表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/105

第9話 千紘と秋斗の能力とは・1

 澄んだ空は高く、道はどこまでもまっすぐに続いている。


 千紘と秋斗が歩いているそれほど幅の広くない街道には、今のところ二人以外の人間は見当たらなかった。


「何で俺が……」


 手に持っている小さな紙切れを見ながら、ブツブツと千紘が文句を零す。溜息は何度ついたか、もうわからない。

 リリアが描いてくれた洞窟までの地図だ。とはいっても、道沿いにまっすぐ行くだけで、これなら特に問題はなさそうに思われた。


「……よくもあのサイズをピンポイントで、しかも膝で踏んだよな……」


 千紘はさらに、秋斗が誤ってミロワールを割ってしまった時のことをぼやく。


 千紘と秋斗は割れる前のミロワールを見ていなかったから実物のサイズを知らないが、リリア(いわ)く、「手のひらよりも一回りくらい小さい」らしい。


 それをピンポイントで割ってしまう秋斗は、すごい強運を持っているのかもしれない。もちろん良い意味ではないが。


 すると秋斗は、


「あれは不可抗力(ふかこうりょく)だったんだから仕方ない」


 おれは悪くない、と反論してきた。


「それにさ、こんな体験普通はできないんだからもっと楽しまないと!」


 さらにはこんなことすら言ってくる。

 秋斗はまるで遠足気分であるかのように振る舞っていた。


「……遠足じゃないんだぞ」


 千紘が唸るような声で釘を刺すが、聞いているのかいないのかまったくわからない。


 悪びれる様子もなく、ただ純粋にこの状況を楽しんでいるように見える秋斗に、千紘は少しばかり苛立ちを覚える。


(……洞窟まではそんなに遠くないみたいだから、ほんの少しだけマシか……)


 地図をぼんやり眺めながら、懸命に自身を鼓舞(こぶ)しようとするが、やはり連帯責任にされたことには大いに不満を持っていた。


 しかし今さら一人で引き返したところで、リリアに「あんた馬鹿なの? 一緒に行ってきなさいって言ったじゃない!」などと一方的に怒られ、元の世界に帰してもらえないのがオチだ。

 そんなことは容易に想像できる。


 だから、ここはさっさとターパイトを採って帰るべきだと考えた。

 そして無事に地球へ帰ることができたら、自分のベッドでいつも抱えているお気に入りの抱き枕と共に一週間くらいはゆっくり寝ていたい、と近いか遠いかもわからない未来に思いを()せたのである。


「それにしても……」


 先ほどからずっと腰にぶら下がっている物にそっと目を落とし、指先で触れる。思っていたより重くはないが、存在感が半端ない。


 千紘がまた大きな溜息を漏らす。


 それはスターレッドに相応しいというべきか、むしろ必須アイテムとも呼べる長剣だった。



  ※※※



 今から少しばかり前のことだ。


「冒険と言ったら『剣と魔法』じゃないか!? 魔法とか使えたりしないかな?」


 さあ出発するぞ、と無理やり千紘を引っ張っていった秋斗だったが、十歩ほど進んだところで思い出したようにリリアを振り返った。


「魔法が珍しいの?」


 手をひらひらと振りながら二人の姿をのんびり見送っていたリリアが、きょとんとした顔で答える。


「おれたちの世界では誰も魔法なんて使えないからさ!」


 秋斗が明るくそう言うと、


「この世界では当たり前に存在してるけど……」


 リリアは顎に手を当て、考える素振りを見せる。

 その間、秋斗はワクワクした様子で待ち、千紘はそんな二人を冷めた目で眺めていた。


(まためんどくさいことを言い出したな……)


 思ったが、もちろん口にはしない。口にしたが最後、秋斗からどんな言葉が返ってくるかわかったものではないからだ。


 しばらくして、リリアがようやく口を開く。


「……そうね。あんたたちに万が一のことがあってターパイトを採って来られなかったら困るし、とりあえずどんな能力があるかくらいは調べておきましょうか」

「もしかして魔法使えるの!?」


 途端に秋斗の瞳が輝き出した。


「いや、俺たちは魔法とか使えない普通の地球人だから」


 さっき自分で言ってたろ、と千紘が秋斗に言い聞かせるようにゆっくり口にすると、秋斗は「確かにそうだけどさぁ」と不満そうに唇を尖らせる。

 そこにリリアの言葉が割ってきた。


「前に本で読んだことがあるんだけど」


 そう前置きする。

 千紘と秋斗は続きを待った。


「この世界に来た時点で、存在がこの世界の(ことわり)に書き換わるんですって。だから、アンシュタートの人間がみんな何かしらの能力を持っているように、あんたたちにも能力が備わってるんじゃないかしら。別に調べるくらいはいいと思うけど」


 どうかしら、と今度は千紘が言い聞かされる。


「マジか……」


 千紘は青ざめた顔でうなだれた。

 これまた面倒なものが出てきた、と心底うんざりする。


 どんな能力なのかは知らないが、そんなものを欲しいなんて自分は一言も言っていないのに。欲しがっている、使いたがっているのは秋斗だけだ。


(……でも、一分で料理ができる能力とか、念じるだけで掃除を終わらせられる能力だったら欲しいかもしれないな)


 しかし、めんどくさがりの千紘らしい考えに至る。


「まあ、調べるだけならいいか」

「やった!」


 千紘が了承すると、秋斗が力強くガッツポーズをした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ