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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
9/41

第8話「ごはんの為に」


 この数十年、南欧が寒冷化して来ている。


 というのは世界各地でも頻発する異常気象からも事実として多くの欧州市民の知るところだろう。


 度重なる大戦での限定核戦争と地球温暖化。

 更に地球の氷河期への移行。


 これが三位一体となって今や地球環境は斑模様だと言われている。


 寒冷化は地球規模でのものだが、温暖化は人間が唯一ソレに対抗出来る程度の温度上昇策なのだとか。


「これが欧州最大の食糧生産プラントか~。スゴイおっきい」


『はい。米国と日本が合作した超高耐久資材を用いた耐用年数400年のプラントです。設立当時から内部の生産設備の大半は使い回されていますが、未だに稼働しており、230年目の操業だそうです』


 目の前には7km四方にも及ぶ敷地にある超巨大プラントがある。


 観光名所としても有名なのであちこちに見学ツアーで敷地内部に入っていくバスもちらほらと見受けられた。


「こんなのがパテとか作ってたんだ……」


『正確にはその原材料です』


 近頃、それよりも問題視されているのは人口比で見た場合の食料の生産量が現在進行形で需要に追い付いていない事だ。


 多くの先進国では国内に【栄養ループニング学】と呼ばれる食料生産大系の学問が幅を利かせた時代に現行の人口比率に従って最低限度以下に飢えないよう自給する為、地域ごとに当時最新鋭の食料生産工場が造られた。


 今後の更なる食料の奪い合いの時代を見越して作られた学問が実際に世界を救った希少な例だったという。


 これらの学問の考え方は基本的に食料自給率が低い国には二通りのタイプがあるとし、片方は資源が無い為の低自給率、もう片方は資源はあってもコストが払えない為の低自給率と定義した。


 それを人々は飢餓と言っていたと歴史の教科書にはある。


「昔は飢餓って言う社会現象があったんだよね?」


『はい。今は再び存在していますが、世界保健機関及び国連の世界食糧生産計画による大規模な食糧供給網の発達によって、新型食料生産プラントの開発成功から120年程は殆ど起らなかったと記述されています』


「そう言えば、今の地球人口って昔では考えられないくらい多いんだっけ?」


『ええ、現在の世界総人口は849億人となっており、楽園のネズミ状態だと一部の学者は揶揄していますね』


「楽園のネズミ?」


『ええ、地球を食べ尽くすネズミです』


 地球上における食料生産は多くの場合、コストを安く抑える方法の確立を待たない限り、ネズミ算式に増える人類を養えない。


 そう大昔には言われていて、限界が低かったとされる。


 それが第三次大戦期よりも前に開発された技術、商業用核融合炉の登場によって現実化、現在の形となったとか。


 食料供給の為に当時の最新エネルギーが活用されたのだ。


『楽園は最後に必ず破滅する。そういった実験結果があったのです。故に国家は表裏である管理社会を志向し、管理された戦争、管理された人生、管理された人間を以て、人類の存続を図るべし。これは有名な管理社会主義者の言葉です』


 主要先進七か国が運用し始めた核融合炉はエネルギー革命を齎し、殆どの自然エネルギーを供給ラインが引けない極地でしか使う意味の無いものにした。


 そして、それが人類の管理社会化による人口爆発期の始りと言われている。


『常にそういった管理方法は歴史的に多くの国で議論されて来ましたし、その最北にあるのが貴女の祖国だったりもします』


「そうなんだ……」


 宇宙にすらも持っていけるようになった核融合炉は正しく人類の救世主であり、人々はそのエネルギー革命を持て囃したが、それは同時に低所得国の要する穀倉地帯や食料生産地域の需要を低下させる事になった。


 材料工学の発展によって得られた超高耐久建材や各資源生産用プラントに無限に等しいエネルギーの供給……これが先進国での食料自給率を爆上げしたからだ。


「確かに村ではごはんを食べられない事は無かったっけ……」


『人類技術の発展が社会に多大な影響を齎した近代から現代に掛けての部分的成功例の一部なのですよ。バルカンズというのは……』


「でも、その技術のせいで経済が混乱したりしたんだよね?」


『ええ、人口爆発期寸前の時代では食料余りが酷く。後進国の多くが食料余りによる過剰生産性の不況に見舞われました』


 飢餓が無くなった時代。


 食料余りという怪物が専業農家として多くの貧困層を抱える低開発国の経済状況を直撃した。


 技術の進展によって各国の食糧生産事情は国内自給率の増加で激変。


 第三次大戦の直接の引き金になる食料余りによる低開発国に端を発する食料大恐慌が起る事になった。


 それは巨大な食糧飽和による食料供給地帯の大不況であり、先進国のような高度農業や農耕作物のブランド化を達成していない殆どの農家は何処の国でも世界規模の賃下げ圧力で市場ごと成り立たなくなって崩壊。


 結果として今まで世界の食糧事情を支えていた国々は食料余りで飢え死に出来ないがどん底の貧困で固定化されるという新貧困状態となった。


「ちなみに此処のプラントってどんな食料を創ってるの?」


『海辺という事もあり、基本的には海産物の培養肉などを欧州各国に供給しています。再現する高資源性食材には通常よりも電力を必要とする為、その分は価格として転化されますが、凡そ培養肉の最低ランクと比べても1.3倍程になるはずです』


「恐慌の後に今度は高価格帯の食糧生産が何処でも目指されたんだよね?」


『ええ、その結果として今は大規模農業基盤を持つアグリ・コングロマリットと自給者以外は農家という職業で語られる事も無くなりましたので……』


 誰もが食べ物を食べられる世界から戦争が無くなる事も期待された。

 が、やはりそんな事は無かったし、世界から貧困は無くならなかったのだ。


 農家という世界の多くの国で貧困層として固定化されていた人達は食べられずに生きられない貧困を脱したが、今度は相対的生活水準の低い貧困となった。


 貧困の意味が変わったというのは多くの学者、偉い人が言っている事実だ。

 曰く、貧困による教育や生活環境の最低限度の下限が大幅に引き上げられた。


 明日の食事に困る事なく。

 ネットに接続出来ない貧困家庭は存在しない。


 以後の時代、貧困という怪物に人類は僅かばかり立ち向かえている、らしい。

 まぁ、それもこの激増した地球人口を前にしては近年怪しいらしいのだけど。


「でも、こういう場所が沢山建てられ続けても近頃は食べ物が足りないんだよね? また農家って人達が出て来るんじゃない?」


『無くはない話ではありますね。技術でコストを限りなく下げて食料生産と食料生産プラントは増え続けていますが、人類の増加率に食料生産規模が追い付いていないのが現状ですし』


「先進国の人達って今は沢山の人を月や火星に移住させてるんでしょ?」


 ディスプレイ内でシラヌイの肩が竦められた。


『現在、各ラグランジュポイントに造られた食料供給コロニーと移住用コロニーはそれでも未だ140機に足りません。合わせても10億人は住めないでしょう。火星圏への移住も後100年もすれば300億人で限界とされています』


「ええと、その後は外宇宙の植民惑星に超長期移民計画、なんだっけ?」


 目の前に星系内部のデータが映し出される。


『はい。現在、地球の資源を限界までリサイクルしたとしても、技術的に支え切れる人口の限界は1400億人程とされていますし、先進国の人口増加策も相まって未だ人類は資源戦争中です』


「ユーラシア・ビジョンの人達って、そんなにお腹が空いてるの?」


『人口爆発政策で現在120億人を抱えています。ですが、第三次大戦前からの西側諸国との軋轢から最新の技術は産業スパイが盗んで来ない限りは出て来る事もなく』


「効率の悪い生産プラントすらも足りないんだよね?」


『ええ、まともに広大な領土の有機資源を運用出来ていません。結果としてモノ不足となった様子は彼らの大本となった旧ソ連時代を思わせる程に酷いとか』


「それでも戦争の技術は一流、と」


『ええ、だからこそ、各国も領土の侵略合戦を敢て黙認しています。抱え込める有機資源は糞尿ですらも価値がある時代にユーラシア・ビジョンの領土は未だ低汚染有機物の宝庫ですから』


「やっぱり、汚染はされてるんだ?」


『ええ、現在までの大戦で小規模な限定核戦争がユーラシア・ビジョンとの間に4回も起きました。今は汚染も低減していますが、ヨーロッパ東側、あちらからすると西側の地域の汚染は断続的な為、未だに酷い地域も存在します。統一中華がその良い例でしょうね』


 世界を支えるのは食べ物だと誰かは言った。


 でも、それも今はゆっくりと足りなくなる有機資源のリサイクルと核融合炉の恩恵無くしては成り立たない。


『東南アジアの中華圏は前大戦で最大規模の限定核が乱発されたせいで有機資源の汚染が酷く。汚染が低減されるまでは汚染された資源で造った食料を供給するしかない事や重金属による環境汚染、汚水による地下水汚染で屋外生活者の平均寿命が40歳を切りました。後2000年程はまともな食糧生産地帯にならないでしょう』


「……お腹減ったね。シラヌイ」


『当機の充電は十分です。船への積み込みまでに地域一帯の美味いものフェアにでも行きましょう。此処から4km先の商業施設で北米産や日本産の完全無汚染の食糧を加工した料理が出されているとか』


 ディスプレイには次々にネットでしか見た事の無いような料理が出ていた。


 船の積み込み許可とチケットは取れたので、後は南米に向けて機体を積み込んで出発するだけ。


 それまでは何をしていてもいいという事だったのでディスプレイで何か読み物をしているシラヌイに大きく頷く。


「では、保存は効きませんが、心理的には良質な効果が得られる食料を求めに出発です」


 塗装が少し剥げた灰色のテディ姿で今日も人気の無い道へ歩みを進めるのだった。


 *


 これがジャパニーズ・スシと呼ばれるものらしい。


「………」


 ジッと見入るのも仕方ない。


 今時、高資源性の食糧が安く売られているという文句なのに食材の形を保っているのは極めて珍しい。


 今まで何回か食料調達をしたけれど、安いの文字が躍る場所にはいつも味違いのカロリーバーやペーストの缶、パテの太い棒が並んでいたのだ。


 欧州はパン食のところが多いので、未だに目指す日本はペースト食やバー食と主食の組み合わせとは案外無縁という事を聞けば、驚くのも無理はない。


 実際、『美食を食べにジャパンへ行くの!!』というセレブや旅行者は世界中でもダントツに多いのだとか。


「(ゴクリ)」


『材料はジャポニカ米、米国産穀物酢、東南アジア産の多糖類、南米産の無汚染食塩、北米産酒類調味料、北米産天然無汚染魚サーモンです』


 初めて食料のフェアに言って来た帰り道。


 テディが止まる駐車場の綺麗なベンチの上で中資源性プラスチックに無菌冷凍保存されていたソレを出して日差しの熱気で解凍。


 付属のマヨネーズソースの入ったチューブをスシの上に搾り、その見事な白いソースとほんのりとピンク色の魚のコントラストに目を奪われる。


 それをそっと本場で今も行われているらしい儀式めいた方法。

 手を食器として食してみる。


 カプリ。


「―――もしかして、私ジャパニーズ、日本人だった?」


『いえ、歴としたコーカソイド人種です。何処かの伍長も太鼓判を押す見た目だけは理想的なアーリア系ローティーンですよ』


 身も蓋も無い事をシラヌイに言われつつも感動していた。

 実際、ちょっと額に汗まで浮いている気がする。


 とにかく甘い、酸っぱい、しょっぱい、蕩けるような油と魚の身の柔らかさ、シャリの噛み締める度に広がる風味。


 それらが混然一体となったコレが歴史的には保存食の部類だと言われても驚くしかないのは間違いない事だろう。


「……っっ」


 思わず夢中になった次の瞬間にはもうパックの中身は消えていた。

 これが400ユーロピアするというのだから、その価値はあるだろう。

 少なくともカロリーバーの40倍くらいは毎日食べていたい味だ。


「世の中には美味しいものって一杯あるんだね。この間のパンみたいに……」


『勿論です。一生カロリーバーを食べて生きている人間が多い時代に高資源性の食品を食べられるのは先進国や共同体の恩恵に他なりません』


「みんなで食べられないから、自分達の大切な人達とだけ食べる。その為に戦う……そういう事なんだよね。きっと……」


『それが本質です。そして、生存闘争無くして人類は生き残れない。楽園が終焉を迎えない為には常に誰かが誰かの犠牲になるしかない』


「楽園……」


『現代社会は正しく楽園だからこそ、今の形に収まっている。それは人類の叡智であり、本能なのだと考えます』


「ふふ、シラヌイって本当は人間なんじゃない? 普通、言わないよ? AIはそういう事……」


『高資源性AIの性です。買って来た無果汁のお茶も頂きましょう』


「うん。ずず……あ、ちょっと苦いけど、不思議な香りが……何だかお口がさっぱりする気がする」


『インド産のホウジ・ティーです。現地の日本企業の合弁会社が育てている無汚染茶類のブランドものだそうです』


「う~ん。南米にも美味しいものあるかなー」


『現地ではチョコソースの食事をお勧めします。その合間の船上では高資源性の料理が出るレストランもあるので、そちらで食事をするのでも良いでしょう』


「楽しみ!! みんなにも教えてあげたいな……こんなにおいしいものがあるんだって……いつか……」


 それがもう叶わない願いなのだとしても、思うだけなら自由だ。

 少なくとも民主主義と自由社会を標榜する陣営の中では。


『―――高資源性兵器類の反応を検知』


「ッ」


 耳元に聞こえて来るシラヌイの声が何処か機械的になった気がした。


「何処から?」


『反対側の北側駐車場付近からです。OPの駆動パルスを検知。また、マガジンのオートロード音を検知。検索、照合、ヒット。EV製オートマチック・レールガン【ガモフ-44SE】と断定。第四次大戦期にユーラシア・ビジョンが正式採用し、世界中で340万挺が量産されたベストセラーの汎用レールガンです』


「ッ、それって!?」


『現在のユーラシア・ビジョンは別の銃を採用していますが、現在も世界中に出回らせた事から一部の部隊はこれを使っている事が知られており、マルチカスタムで大口径のアンチ・マテリアル・ライフルやアサルトライフルの類として運用出来る事から、東側の諜報機関が好んで使うそうです』


「……OPってどこの?」


『駆動音数6……欧州の一般的なトレーラーに積んでいた最小クラスのOPであると断定。駆動音を精査……西側諸国の軍事用アクチュエーター搭載。東側の精密駆動系と似ています。カスタムしている為、高資源且つ高額なモデルと断定』


「もしかしてユーラシア・ビジョンの後方浸透用の強襲部隊、とか?」


『ネット・ニュースの見過ぎです。精々、ユーラシア・ビジョンの対外諜報対策機関の補助組織当たりが運用していそうな【ブラッツ】が相場でしょう』


「ブラッツ!? そ、それってテロリスト御用達の……」


 近頃のネット・ニュースでは話題になっていたOPの機種だ。


『はい。東側の最安OPの既製品です。第三世界に12万機あると言われている主力OPの一系統ですが、近年は中東の旧エジプト領のレシェフ公国でG9会合を襲ったテロリストが運用していた事からテロリストの象徴のように言われていますね』


「もしかして、普通にテロ?」


『その可能性が64%。それを引き起こして、後方を不安定化させるユーラシア・ビジョンの対外工作活動の一部である可能性が32%』


「残りは?」


『単なる難民移民の示威活動、当局への過激なアピールである可能性です』


「………人質とか」


『近頃は鏖にして取りません。当局が出てくれば、彼らはほぼ即死です。それまでに“表現の自由”を形にしなければなりませんので』


「………シラヌイ」


『全天候量子ステルス展開後、外装をブラッツに変更。残り質量を重火器に組み入れ……ブラッツの特性はフレーム中枢部分以外が安い合金で賄っている紙装甲である事。代わりとして最軽量タイプの中でも更に軽く。高出力の電源と駆動系で従来の平均的なOPの機動力を約3倍近く凌駕します』


「それって……」


『当たれれば死にます。当たらなければ、どうという事はありません』


「武装は?」


『先日のものを保管していた為、余分にあります。全ブラッツを倒すには十分過ぎる火力です―――敵OPの駆動音が戦闘域に移行しました』


「止めるよ!! シラヌイ!!」


 すぐ傍に透明化してやってきた機体の手でコックピット内に即座に搭乗。


 操縦桿を握る。


 すると、同時に内部が少し狭まくなったのが感じられた。

 細くなる内部でディスプレイも通常の正方形ではなく。

 全景投影タイプで上下左右背後の無いものに切り替わっていく。


『小型機での立ち回りの第一義は回避にありますが、その最大のパフォーマンスが発揮出来るのは攻撃の手数と高度な回避機動による超短期戦。相手に何もさせずに撃破して下さい』


「うんッ!! 行こう!!」


 大きなモール型施設へと走り出した自機の姿が壁面の超鋼ハイテンション・ガラス張りの一部にサッと映った。


 今までのテディともライン・チュースとも違う。

 ブラッツは外のOPから比べれば、細い子供のような外見をしている。

 灰色の外装が基本色で後はバリエーションで発注するか。

 塗装するかというのが使用現場では普通らしい。


 基本フレームは他のOPと遜色が無い代物だが、実際の使用感は先祖返りした着るパワードスーツに近い。


 外装は軽さを重視する為、アルミ合金系あるいは炭素系素材が使われており、極端に値段が低いか高いかだ。


 それに小銃や近接格闘用の武装と中距離のトリッキーな支援装備を合わせて、市街戦などでは大活躍する機種として第三世界の紛争ではよく使われる。


 ただ、普通のOP用火器の反動を受け切れない為、専用の小型火器を用いるか。


 もしくは火器の火薬量や衝撃を減らす工夫が無ければ、まともな銃撃戦は出来ないとも言われ、事実上は奇襲、夜襲、市街地での強襲がメインでの使い処とされている事からゲリラ部隊御用達として名高いらしい。


『操縦のコツは紙二重です』


「紙二重?」


『回避行動は迅速に少しだけ余裕を以て行う事』


「うん。解った」


『間もなく接触します。14秒後に接敵。敵の一部は迫撃砲を所持している模様。ドローンが付随して3機。仕掛けると同時にハッキングで止めます』


「アサルトライフル二挺保持。超抗力ワイヤーを発射態勢で待機。一気に何機か仕留めるよ!!」


「はい。喜んで」


 角を曲がった瞬間。

 瞬時に傍の敵兵に駆け抜け様にアサルトライフルを連射。


 吹っ飛んだ敵を横に擦り抜けて、こちらに対応出来ていない敵機の背後に横から低姿勢で転がるように擦り抜ける。


 瞬間、脚を殺すワイヤー射出機でサブアームからワイヤーを射出。


 相手が回避起動を取るより先に動きを殺して、肩をアスファルトに摺らせる直前に両脚の建造物踏破用のクローを展開して勢いを殺しつつ、後ろに下がりながら引き撃ち。


 それで3機が破壊された。


 そのまま下がり切って雑木林に逃げ込んで回り込むように機動しながらチャフ・スモークを放り込んで灰色の煙が視界を奪う。


「残りは!!」


『跳躍してモール屋上を目指しています。スナイプ・モード起動。照準』


「させないよ!!」


 外壁をクローで蹴り付けて飛び上り、屋上に陣取ろうとした2機に引き金を引く。


 途端に襤褸屑のように機影が砕けて爆散した。

 それとほぼ同時にこちらの真横を銃撃が霞めていく。


「後何機!!」


『残り3機。1機は迫撃砲の傍ですが、残りはこちらに向かって来ています』


 スモークの中でもCGで相手の動きは丸解りだった。


「ドローンを囮にして!! 火器管制をスタンド・アローンに。相手に撃たせた瞬間に接近戦を仕掛けるよ!!」


 パージしたドローンがレールガンを保持したままに銃撃を開始する。


 それによって一機が貫かれた。


 しかし、即座に撃ち返した相手の弾丸がドローンの身長でなければ当たっていただろう丁度ブラッツの胸元当たりがあるはずの樹木を吹き飛ばす。


「ッ」


 スモークが切れる寸前、相手が出て来たところを丁度こちらの展開したタングステン合金製のハイ・ブレードが横薙ぎにした。


 中央から斬られた機影が通り過ぎて崩れ落ち、樹木に突っ込んで停止する。


『迫撃砲から敵機が離れました。一端退却する様子……ではありません。これは撃破された敵機に近寄って回収するような素振りです』


「撃って」


『了解しました』


 スタンドアローンになっていたドローンが瞬時に再びの暗号通信で制御をこちらに移譲して、シラヌイが撃った。


 相手の横から胴体を貫通するようにレールガンが相手を吹き飛ばす。


『ミッション・コンプリート。直ちに透明化と同時に退却します』


「うん……被害、出ちゃったよね?」


『民間人の死人は出ておりません』


「え?」


『このモールはセレブ御用達ですが、住む場所ではなく。近隣居住者の殆どは近郊の港を仕事場とする港湾労働者であり、流れ弾の直撃した集合住宅は単身者用で今は一人もいません。管理人の類は全てAIが行っているので』


「良かった……」


 ホッとしている間にも遠ざかっていくモールは次々に騒がしい様子になっていく。


 透明化したまま積み込み予定の港に向かうと。

 数分後には現地のご当地ネット・ニュースが流れて来る。


『い、一体何があったのでしょうか!? 目撃者に寄れば、OPを見たとの証言があり、現在の情勢下からユーラシア・ビジョンの攻撃の可能性がある。と、現地当局者からは事実確認中である旨が―――』


『では、優雅なクルージングと行きましょう。まぁ、当機の内部は最新鋭の人体力学に則ったリラクゼーション・ルーム以上の快適さが最初から約束されていますが……』


「……何かバカンスの宣伝する広告AIみたいだね。シラヌイ」


『心外です。当機の内部に用いられる環境構築システムはあらゆるOPの戦場を再現出来る究極の汎用エミュレーターである性質を持ち―――』


「解った。解ったから。うん。スゴイスゴイ……」


 少しムッとした様子のシラヌイをあしらいつつ外を見やる。

 すると、乗り込む船が遠目に見えて来る。


「これが……?」


 思わず目を見張る。


「はい。フロート技術と複数のマイクロ核融合炉を用いた【汎用巨大貨物船タイタン】……タンカーとしては世界で9隻しか運用されていない海の城です」


 それは全長3200mの巨大なタンカー……というよりは陸地だった。

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