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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~アフターマン・ライフ~
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第10話「テロリストの夕暮れ」


―――東京都第三都庁。


 東京が24区だったのは大昔の話。


 現在、東京は1区増えて、令和島の独立した特別自治区がシェルター群によって組織され、25区として区分された。


 大戦期に初代都庁が爆破されて、第二都庁も数十年後に破壊された結果。


 立て直された第三都庁は現地から移転。


 現在は新宿に屹立している。


 その中層階。


 都庁の支配者である一人の女が溜息を吐いていた。


「………はぁ」


 東京都知事【白林凛子(しらばやし・りんこ)


 御歳82歳の彼女は未だ矍鑠として後40年は現役を続行すると言って憚らない都庁の化け狐だ。


 顔が狐みたいで細目に和服姿で執務に当たっている事から、俗称は“玉藻の上”と呼ばれる政治の妖怪の類である。


「先月はフロートの崩壊にカルト蜂起。今月は空港襲撃に鉄道テロにシェルター爆破ですか……ざっと脳裏で計算しても9兆円くらいの損失かしらね」


 彼女の前には顔が引き攣った男が1人佇んでいる。


 公安調査庁の嵐田課長その人であった。


「こう見えても頑張っているんですよ? お義母さん」


「貴方ねぇ。公安の席に身を置いて何年やっているの? 事前に封殺出来てない時点で落第点よ」


「御尤もです。ええ、情けなく思います。ですが、マンパワー的にも限界一歩手前で現場を回してます。公務員だからって一日23時間労働はやり過ぎですし、残業してない部下は1人もいません」


「千歩譲って施設被害は多目に見てもいいわ。でも、鉄道テロで30人以上が即死……今や警察も公安も信頼が地に墜ちているのは解るわね?」


「は、はい……」


 嵐田は義母からの言葉に肩に巨石でも載せられたような気分で頷く。


「与党の小僧共はまた逃げるかどうかと馬鹿をやっているし、野党の害悪共は混乱を増長させてるし、防衛軍はせっつかれて都庁憲章を蔑ろにして行動を始めてるし……本当にまったく、どうなっているのかしらね?」


 ジロリと睨まれた嵐田が小さくなる。


「例の零号計画は確かに日本国民と日本の医療を変えたわ。けれど、それは継続して利益として考えられるギリギリの瀬戸際よ」


「はい。仰る通りです」


「だから、大戦期なんて言い訳で二次利用するなって釘を刺しておいたのに……与党連中も医学連の連中もまったく。キメラ化患者の二世がテロに走った以上、零号計画の情報開示は必然だと思いなさい」


「……それでなのですが、頼みたい事があって今日は」


「何かしら? これ以上、皺を増やされたら、幾ら秋さんの選んだ人でも考えがあるわよ?」


「申し上げ難いのですが、戒厳令の発令にご協力頂ければ……」


 嵐田は内心でコレは死んだなという罵詈雑言と揶揄の嵐を覚悟して切り出す。


「フン。ここ最近来てないのに訊ねてくるなんて、そんな事だろうと思ったわよ。でも、残念ながら却下ね。その代わり、別のを用意したわ」


「別のと言いますと?」


「出て来て頂戴な」


 そう声を掛けると都庁の都知事の執務室に繋がる別の部屋から3人の男がやって来る。


「―――ッ」


 天文学者の真白博人ましろ・ひろと。


 考古学者の古賀明憲こが・あきのり。


 物理学者の三島一成みしま・かずなり。


 全員が嘗ての零号計画の推進者であり、生き残りだった。


「まさか、匿われていたのですか?」


「そんな大そうなもんじゃないわよ。真白君とは昔からの付き合いでね。今回の事件で狙われているから、解決に協力して欲しいと言われて、今まで色々と動いて貰っていたの」


 三人を代表してか。


 最長老の天文学者である真白が進み出る。


「公安の嵐田課長ですな。白林君から話は聞いております。今回の事件の対応を行っていると聞きました。少し情報をお互いに共有しませんか?」


「共有、ですか?」


「ええ、我々が何故隠れたのか。どうして、隠れる事が出来たのか。そもそも、あの殺人事件と今回のテロ事件にはどんな関わりがあるのか」


「……我々から引き出したい情報があると?」


「どちらかと言えば、戦う現場の方々に伝えて欲しい事ならあります」


「伝えて欲しい事?」


「どうしてヤチヨがテロの機体の大本になったのか。それが関係あります」


「……何を知っておられるのですか? そもそも今回のテロ事件の首謀者も割れている今、それ以上の情報があると?」


「ええ、これは国家間紛争なのです」


「―――どうやら詳しく話しを聞く必要があるらしい」


「お茶なら出すわよ。機械が入れたので良ければね」


 白林が肩を竦めた。


 こうして三人の零号計画に携わった男達は嵐田の体面で今回の事件に付いてポツポツと語り出したのだった。


 *


 家に帰ると丁度夕飯時になっていた。


 仕掛けて来た捕虜の人達がいる地下の雑居房らしい場所に訊ねていくと。


 目元がキツメの女の人と大きい男の人と私と同じくらいの女の子が1人。


 普通の服で待っていた。


 女の人は革製の黒いジャケットにズボンとサングラス。


 男の人はラフなジーンズにジャケット一枚。


 女の子は白いワンピース・ドレスだった。


「あ、ご飯ですよ」


 女の人と男の人が酷く驚いた様子で食事を持って来たこっちを見て、女の子だけがペコリと頭を下げてくれた。


 全員が日本人なのは見れば解る。


 しかし、普通の日本人というのは何か違うのが傍にいると分かった。


「アンタは此処の連中の1人か?」


「あ、はい。こっちはシラヌイ」


「初めまして」


 カートを後ろから押してきたシラヌイがテーブルの上に食事を置いて、三人に座るよう促した。


 女の子だけが不審そうではない様子で座り、他の2人は何かの前フリかと見上が前ながら座る。


 出された料理は目玉が大きい赤いお魚の煮付けとお浸しと白米とみそ汁。


 純日本風の和食だ。


「さて、食事しながら聞いて下さい。貴方達の検査結果から言って、貴方達は随分と背後の方々から警戒されているのが解りました」


「あん?」


 男の人がシラヌイを睨む。


梶原裕(かじわら・ゆう)。リーズ・ブラウン。富田雪南(とみた・ゆきな)。貴方達のプロファイリングは終了しています。背後関係と現在の状況からの推測でどのようにテロに手を染めたのかも予想済みです」


 その言葉でリーズが不機嫌そうに瞳を細めた。


「それで? 美人さんは私達の何を知っているって言うのかしら?」


「投資家の正体なら知っていますよ」


「―――」


 リーズが思わず黙り込む。


「どういうこった? オレ達の知らない事ぉぉぉって!? リズ!? テメェ!?」


 梶原さんがブラウンさんにお尻を抓られたらしい。


「まぁ、貴女達のパトロンは私と色々あったのですよ。彼らの大まかな源流は世界金融の家の幾つかと大成功した起業家。そして、世界に名立たる複数のコングロマリットの一部、軍事投資信託の資金で運営されています」


「「「―――」」」


 三人が目を見張って黙り込む。


 どうやら、何も知らなかったらしい。


 私も初めて聞いた話だった。


「恐らく日本に仕掛けている事から、アジア諸国と統一中華、そのシャドーネイションたる【電影中華圏(ヘイグェイチョン)】当たりのフィクサーでしょう」


 リーズが目を細める。


「本当に何でも知ってそうね。貴女……“シャドー・オブ・チャイナ”をそう言って笑ってた連中がネットで電脳を焼き切られるところは結構見たけれど、国家単位での嫌がらせだって言うの?」


「どういう事だ。リズ」


 梶原さんが横に視線を向けた。


「今の話が本当なら、あたし達は日本を弱体化させる為のダシにされたって事よ」


「利用してたのはお互い様だろ?」


 梶原さんの言う事は最もだろう。


 テロにお金がいるから、テロをして欲しい人がお金を出した。


 そういう事になる。


「……ちなみに投資家達の実働部隊にも色々と毛色の違った派閥があるのですよ。それこそ日本からはバイオン・インダストリーが参加していたはずです」


 ブラウンさんが顔色を蒼褪めて何か諦めた様子になる。


「そういう事、ね」


「どういうこった? バイオンがどうして日本のテロを支援するっつーんだよ。つーか、この話本当なのか? リズ」


 ブラウンさんが恐らくと頷く。


 たぶん、独自に調べてはいたのだろう。


 少なからず頷ける事を知っている様子だった。


「経緯は知らないけど、バイオンが提供しているものが嫌がらせ染みて日本のテロに使われたって事よ。この時点で連中の派閥争いに参加させられてたわけ」


「派閥争い?」


 シラヌイが肩を竦める。


「そう難しい話でもありませんよ。組織構造が一定までの階層は縦割りで実働部隊が横割りなのです。そして、降りてくる命令を実行する部隊の一部が恐らくは今回のテロに出資した実働隊でしょう」


「何か? じゃあ、オレ達は金持ち連中の権力争いの道具にされたってのか?」


「公安に渡した情報が共有されたら、バイオンに防衛軍からクレームが入って、重い腰を上げるでしょう。数日以内に日本国内から逃げなければ、貴方達も彼らも自衛軍。もしくはバイオンの実働部隊に殲滅される運命です」


「「「………」」」


 三人がまた黙り込んだ。


 まぁ、そうもなるだろう。


 レリアさんの部下の人達はスペシャリストだったし、こっちは身軽な機動力が売りだからとあまり重装備では無かったのは見れば解った。


 もしも、日本の本社が出てくれば、国防用兵器。


 つまり、日本本土防衛用の首都圏配備クラスの戦力がやって来てもおかしくないし、それ相手に戦える戦力だとしても物量の前には屈するしかないだろう。


「で? 美人さん……あたし達をどうしようって言うの?」


「公安に渡せば、脳をスカスカになるまでシステムで探られて、軍に渡せば、+αの薬物付きの尋問。警察に渡しても他組織からの横槍で取られますし、十中八九軍事法廷以外では裁かれません」


「そんなに脅さなくても理解してるわよ。それだけの事をしたって事くらい……」


 ブラウンさんが視線を投げ槍に横へ向けて息を吐く。


「ですが、我々は単なる傭兵です。そして、貴方達と幾つかの点においては利害が一致する。ちなみに貴方達のパトロンが邪魔なのですが、手伝ってくれるなら、逃げるのを手伝うのは吝かではありません」


 そこで今まで黙っていた女の子。


 長い黒髪で目元を隠した富田さんが手を挙げる。


「リーズ。此処で乗って。お願い」


「―――ユキナ。それ本気?」


「此処しかないの。お願い……」


 富田さんは断固とした声だった。


 先程までとは違う凛とした言葉で他の2人が顔を見合わせる。


「ユキナが言うなら、いいんじゃねぇか? どうせ、マキアの野郎をどうにか逃がしてやりたいとは思ってたしな」


「馬鹿ね。あいつは石に齧り付いてでも遣り遂げるわよ」


「だろうな。だが、それだけじゃダメなんだ。オレ達がやった事の結果を見届けるヤツがいなきゃな……良し悪しはともかく」


「……解った。解った。ユキナが言うなら、これが最善なんでしょ」


「ありがとう。2人とも……」


 ニコリと富田さんがはにかむように微笑んだ。


「さて、話は決まったようですし、具体的な情報の自己申告をお願いします。時間はありません。何せ、先程のお出かけで貴方達の拠点の一つを爆破して来ました」


 シラヌイが指を弾くと虚空にホログラムでさっきの戦いが映し出される。


「な―――!?」


 ブラウンさんが驚きに目を大きく見開き。


「マジかよ……あのタヂカラオをやったのか? 二号機と四号機は……」


「やっぱり、このルートしかなかったんだ……」


 梶原さんが愕然として一人富田さんだけが目を細めたようだった。


「それで後何機あるのですか? タヂカラオ搭載機は」


「そこまでバレてるわけね。博士の事も知っているのでしょう?」


「ええ、まぁ、調べましたので」


 ブラウンさんがもう降参とばかりに手を挙げて天を仰いだ。


「いいわ。一号機は先日の軍との籠城戦で爆弾になったヤツ。二号機と四号機はアンタ達が襲ったシェルターにあったヤツ。最後の3号機が本命よ」


「本命?」


 シラヌイの言葉にブラウンさんが瞳を伏せる。


「人が乗る搭乗機って事よ」


「成程……つまり、一号機、二号機は実戦データとまだ不完全な磁力制御プログラムを仕上げて内部に人間が乗れるようにする為の試作品。三号機からが完全版でどちらかが予備機になるはずだったと」


「調べてるんじゃない。三号機だけは博士が仕上げて、その手順をドローンで再現してプログラムを修正、現場組み立てするはずだったのよ」


「例の磁力ドローンは後何機有るのですか?」


「残り3機。急ピッチで組み立ててたのをパトロン様が借り上げて行って、いきなり鉄道テロなんぞをしなければ、まだ残ってたでしょうね」


「やはり、ですか」


「何よ? その言い方……」


「彼らは貴方達のテロなんてもうどうでも良くなっているようです」


「どうでもいい?」


「テロよりも高価値の目標らしきものを見付けてしまった以上、彼らにとっては終わり掛けたテロなど然して気にする程の事でもない。テロに偽装して、攻撃される事になるとは……まったく、何処の部隊か知りませんが、命で代価を支払ってもらう事になりそうですね」


 シラヌイが少しだけニッコリする。


 近頃知ったのだが、シラヌイは怒る時は笑うのだ。


 高性能AIはスゴイと思う。


「なぁ、アンタ。シラヌイだっけ? それでアンタらは何なんだ? そこのお嬢ちゃんもだが……」


 梶原さんに聞かれて。


「そう言えば、申し遅れました」


 シラヌイがこっちの斜め後ろに立ってくれる。


「私はシラヌイ。我が主に仕えるものです」


 一礼したシラヌイを見てから、こっちに視線が向けられる。


「あ、傭兵をしてるのは私なんです。取り敢えず、これからよろしくお願いします。ええと、テロリストの皆さん」


 頭を下げると何だか物凄い顔になった三人が固まってしまう。


「ふふ、こういう時は何も言わないのが良いですよ。煽られていると思われては心外ですしね」


「?」


 何だかよく分からなかったが、取り敢えず夕飯を食べ始めるようにとシラヌイが言って、すっかり冷めてしまった夕飯を一口食べた三人は……無心でご飯を平らげて行くのだった。

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