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悪霊 Evil spirit ――異世界死生 編――  作者: ナ・ココ・なご
浮島の日々
39/98

39話 彼女は魚が食べたいと言う。


「えー、本日の朝食は芋尽くしです。コロコロ芋と葉野菜のサラダ、蒸し芋の香草添え、ちょびちょび果実のジャムと、ふっくら芋パンに温かミルクとなります」


 ノインがテーブルに料理名を言いながら並べていく。ペルンは「まったく、朝から森に吹き飛ばされたにしては美味そうな朝食だべ。それによ、風呂の修繕よりも畑の開墾だべ。鍬を持て!鍬を」と腕組みし椅子にふんぞり返っていて、リヴィアは「今日も・・・魚はなかったのじゃ」とぶつぶつ文句を重ねている。それに対してココは、


「芋パンの焼きたての香りが、最高ですぞ!」


 椅子から身を乗り出して大はしゃぎだ。


「ココは、焼きたてのパンが好きですから、小麦粉の量を若干多めにしました」

「っ!ノインちゃん、良く分かってんじゃーん」

「ノイン様の料理の手際には本当に感心します。食材も残り少ないなかでもこんなにも豊かな食卓を作り出せるなんて、すごいです。ふふふ。家族で食卓を囲むのは楽しいですよね」


 食卓の上を彩とりどりの話が賑やかに溢れている。ユリが言ったように皆で食卓を囲むことで分かることがあるとノインは思う。その溢れる色彩は食事を囲む人たちの関係を良く表わすのだと。だから、楽しい食事はそれを囲む人たちの笑顔から始まるのだなあとノインは食事を盛り付けながら納得していた。


 皆の前に皿が並んだのを見届けてからココはすぅーーっと大きく息を吸った。


「みんな!朝ごはんだ。いただきまーーーす!!」

「主たる女神よ。貴方の慈悲に感謝して、この食事を頂きます」


 ココと、ユリの食事の祈りを皮切りにして、それぞれパンを取ったりサラダをよそおったりして食事が進んでいく。


 連樹子の一件でペルンの畑の作物がなぎ倒され、食べられるものといえば芋のみとなっていた。そのためにペルンは作物の早期収穫を目指すため促成栽培を行っているのだ。人数が増えた分だけ食料がかさむのも道理で、ノインもペルンに連れ立って新たに畑の開墾をしている。ノインはペルンに言われたわけでもなく早朝になると畑に出かけるペルンについて行く。というのも、ペルンの畑の整備が終われば剣術を教えてくれるだろうとノインは考えていた。連樹子の一件以来、ノインはその時のペルンの剣術だけを見よう見まねで練習している。だが、ペルンから剣術の手ほどきを受けたことはない。多分、今はとにかく畑の整備が急務だから剣術を指南するどころの話ではないのだろうと彼は受け止めていた。だから、ノインは畑仕事をとにかく頑張ろうと思うのだ。

 だが、そのノインの予測は少し違った形で実現することになる。先日のペルンとリヴィアの一件以来、ペルンがノインに木刀を持って畑に来るように言ったのだ。


 それ以来。


 毎日、早朝になるとノインとペルンは畑に出かけていく。ただ、畑仕事をするのはノインだけで、そのノインの作業中にペルンが畑の横で剣術の稽古をするのだった。ただ、稽古といってもペルンは素振りと型を繰り返すだけで、ノインが想像していたような直接的に何かを斬りつけて剣技を放つということはなかった。彼は未だペルンから直接的に剣術の手ほどきを受けたことはなく、剣術について聞くと代わりに鍬を手渡される始末。


 だから、ノインは畑の横で行うペルンの型の動きを一瞬たりともこぼすまいとその所作を食い入るように観る。ペルンの素振り稽古もノインの畑仕事がひと段落着くと終わりを迎える。その後は、ノインと一緒に畑仕事に取り掛かり朝の作業を片づけていく。

 畑の作業は朝のうちに終わり、それから夕方までは自由時間となっていた。ノインはその時間を利用してペルンが行った型を同じように繰り返し、何度も何度もその型の軌跡を体と木刀でなぞる毎日を過ごしていた。


 ―――と、ノインはリヴィアの声で我に返る。


「なぜ、食卓に魚が並ばないのじゃ?この浮島の川には魚が泳いでおろう?」

「畑に魚はいねえべ。それも分からねえとは、やっぱウナギはウナギだべよ」

「ペルンさん、その物言いはどうかと思いますよ。リヴィア様。今日の食事の後に魚を取りに行くのは如何でしょうか?」


「ウナギがウナギを釣ってくんのか~?がはははっ!」

 リヴィアがペルンを窓からぶん投げて、椅子に座りなおした。その隣でココが口いっぱいにパンを頬張って、口の周りに沢山のジャムをつけている。それを見たリヴィアは食卓用の布でココの口元のジャムをふき取って、皆を見渡し宣言する。

「よし!ユリの案に乗ったぞ。ならば、この吾が魚を捕まえてこよう。ココ、大物を仕留めてくるがゆえ、楽しみに待っているのだ」

「うん。魚、楽しみにしてる!」


 ココの期待のこもった瞳がリヴィアの気持ちをさらに熱くさせていく。彼女の白群びゃくぐん色の髪がざわざわと波打ち、気合が込められているのが傍から見ても分かった。

 ノインがデザートの芋プリンを炊事場から運んできていた。ペルンの芋プリンはリヴィアが無造作に食べていて、ユリが「あの、それはペルンさんの分ではないでしょうか?」などと、ため息交じりに言っているのがノインの耳に聞こえてくる。


 家の外からペルンの抗議を伴った声が近づいてきていた。今日も一日、賑やかになりそうだなあとノインは思うのだ。


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