表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~  作者: 市瀬瑛理
第二章 新たなメンバーは黄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/105

第73話 じゃあ、またね

 その後、塔の中で食べたクッキーについて、やはりリリアの手作りだったことが判明した。

 どうやら小さい包みのせいで、リュックの中身を確認した時に秋斗と律が見落としたらしい。


「あれ、すごい焦げてたんだけど」


 千紘が真顔でリリアにそう告げると、


「そ、それは気のせいよ! 私が初めて作ってちょっと失敗したとか、全然そんなのじゃないんだから!」


 途端に慌て出したリリアは、耳まで真っ赤にしてそっぽを向く。しっかりと自白しているのだが、本人は無意識のようだった。


 だから、千紘はこれ以上何も言わずに、そっとしておくことにする。その方がお互いにとって、色々な意味で一番いいと考えたからだ。


 きっと自分たちのために頑張って作ってくれたのだろう。その気持ちはありがたいと思った。

 けれど、千紘もなかなか素直になれない性格なので、


「……まあ、食えないことはなかったけどな」


 ただそれだけを付け加えるのが精一杯だったのである。



  ※※※



 タフリ村のすぐ近くにある『サナンの森』。それがいつも千紘たちの召喚されている場所の名前だった。


 だが、千紘にとって森の名前などはどうでもいい。

 とにかく早く地球に帰りたい。その一心である。この森に来るまでも、気が()いて仕方がなかった。


「千紘はせっかちだなぁ」


 両手を後頭部で組んだ秋斗が、大きな木の幹にもたれ、のんびりした口調で言う。


「俺は一刻も早く地球に帰りたいんだよ」


 千紘はそんな秋斗をきつく睨みつけるが、当の秋斗には睨みつけたところで何の効果もない。すぐに千紘が歯噛(はが)みして終わるだけだ。


 律は二人の様子をおとなしく眺めていた。律にとってはいつものことなので、わざわざ二人の間に入ったりなどはしない。


「ちゃんと帰してあげるから、ちょっとくらい待ちなさいよ」


 腰に両手を当てたリリアが、「仕方ないわね」と首に下げていたミロワールを外す。


「もうこれっきりにしてくれ……」

「何でよ」


 心底疲れたとでも言いたげに千紘がうなだれると、リリアが仁王立ちしたまま、不思議そうな表情を浮かべた。


「何でもなにも、こっちに呼ばれるとろくなことにならないんだよ。めんどくさいことばっかでさ」


 千紘はリリアに向けて、思わず愚痴(ぐち)る。


 前回は洞窟までのお使いで、今回は魔物退治と塩の買い付け。毎回何かしらの面倒ごとが待っていたので、千紘は「もう二度とここには来たくない」と、辟易(へきえき)していたのである。


 そこに秋斗の明るい声が響いた。


「おれは楽しかったけどな!」

「アンタはそうだろうけど……」


 今回も遊園地気分だったんだろう、と千紘ががっくりと肩を落とし、嘆息する。


 実際に、秋斗はヒーローショーの会場近くのホテルに前日入りして、一人で遊園地を満喫していたのだ。きっとその延長のようなものだったのだろう。


「確かに大変でしたけど、僕も結構楽しかったですよ」


 魔法も使えましたし、と律も笑みを浮かべながら、秋斗に同意する。


「ほら、りっちゃんだって言ってるんだから、みんな楽しかったんだよ!」

「何でそうなるんだよ。ホントめんどくせー……」


 なぜか多数決にしようとする秋斗に、千紘が頭を抱えながらしゃがみ込む。心の中で、とうとう律までが秋斗に毒されてしまった、と嘆いた。


「もういいからさっさと帰してくれ……」


 しゃがんだままの千紘が、さらに大きな溜息をつく。そろそろ地面に突っ伏してしまいそうだった。


「まったく、チヒロはいつもこうなんだから。わかったわよ」


 リリアが呆れたように言いながら、手に持っていたミロワールをそっと草の上に置く。

 それを見た秋斗が、すぐさまミロワールの近くに立ち、律の手を引いた。


「りっちゃん、こっち!」

「あ、はい!」


 引き寄せられた律は素直に頷き、少し慌てた様子で秋斗の隣に並ぶ。


「ほら、千紘も!」


 笑顔の秋斗が、今度は反対の手で千紘の腕を引っぱり、無理やり立ち上がらせようとする。


「わかってるって」


 別にいちいち立ち上がらなくてもいいだろ、と気だるそうに、千紘はゆるゆると立ち上がった。秋斗にされるがまま、引き寄せられ、隣に並ばせられる。


「じゃあ、またね」


 リリアが小さく微笑み、次には口元で何かを呟いた。きっと呪文か何かだろう。


 言い終えたらしいリリアが一つ息を吐くと、それに呼応(こおう)したかのようにミロワールから淡い光が溢れ出す。


「だから『また』はやめろって――」


 千紘は(たま)らず口を開くが、その言葉は最後まで紡がせてもらえなかった。


 淡かった光がだんだんと強い輝きになって全身を包んでいき、眩しさに目を開けていられなくなる。

 次の瞬間、ふっと全身から力が抜け、千紘は眠るように意識を手放したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ