28話 刮目せよ!六律系譜が聖霊。
ユリの張りのある声量が広場に広がった。
「六律が系譜に問う。我が原典の則によりて、汝の器を原始系譜に開示せよ!聖霊魔法・領域制御式『六律聖霊・身応』」
聖霊召喚が発動した。その発動と同時にノインは自分の周りに天異界の空に輝く星々を感じる。ユリの領域魔法は、天異界に存在する上位次元の強者の力そのものをノインの眼前に示した。
「ノイン様!自分の感覚に従って聖霊を招いて下さいませ」
ユリの掛け声でノインは目を閉じ集中する。もっとも輝く星を見つけて、手を伸ばす。しかしノインの求めるその星はとても遠くて手を伸ばしても届きようがなかった。必ず手に入れる!そう気持ちを強く持ったとき彼は連樹子を思い出した。そうか、連樹子を伸ばせば届くかもしれない。
ノインは、連樹子を発動させる。
手を伸ばした先にある星を紅い樹枝が貫き無理やりに引き寄せる。空間がきしむ音が響き、聖霊召喚陣が蒼く輝きだした。
聖霊召喚が始まった。
浮島が割れんばかりに揺れる。
「おい!ノイン、畑が潰れるべええ!」
ノインたちのいる頭上の空が砕け、蜷局を巻き幾多の渦を引き連れる一匹の超大な海蛇が現出した。その大きさは浮島を覆うほどに巨大で、雷轟が空間を震撼させて、氷雷がノインたちのいる森に降り注ぎ大地を穿つ。
「あー!!俺の畑さ雹ば降らせやがってー、あんのウナギがっ!!腸を抜き取って蒲焼きさしてやんべー!」
地団太を踏むペルンの暴言がその海蛇に届いたのか、氷雷がペルンに向かって打つ放たれた。寸でのところでユリが防御魔方陣を編んだが、雷撃により膨張した空気にペルンは吹き飛ばされてしまった。
「ノイン様、まだ召喚は終わっておりません!儀式は継続中です。集中を切らさないで!自分の場所に引き寄せるようにして『契約対象』を召喚陣に繋いで下さいませ」
ユリは降り注ぐ雷の中をココを抱きかかえてノインに指示を出す。ノインは言われたとおりに頭上に君臨する巨大な海蛇を見据え、自分のいる魔法陣に繋ぐようにイメージする。ノインの両手から連樹子が鉤爪の形を成して海蛇に深々と突き刺さり幾重にも巻きついていった。多重に拘束されて身動きが取れなくなったそれを、彼は無理やりに魔術陣の中心に引きずり込もうと腕を引く。
その超大な海蛇は魔術陣の中心に近づくごとに姿を変容させ一人の艶やかな女性となった。年のころは17才の白群の髪色をした女性が聖霊召喚陣の中央に降り立つ。その足先まで伸びたウェーブの掛かった髪が大海の波を表すようにうねらせ、紅い瞳をかっと見開く。それによって周囲に衝撃波が放たれ、ノインもまた吹き飛ばされてしまった。
「吾を呼んだのは貴様か?」
その尊大な響きと高雅な姿は天異界の上位者としての偉容をまざまざと現していた。上衣とスカートが一体となった服装は、その女性の繊麗さを優雅に映し出している。手足が大きく露出し、その透き通るような白い素肌が聖霊の特徴を象徴させていた。
その女性が人成りになった瞬間に放った木々を吹き飛ばすほどの衝撃波のなかで、ユリだけが吹き飛ばされることなくその場に留まっていた。そのユリに女性は問いかける。ユリは胸元に抱いているココを地面に立たせ、恭しく一礼をとった。
「申し遅れました、私はこの浮島の巨樹の守り目を任ぜられておりますユリと申します。海蛇の御姿、その強大な力から六律系譜の守護者であります聖霊リヴィアタン―――リヴィア様であるとお見受けします。貴方様を召喚いたしたのは私ではございません、彼方の少年でございます」
「ほう?」
「リヴィア様。その少年を良くご覧になって頂ければと存じます」
リヴィアタンと呼ばれた女性―――地面にまで届くほどの白群のウェーブのある髪をなびかせて、ノインを横目で見やる。リヴィアの瞳はココと同じく紅色に輝き小物を見るような視線をノインに投げていたが、何かに気づいたらしく怪しく艶やかな笑みを浮かべた。
「なるほど、良く見れば面白い少年よな。確かに吾を呼ぶ入口を開いたのはユリであったが、少年が吾をこの地に召喚したのに違いなかろうよ」
リヴィアは冷然とした視線を崩すことなくノインを射貫いている。彼女は自分を中心にして発動している魔法陣に手を触れ、その状態を面白がるように笑っていた。
「少年、汝の名は何というのじゃ?」
「僕はノイン・ニ―ベルといいます。貴方のことは、リヴィアさんとお呼びすればいいのでしょうか?」
ノインの問いかけを無視するようにリヴィアは召喚魔法陣から手を離すと、ユリに問いかける。
「聖霊契約は進行途上ではあるが、さてどうしたものであろうな?」
そう言いながらリヴィアは両手にエーテルを集めていく。その尋常ならざるエネルギー量にノインは、その実存強度を見て息をのんだ。
実存強度 リヴィアタン:4.833




