる者達だから。その一巡目を果たしている者が現世界から姿形という器を貰い受け、天異界に戻ってくる。聖霊たちはその器に天異界のエーテルを蓄積させ、再び器の拡充の為に現世界に下天をする。それを永劫に繰り返す。その循環が聖霊の力を高めていくことに繋がっていくのだ。循環こそが系譜のエーテル総量を高めて、さらなる上位階層に跳躍することを可能とする。エーテル総量こそが系譜原典の力を表わすものだといえる。


「ココが目指すべき次なる階層は『選別の都』となろう。少なくとも実存強度の総量を今まで以上に高めねばならん。そのためには多くの系譜従者を抱えなくてはな」


 転移魔術を使用してリヴィアは都市中枢に辿り着いた。その場所は神殿のような造りで、方々《ほうぼう》に意匠を凝らした細工がちりばめられた空間であった。その空間の中央に巨大なエーテル結晶が浮いている。この浮島の中枢とは、浮島の核であるエーテル結晶のある場所だった。


 リヴィアの前で、一人の男が恭しく最敬礼をとっていた。


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