13話 優しさ。それは覚悟の強さ。
そんなやり取りをしながら、ココは幾分胸をなでおろしていた。虹色結晶を人形体の核として運用しても問題はなさそうに感じられる。いや、むしろ大成功なんじゃないだろうか?敵対の意志もなければ、動作不良ということもない。いたってスムーズな動きに、会話もできている。
世界の不思議は、永く生きているココでさえ知らないことが山のようにあった。今回の七色結晶石もその一つ。だから、緊張もしたけど、それ以上に絶対に上手くいくんだという覚悟が彼女を前に進ませた。私が私として前に進むための一歩。その歩みの積み重ねが彼女を形作っている。そして、目の前の魔動器人形がココにとって大切な者になっていくという確信が彼女にはあった。だから、先ほどまで抱いていた危機感や不安感は笑顔で吹き飛ばしてしまう。そう―――、自分が作り出した人形の所作に彼女は感激していたのだった。
ああ、凄い、凄いよね!私が願った通りに魔動器人形が目覚めたんだ!――ちょっと、不安だったけども、ちゃんと身体は動作しているし一般知識の読み取りもきちんとされてるみたい。やっぱり、私って天才なのかもしんないね!それに、ノインちゃんの声がとっても美声だよね。やっぱり、自分好みの声にして正解だったよ。だって、ご主人とその従者だよ?ずっと一緒にいるわけだもん、好みの声や顔にしても誰も怒んないよね!というか、私が毎日癒されちゃうよ~。もしかして、毎日優しく起こしてくれちゃうんじゃないかな――うふふっ、それはそれで大満足だよ、私は。もちろん、私の創作物のすべてに対して愛があるもんね。天異界を渡るために私を運んでくれる「船ちゃん3号」のことも大好きだよ!しゃべらないけど。あっ、そうだ。今度は、船ちゃん3号にも発声機能をつけちゃおうかしら――うんうん、そうだね。やっぱり皆を平等に愛さなくっちゃ、みんな焼きもち焼いちゃうもんねえ――。
などと、ココは自ら作成した魔動器に対する偏愛っぷりを際限なく発揮している。確かにココの魔動器に対する執着はとても大きなものがあり、それは製作者だからという範囲を越えているようだった。
と――、
思わず、糸が切れたようにココはその場に倒れてしまった。ノインの起動に大きな魔術を使い、エーテルを使い果たしてしまっていたからだ。どうやら少女の身に宿るエーテル量は少なく、エーテル結晶の補助を得てもなお不足があったのだ。
ガタッ――
積みあがった本にココの肩がぶつかり、本の山が崩れる大きな音とともに彼女もまた床に倒れ、その音が部屋に重く響く。
床に倒れたココは微動だにしない。ペルンがいち早く彼女の傍に駆け付け、手に持ったエーテル結晶をココに手に持たせている。ノインもココの異変に気づき、彼女のそばに歩み寄った。
「ココ?どうしたのですか?」
「エーテルの枯渇だべ。やっぱり領域魔法の三重起動は無理があったんだ。エーテル結晶を使ってなんぼかでも、エーテル回復させてやんねえとココの体がもたねえ」
ココの手を握るペルンからは、お道化るいつもの余裕が消え去り鋭い口調がノインに向けられる。ペルンは急いで部屋に保管されているエーテル結晶石を取りに行くのと代わるように、ノインはココの手を握る。彼女は目を閉じたまま肩で息をしていて、とても苦しそうだ。
改めて認識する。彼女の体内エーテル量が極わずかしか残っていないことに。
ノインは、顔が青ざめているココの小さな手を強く握り自らのエーテルを少女に分け始めた。彼の人形体に貯えられていたエーテルがココの小さな体に少しずつ流れていく。原典とその従者との間ではエーテルのやり取りが可能なのだ。
「ノイン、ありがてえべ。これで、ココも数年間の眠りにつく必要がねえべよ」
両手に抱えられるだけのエーテル結晶を持ってきていたペルンが、ノインとココのエーテルのやり取りをみて、いつもの調子を取り戻していた。
少女の青くなっていた唇にわずかながらも血の気が戻ってきてきて、ノインも胸をなでおろす。エーテルは天異界に暮らす生物の生命力そのものだ。その命の根源であるエーテルを危険域まで消費することは、自らの命を縮めることにほかならない。それによく見てみると、ココの頬や腕、いたるところに傷を縫合した後が無数にあった。少女はこれまでの間にどのようなことがその身にあったというのだろう?




