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戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~  作者: 市瀬瑛理
第一章 赤と青

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第22話 決着の時

「──聖なる水よ、今ここに水流となりて顕現(けんげん)し、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん──」


 まさか魔法の詠唱か、と千紘が息を呑んだのとほぼ同時に、秋斗は目を見開く。


「────クリスタル・フラッド!」


 声高に叫んだ次の瞬間、両手に乗っていた水の塊が消える。


(これが、秋斗の魔法……)


 千紘はその様子を嬉しいような、羨ましいような、何とも不思議な気持ちで見守るのが精一杯だった。

 そこにまた秋斗の声が響く。


「千紘、下がれ!」


 千紘は我に返ると、声に従って数メートルほど後ろに下がる。すると、ラオムとの間にできた空間に先ほどの水の塊が現れた。そして瞬く間に大きな音を立てて破裂する。


「わ、っ!」


 驚いた千紘が思わず声を上げ、水しぶきを避けようと腕で顔を覆う。しかしそれには構わず、秋斗はさらに続けた。


「今のうちだ!」


 腕を避けて見てみれば、ラオムの足元にピンポイントで大きな水溜まりができていた。膝近くまで高さのある立体的なものだ。ここでも色々な法則を無視している。

 秋斗の魔法で先ほど破裂した水が集まってできたものだと、千紘にはすぐに理解できた。


「な、何ですか、これは……!?」


 突然のことにラオムが狼狽(うろた)える。これまでの余裕がまるで嘘のようだった。


 秋斗のことをまったく警戒していなかったわけではないだろう、と千紘は考える。

 しかし、ずっと自分が攻撃して秋斗に目を行かせないようにしていたから、そこまで注意を払えなかったはずだし、注意していたところで離れた場所にいる秋斗がどんなことをしてくるのかまでは予想できなかったのだろう。


 ここまでは秋斗の作戦が上手くいったようだ。


 秋斗が指を一つ鳴らした。


 すると、ラオムの足元を飲み込んだ大きな水の塊は、波のようにその場で揺れる。そしてそのまま足を(すく)うと、体勢を崩させた。


『今に足を掬われても知らないからな』


 まさに先ほどの千紘の言葉通りだった。


(今だ!)


 千紘は直感した。

 体勢が崩れたこのタイミングなら間違いなく一撃が入るはずだ、と。


 誰に向けるでもなく不敵な笑みを浮かべた千紘は、腹の痛みも忘れて、勢いよく地面を蹴る。


 一気にラオムまでの距離を詰めたところで、秋斗の作った水溜まりが消えた。きっと状況を見た秋斗が、咄嗟に水を引かせたのだ。ラオムの体勢はまだ崩れたまま、いや、突如水が消えたことでさらに大きく崩れようとしていた。


 千紘は両手で長剣を強く握りしめると、高く掲げる。それを力いっぱい、全身全霊でラオムめがけて振り下ろした。


「────スター・バースト・スラーッシュ!!」


 そして訪れる静寂。


 わずかな沈黙の後、


「そ、そん、な……馬鹿……な……」


 ラオムが仰向けに倒れ込む。その左肩から右の脇腹にかけてできた大きな傷からは、やはり黒い霧が噴き出した。

 何も言わなくなったラオムの身体は、徐々に蒸発するように消えていく。


「……」


 千紘は緊張した面持ちで、黙ってラオムを見つめていた。それからややあって大きな息を一つ吐くと、崩れ落ちるように膝をつく。肩が激しく上下していた。


「千紘、大丈夫か!?」

「……ああ」


 秋斗が慌てた様子で千紘の元へと駆け寄ると、前髪を汗で額に張り付かせたままの千紘が静かに頷いた。


「やっぱり暗黒霧(あんこくむ)だったんだな」


 ほとんど形のなくなったラオムを見やりながら、秋斗が呟き、千紘の隣にしゃがみ込む。秋斗の額にも同様に、前髪が張り付いていた。


 そのまま二人並んで、無言でラオムの最期を見届ける。


 すべてが消えてなくなったところで、ようやく秋斗が口を開いた。


「……ところでさ、千紘」

「……何だよ?」


 千紘が怪訝(けげん)そうな顔を向けると、秋斗は意味ありげににやりと笑う。


「いや、さっきの必殺技さ、いかにもヒーローって感じですげーかっこよかったよ!」

「あ、あれはいつもの癖で! 何で俺、あんなダサい必殺技の名前を……っ!」


 途端に、千紘が両手で顔を覆って(もだ)え始める。


 ドラマの撮影では毎回ラストに必殺技で敵にとどめを刺すシーンがあった。そのせいでつい口走ってしまったことを今になって後悔する。顔が紅潮しているのがはっきりと自覚できた。


 その様子に、秋斗がクスクスと小さな笑みを零す。


 今すぐにでもこの流れを変えなければ、と千紘は慌てて話題を逸らした。


「そ、そうだ、秋斗!」


 声が少し上ずってしまうが、今はそんなことはどうでもいい。

 一瞬きょとんとした秋斗だったが、千紘はそれには一切構わず口早に続けた。


「アンタ、何でわざわざ戻ってきたんだよ? 俺のことなんて放っておけばよかったのに、やっぱ自分勝手だな」

「そうだよ、おれは自分勝手なんだよ。だから自分のやりたいようにやる。ただそれだけ」


 ダメか? と秋斗はまっすぐに千紘の目を見て、微笑む。


「別にダメじゃないけど……」


 ダメだ、なんて言えるはずもない。そんなのは本人が決めることだ。自分が口を挟む権利なんてどこにもないことはよくわかっている。

 それに、今回は秋斗の『自分勝手』に助けられた。文句を言うわけにはいかない。


 千紘は不愛想に顔を背けるが、心の中では何となくくすぐったいような気持ちになっていた。


 そんな心中を察したらしい秋斗が声を上げる。


「千紘!」


 突然の明るい呼びかけに思わず千紘が振り向くと、そこには右手を高く上げた秋斗の姿がある。

 秋斗が何を言いたいのか、これまでだったらわからなかっただろう。だが、今ならわかる。


 千紘は同じように右手を上げると、少しはにかむような笑みで秋斗とハイタッチを交わしたのだった。



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