55話 美少女ソラ、大活躍。
ユリは床下にいるペルンを引っ張り上げて、荷車魔動器を起動させた。素材採取に必要な素材をその魔動器に乗せて、浮島に再び降り立つ。
ソラを残した舟羽を背にしながら、ノインは鬱蒼と茂る樹海を見据えた。
「まずは川を見つけて、そこから上流を目指して上っていこう」
「しっかしよお、俺が舟羽に残っていたほうがいいべよ~」
「ペルンさん、私たちの方が機動力があります。早く素材採取をするには最善だと判断しました」
ユリの解説に、気乗りしない返事をしたペルンはノインの肩に手を乗せた。「だいたいの地形はトサカ娘から聞いてるべ。おめえが先陣切って進んでみろや」そう言って、ペルンはノインに先を促す。
ノインはソラから聞かされた浮島にいる魔獣について説明する。
この浮島で気を付ける魔獣は飛蜥蜴。その身体的特徴は足が前肢・中肢・後肢の3対の合計6本が備わっており、その前肢の付け根から膜状の皮膚が発達していて翼としての機能を有している。そして跳躍用の太い後肢が遠くの地までの滑空を可能にさせているのだと。
どの程度の実存強度を有している存在なのか、もっと情報が欲しいところだった。しかし、戦闘経験の乏しいソラではこれ以上のことは分からずじまい。ノインは自分の手をじっと凝視して連樹子について考える。素材採取に向かう舟の中で連樹子の機能と、その効果について実験を繰り返していた。連樹子は物体を破壊する―――無生物が対象であれば、その存在自体を消し去るものだというのは理解した。なら、対象が生物ではどうなるのか? それは先の魔獣との戦いを参考にすれば、相手の実存強度を削り弱体化させること。なら、もっと具体的に生物の各部位に連樹子を刺したらどうなるだろうかと思う。例えば、脳とか?
「ノイン様、そこの川岸から上流に向かって行くのでござましょうか?」
ユリが後方を歩く荷車魔動器の積載する荷崩れを直して、ノインに行き先を尋ねた。
川の幅は1ミーレ(*1.5km)ぐらい。この河口から川岸に沿って上流に進むのだ。そもそも密林を進む道順もあったのだが、密林には道などなく生い茂った草を押し分けて進むのは時間と労力が掛かってしまう。速度を重視するならば、木々の生い茂っていない場所を上っていく方が賢明だ。それに、ノインたちの存在強度を持ってすれば川沿いの魔獣程度は敵にはならないだろう。
この川を飛空艇で上っていくことも考えたが、小回りの利かない飛空艇では魔獣の良い標的とされ、装甲板の薄いソラの舟では墜落の危険もある。
その河口を上り始めて少しの時間が立った頃、ノインたちが出発した海岸線から、白く立ち上る飛空艇の動力炉の吐き出す軌跡が見えたのだった。
◇
ノインたちが飛空艇から下船して幾時間か経過した。
飛空艇の操舵室で、美少女のソラが舵輪をくるくると回す。部屋の中は静かだった。それはもちろん、この舟羽の船内にはソラしかいないのだから当然だ。その部屋の前面に張り出された窓から浮島の全景を見やる。
ソラは至極当然であるかのように、舟羽の動力炉に火を入れた。稼働する炉はソラの調整した通りの回転数まで力を高めていく。ペルン達はおそらく河口を見つけて上流を目指し上り始めていることだろう。
彼らが無事に帰って来られることを女神に祈ろう。
自分には祈ることぐらいしかできないのだから。ソラは動力炉をさらに回転させ、舟羽を離陸させる。
「主たる女神よ、あなたの限りない慈悲をペルン、ノイン、ユリにお与え下さいっス。そして彼らをお守り下さいっス」
彼らの無事を祈ることはごく自然な行いだ。そして、舟が自由都市エーベに帰還することも当たり前のこと。それは、荷を乗せた舟が出航し目的地で荷を降ろし帰還していくのと同様に、ソラの舟も動き出す。
「全速前進っス」
黒針がいる浮島を離れる。ソラの船が安全な都市エーベに向かって進んでい行くことに、彼女の気持ちが少しずつ軽やかになっていく。もちろん、小さくなっていく浮島を振り向くことは決してない。ソラの胸中には、荷を降ろして軽くなった船を母港に戻すような作業員の軽やかな気持ちしかないのだから。
ソラは気だるげに欠伸を一つ大きくすると、ケツを掻いた。
「さて、帰ったらバリバリ魔動器製作するっスよおおおっっ!!!」
舵輪を力強く掴み、舟を運転していた時と同じ調子で鼻歌を口ずさむ。
ソラはペルン達を浮島に置き去りにして、自分一人だけ帰還の途についたのだった。




