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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~アフターマン・ライフ~
39/41

第9話「炎獄」


 東京の鉄道が無差別テロに巻き込まれた事は日本の平和の崩壊と言われていた。


 何処のネットニュースでも第六次大戦はもう目の前であると今まで防衛費削減を推進してきた政府への不満ばかりが吐き出されている。


 だが、問題なのは―――。


「やはり、見付からない。情報を隠蔽しているのではありませんね。これは……」


「どういう事?」


「隠蔽というのは隠れているという事です。ですが、彼らは恐らく隠れていない。このネット社会の最中で見事なものです」


 東京都内を廻る各私鉄の周囲を奔りながら、どうやらシラヌイは相手の居場所を見付けようとしていたらしかった。


 トレーラーは今もあちこちの電気スタンドで電力を補給しながら走り続けていた。


「隠れてない?」


「木を隠すなら森の中。今はその森の樹木一本にすらタグが張られて、死角が出来ないように監視カメラが周囲を観察している」


「ふむふむ」


「今では行動心理学を用いたあらゆる意味での監視によって、潜在的な犯罪率すらも割り出せる時代です。ですが、彼らは明らかに犯罪を犯しているにも関わらず。平然と東京内部を行き来していると思われます」


「裏道を使ってる?」


「いいえ、恐らくですが、それすら必要無い。磁力ドローンの解析結果から色々と確認していたのですが、まったく新しい技術です。これを―――」


 シラヌイが大量の映像を周囲に投影して、三人組の人達を映し出す。


 大柄な女性。


 小さな男性。


 90代の御老人。


「先程、ビルに襲撃がありました。その時に襲って来た人物達と思われる映像ですが、本来の姿はこちらです」


 三人の画像の横にシラヌイが作成したらしい画像が映し出される。


 さっき、レジアからドローンの防衛圏内で襲撃者を捕縛したという話だったのだが、その三人の若い顔が画像の横に矢印付きで並べられる。


「大柄な男性、小柄な女性、女の子? これって……」


「質量は誤魔化せませんが、人間さえ違ってしまえば、移動は出来る。不法な装備はドローンにでも運ばせればいいわけですし、これは……現代の変装の域を超えていますね」


「これって骨格から歩き方まで別人みたいだけど……」


「磁力の精密操作によるキグルミみたいなものでしょう」


「キグルミ?」


「それも厚さ3mmくらいの……」


「それって……」


「現代の磁力検知システムでも、端末が発する程度の微弱な代物では感知しようがない。こういう事です」


 シラヌイが確保した三人が持っていた小型のペンダントらしいものを画像で出してくれた。


 円筒形のソレから大柄な若い男性の周囲に砂のようなものが零れて、ソレがすぐに肌へ吸い付くようにして吸着されると服装の色やら肌の質感やら瞳から髪から何でもかんでも変化していく。


「磁力の精密制御で生態細胞に擬態させる金属と有機細胞の混合物。体積を減らす事は出来ませんが、上に被せる形で自然に変装出来るようです」


「この変装……スゴイけど、今までもこういうの無かったっけ?」


「光学系の光学偏向技術による変装やどうしても体がぶ厚くなるメイク系の変装は今も存在していますが、かなりバレる確率が高かったですね」


「だよね。今は変装って警察関係のシステムですぐにバレるってネットで言ってたよ。バレ難いのはサイバネを使ってる人だって」


「ええ、変装で同型のものを使えば、かなり誤魔化せますから。その点もあってサイバネが基本的には規制されたというのもあります」


「そうなんだ……」


「ですが、これはそれと同等の事を簡単に可能とする代物です。恐らく行動心理学の類では検知出来ない程に肉体の行動を縛ります」


「行動を? それってサイバネのプログラム制御式の擬態と同じような?」


「ええ、内部の人間に癖や些細な仕草、行動を強制する形で別人のように振舞える。癖や瞬き、表情、諸々を表現し切れるならば、機械は中身を見抜けない」


「それって……」


「今のところは監視カメラに引っ掛からない変装技術です。体系が極端な人間に化けるのでもなければ、平均して同じような人物には思いのままに変化出来る」


「なるほど。身長も2cmくらいの誤差なら行ける?」


「イケます。この情報を元に三人の道行きをトレースします……」


 次々に体格的に同じような別人が大量に出て来た。


 監視カメラの映像がマップで繋ぎ合わせられ、行動範囲の予測と導線が出来上がっていく。


「丸の内線周囲から池袋、新宿、霞が関までいますね。例の爆弾を仕掛けた地域の監視カメラの映像を洗い出せば、更に行動を特定出来るのでしょうが、今は時間が惜しいのでアジトの検出のみを……」


 マップの一点に紅いマークが付いた。


「予測結果としては令和島のフロート近辺。世界最大の埋め立て地とテラ・フロートを用いた東京湾中央の集合団地……通称【東京雅獄】周辺です」


「それって……」


 旅行サイトでは日本に言ったら一度は行くべきと言われる地域だ。


 沿岸部に広がる外人スラムが世界的に見ても治安の良いスラムと言われるのとは対照的に日本で一番問題の多い地域と言われる外国人居住地が其処だ。


 戦時下で日本各地で喰い詰めた人々を国内で保護する為に汚染地域からの大量移住を実施した上で合法移民、合法難民の中でも技能者などの手に職がある人々を大量受け入れる場所として整備された東京の第三の心臓部。


「まさか、此処をもう一度訪れる事になるとは前任者も驚きでしょうね」


 呟いたシラヌイが映像を出してくれる。


 東京湾のど真ん中に拡大された巨大な埋め立て地の土砂はほぼ全て日本各地の汚染度だ。


 放射能汚染された土砂を東京湾の17%を埋め立てる土砂として用いて、その上に安全な値になるまで盛り土をして地盤を最新の技術で固め続けたと言われる其処は大戦期の人類の罪を埋め立てているかのようだと称されたとか。


「おっきぃ……」


 そうとしか言えなかった。


 高層ビル群が広がるわけではない。


 上から菱形に見える大型総合団地の群れは半地下を備える地下5階、地上5階の計10階建ての代物だ。


 その全てが沿岸部から繋がる巨大なフロート・システムの縛游綱と呼ばれる耐震耐波用の巨大な連結通路で東京湾内部で固定化されている。


 これに組み込まれた構造物は沈下する地盤の上でもかなり耐える事が出来るし、沈下した分の土砂は毎年隙間に汚染度を流し込み続ける事で問題なく対処しているというのだから、さすが先進技術大国と言われて久しい。


 最大の特徴は完全なシェルター団地として日本で初めて作られた代物である事。


 内部構造は複雑でこそないが、団地一つ分の構造物の広さは凡そ半径250mでソレが凡そ40個以上、亀の甲羅のように連なっている。


「嘗て、分裂前の大陸では九龍城と呼ばれる場所があったと言われていますが、此処はそれを遥かに超える規模であり、大陸からは蓬来山とも呼ばれています」


「ホウライ=サン?」


「ええ、まるで亀の城のようだとも」


 言われてみれば、確かにそうも見えるそうかもしれない。


 この建材の全てが元々はテラ・クローザーによる東京の閉鎖都市化の為に作られたと言われているが、日本はこれを東京の改造に使わず。


 シェルターを完全な地下埋設をしないものとして地表に幅広く収容人数が出来るだけ取れるようにと造った。


 それが合法移民、合法難民、日本国内の戦争被害者などの居住地として使われたのである。


 今ではカラフルな模様で塗られるようになったシェルターは空から見える名物と言われ、シェルター街の多くは東京の港湾労働者の9割が住まう場所となっている。


「でも、お城みたいに大きいから問題も多いんだよね?」


「ええ、日本政府は正式には認めていませんが、自治意識が強い地域となっており、日本の法律は通じても常識が通じない場合があります」


「常識が……」


「各地の団地に国毎に集められた人々の多くが独自の社会を形成しており、日本にいて尚、外国のように見えるのだとか」


「でも、海外の祖国の人からは団地の人達って日本人て言われるんでしょ?」


「ええ、この100年近くで独自に発展した為、日系○○人の逆。○○系日本人とアメリカみたいに呼ばれていますね」


 この団地内の子供達の間で嘗ての祖国の言語習得率が過去最低を記録しているというニュースが画面に出る。


「実際、メンタリティは祖国と掛け離れてしまっていて、当時から現地は第一次大戦期のドイツやオーストリアみたいだと揶揄されていました」


 よく分からなかったが、人種が多いという事なのかもしれない。


「公教育と公共語は全て日本式で日本語というのは譲られなかったので、事実上は顔と幾分か文化の違う日本人というのが現地人に対する日本人の本音です。関東圏、関西圏みたいな感じで雅獄圏なんて呼ばれていますね」


「ネットの『スラムにしては雅過ぎる。でも、普通の街にしては地獄過ぎる』って言葉から来てるんだよね?」


「はい。その通り。だから、ミヤビなジゴクで【雅獄(がごく)】……東京雅獄なのです」


 パチパチとシラヌイが拍手した。


「貸した本は読まれたようで」


「うん。東京観光の本にも東京にいながら、世界各地の失われた国や人種の文化が残る場所として一度は行って見るべきって書かれてたから」


「まぁ、そのせいで地獄なのですがね……」


「どういう事?」


「ツアーサイトに書かれていない事実は二つ。限定核戦争で国土が崩壊した小国の国家元首や王族、その他の支配者階級を祖先とする人々が地域では顔役をしているのですよ。あくまで帰化した日本人が祖先の日本人として、ですが」


「それが地獄なの?」


「日本の法律には従っていますが、国外独自の社会的な契約や関係性は形を変えつつも生き残っているのです」


「形を変えて?」


 情報が次々に出てくる。


 児童婚のあった場所からの移住者ならば、幼い頃から許嫁が決まっている事が多かったりするらしい。


 他にも家父長制が強かった場所では今の日本でも見ないような権力を一族の長が握っていたり、重婚出来た国の人々ならば、法律的にはともかく事実上の重婚生活をしている人々がいるとか。


 王侯貴族と騎士のような主従文化が当主と付き人のようなものとして残っていたり、文化習俗が色々と形を変えて溶け込んでいる様子は多種多様だった。


 あくまで日本国内の法律に掛からないように形を変えているが、かなり法的にはグレーな部分があるように見られる。


「なるほど……」


「そして、そのせいで他国の文化が狭い雅獄圏内部で激突して、差別だ法律だ商業的な競争だといがみ合う人々が大量に出て、日本人やお客さんに手を出さないという暗黙のルールの下で抗争が粗製乱造されていたのが100年以上前の話」


「今は?」


「非合法活動も含めて、大分日本人に同化されて大人しくなりましたね。主に文化圏の過激派が国外難民キャンプに追放されたせいで」


「だよね。日本はそうするって名言してるし」


「今では日本文化に毒され過ぎている!! と、主張する日本由来の文化にどっぷり浸かっている大人達がほぼ日本人メンタルの子供達に説教をする始末ですよ」


「……何か平和だね」


「ええ、平和です。前任者が日本を出た頃はまだ連日入って来る合法難民や合法移民の衝突で機動隊がよく現地の諍いを仲裁していたものです」


「仲裁?」


「ええ、日本は鎮圧した事が殆どないはずですよ。他の文化圏の横暴に対してデモはしても略奪はしないとか。労働交渉でストはしてもちゃんと妥協するとか。彼らは妙に物分かりが良かったのです」


「へぇ~~」


「それは彼らが祖国でそれなりの教養と裕福さを得ていたからこそのものだったのでしょうね。民度や倫理、道徳的な面で受け入れ可能な人員のみを日本が制限して受け入れた事は事実上は最善の選択肢だった」


「あ、中に入った」


 喋っている間にも各文化圏のシェルターの合間を縫うように奔る道路から一つの圏域内部に入った。


 小型核融合炉によるスタンドアロンタイプとして完結したシェルターは東京に核が降って来る際には1300年耐久する事が出来るとされる。


 内部構造は大量の薄い耐放射線用建材を用いる事で外界からの干渉をシャットダウンする対ABC兵器能力を持ち。


 中心にある中央環状通路が6角形状に区画の中心から枝葉を伸ばすように各ブロックへと広がっている。


 1シェルターの人数は凡そ15万人。


 中小規模の市に該当しており、空きが無くなって久しい。


 道路脇にはズラリと商業用店舗が乱立しており、シェルターの補修部品生産工場やシェルター内部で産出される野菜や果物、湾岸部ならではの海産物、シェルター内の独立した工業ラインを用いた工業製品、更に日本企業の支店などが揃っていて、買い物にはまったく困らない。


 採光は完全密封式の為に全て自然光を再現した光波を光ファイバーなどで隅々まで広げており、屋内でありながら、道端の上には本来見えない空がディスプレイによって広がる景色がある。


 全体的にシェルターというよりは超大規模化した商店街やモールみたいに見える。


「明るいね。シラヌイ」


「ええ、中南米や米国では節電対策で常に夜な場所が多いですから」


「そういうところだと日光浴ってお金がいるんだっけ?」


「環境浴はテラ・クローザー系列の都市の住人達にとっては健康の為の必須事項です。陽射しを浴びないと人間は生きていけない生物なので」


 その点だと日本の雅獄は恵まれているだろう。


「此処は何処の文化圏?」


「G9の一つであるドイツですね。この令和島の1号シェルターです。主に屋内精肉産業とジャガイモの生産、更にドイツのゲッター社を筆頭にした精密工業で栄えており、日本とのOEM契約で兵器工廠があったりします」


「G9のやつはやっぱりあるの?」


「まぁ、もしもの時には民族保存の為にこちらが本国になるらしいです。アメリカ、カナダ、ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、インド、オーストラリアの8ヶ国が最優先で受け入れ。その後、親日系のブラジルや滅びた旧ソ連系の内陸国や欧州国家、南米国家、アフリカ諸国が続きます」


「それで40ヶ国……」


「此処に来れる合法難民や合法移民の多くは外人スラムの人々とは違って技能職であり、倫理や道徳的な面でも優れていると認められた人々。言わば、当時の難民移民のサラブレット、中間層より上の者達ばかりだったのです」


「だから、スラムにしては雅過ぎる、なんだ」


「ネットで言うところの日本国○○村みたいなものです」


「ああ、そう言えば、言われてたような……」


「今も第44シェルターが島の端に建築中で外縁部の埋め立てが行われており、漁業者は良い顔をしませんが、船と電気代を国が無料負担しているので黙っている感じですね」


「ふ~~ん」


「ちなみにシェルター加入条件はかなり厳しいです」


 シラヌイが大量の条件なのだろう書類を並べる。


 宗教文化面での日本への帰属と悪癖や悪習の排除。


 倫理や道徳面での精神鑑定で優以上の評価を取る事。


 持っている資金は左程重視されないが、技能者として一生シェルター住まいで8世代目までは居住権の自由がない。


 また、出産制限、シェルター内での自治会の発足への参加、個人単位での就業従事カリキュラムの提出は当時必須だったらしく。


 日本国籍の取得と二重国籍の排除も行われた。


 教育面では全て日本式の18歳までの公教育、私教育は家庭内教育と日本が認めた祖国の歴史教育のみのようだ。


「かなり、管理されてるんだ?」


「ええ、だからこそ、最も東京で彼らがいる可能性が高い。一番在り得ない場所にいるというのはいつの時代も盲点ですね」


「見付けた?」


「いえ、ですが、現在開発中の第44シェルターではなく。現在入居国選定中の第43シェルター内部は完全に怪しいです」


「人が作り終えて誰も入ってないから?」


「ええ、まだ内装工事も済んでおらず。入居国が選定し終わるまで2年程掛る事から、それまでならば、好き放題の可能性が高く」


「じゃあ、行ってみよっか」


「そうしましょう」


 シラヌイと共に埋め立て地の南東を目指して進む。


 通り過ぎる最中にも各国の味があると表現するべきなのだろうシェルター内を通過しているとペイントや飾り付け、店先の印象は千差万別だった。


 殆どの人々の顔は明るいが、第六次大戦中という事もあり、何処か緊張感が周囲にはひっそりと漂っている気がする。


「……中小国のシェルターでも15万人満杯になってるの?」


「人が多く為って来たら8世代目以降は日本人として内陸の方に移住許可を出し、本国がまだある場合は国外の同国人を優先して入居させているようです。ただし、内陸部の方に転居した日本人にはかなり生活的には有利な法制度があるので問題にはなっていません」


「この100年で増えた人達がシェルターに入り切らなくなったからって事?」


「はい。まだ8世代に到達していない場合も転居が認められますが、新世代の新生児に対して出生率低下用の薬剤が投与される事が法律で定められており、人種間の人口バランスを崩したペナルティが課される為、上手く調整しているようです」


「マリアさんの国と同じなんだ」


「何処でも移民難民への処置は大抵人口増加による民主主義の乗っ取りを拒否する為の法律が定められているというだけです。ちなみにこの大切な約束を守る気が無い国などは過去に人口比で20%を国外の東南アジアにある難民キャンプに強制退去させられ、事実上日本人かが捗るという事件も起こりました」


「そこまでするんだ」


「その際に優良人材以外をふるいに掛けて今では人口増加率も適正化されているとか」


 そうしてシラヌイと話し込んでいると令和島の未だ拡張されている場所が見えて来ていた。


「おお、でっかい作業車や運搬車が一杯……」


 投入される汚染度の殆どは令和島の工場で溶け出さないように処理されてから巨大なレッカー車のような10mくらいある大型牽引車で引かれ、工事現場で上から投下、一日で3mずつ海底が陸地へと変化しているのだとか。


「こんなに工事早いんだね」


「まぁ、地盤沈下を込みで汚染土ブロックを積み上げつつ、その隙間に遺伝子改造した地盤強化と淡水化、薬物浄化用の藻を放り込んでいるので実際に使えるのは10年単位の後なんですが……」


 確かに巨大な10m四方のブロックが次々に沿岸部で投下されるのを横目に普通の地面にあると思われる場所では巨大な緑色の固形物らしきものがタワー状に積み重なった場所があり、次々に嵩を減らしていた。


 恐らくは粉砕されて地下へとポンプで送り込まれているのだろう。


「あの藻は深海の噴出口などで見つかった微生物を改良して入れ込んだ代物で地下水から塩分を抜きつつ、土と混ざる事で溶け出す事を防ぐ協力なジェルを産出するのです」


「大事なの?」


「はい。汚染された海水内の有機物や薬物を分解して寿命を終えると土の中で固まって地盤を固める性質もあるので」


 工事現場を遠方から見つつ進んでいくと人気の無いシェルターに差し掛かった。


 外側からシーリングされていて、一見して入る事が出来なさそうに見える。


「入口を発見。全天候量子ステルスを効かせて、強行突入します。トレーラーから脱出後、内部のシステムをジャック。敵の現在地を割り出しつつ、敵の資材及び施設を破壊。機体以外の全て、敵後方支援能力を奪い去ります」


「後方を焼いて、相手の行動を制限するんだよね?」


「はい。相手が環境で戦闘能力を上下させる為、後方からの支援を断った上で敵主力を孤立化。一気呵成に撃滅します」


「うん。それでいいと思う。でも、気を付けて……あの樹木みたいなものがいたって事は……」


「あちらも生物兵器類を持っている可能性がある。ですが、それはこちらも同じ事です。背部バックパックにマヲンに作らせた特殊な薬品を貯蔵してあります。大抵の生物兵器なら、恐らく殺せるか無力化可能でしょう」


「じゃあ、行くよ。シラヌイ」


「はい」


「レジア。バックアップよろしくね」


『りょーかーい。ドローンの配備は完了してる。超望遠狙撃用が3機、一時退避用の超電導ドローンが3機、武装運搬用のドローンが3機、伏兵用が3機、合計12機がズラーリだ。ただ、今でもハックされてるんだが、相手がどうにもAIに切り替えた臭い。そっちに本命のハッキング仕掛けてくるかも』


「良い仕事です。ならば、こちらも攻勢防壁とAIに任せて、ジャックと同時に敵後方支援システムへの侵入を試みて下さい」


『了解。あん? 何だ? 捕虜共が何か喋ってんな。ええと……『インベスターに気を付けて下さい』だそうだ。投資家? 何の話だ?』


「……ふむ。また根が深そうですね。彼らに居場所を知られているとなると……後で潰しておきましょう」


「シラヌイ?」


「後にしましょう。テロの背後にはどうやら【Dead-bed】を知る者達の暗躍があるようです。今は戦闘に集中を」


「わ、解った。頑張る!!」


「よろしい。では、突入開始」


 シラヌイがトレーラーをシェルターの壁に追突させるように突っ込ませる。


 本来ならば、ビクともしないはずでトレーラーが大破するだけだが、壁が擦り抜けると同時に小さな破砕音が響く。


 思わず目を見張った。


 入り口は入り口ではなく。


 壁は壁では無かった。


「出入り口を例の変装用のシステムを大規模化した代物で偽装していたのですよ。ドローンの業務点検はハッキングで隠蔽したのでしょう」


 トレーラーが突っ込んで猛烈な速度で内部を進む。


 灯りは一切無かったが、トレーラーの各所からしがみ付いていたドローンが一斉に散開して、敵のシステムにハックするべく。


 有線でジャックイン出来る場所を探して消えていく。


 数秒後。


「接続完了。敵は混乱しています。システムハック開始……ふふふ、無駄です。幾ら処理能力があろうともシステムに直結しているドローンを取り払わねば、回線は切断出来ない」


 ポータルを幾つか確保したとのドローンの報告。


 相手が電子戦で接続部を焼き切ろうとしているようだが、シラヌイ相手で手こずっているようだ。


「見えて来ました。敵の情報システムは地下です。通路を開いて地下への進入路を開口。来ますよ」


 中央環状線のある中心地点に入ると幾つか道の下に潜る通路がせり上がって来ていた。


 だが、その内部から猛烈な速度で黒い粒子が噴出してくる。


「ハッチ開放。ナパーム掃射!!」


 トレーラーが開くと同時に全方位にトレーラーに積んであったナパーム弾を大量にブチかます。


 両手に持ったランチャーを引きっ放しにした。


 飛び出した弾体が霧の周囲で起爆する。


 ナノ・テルミッド弾による超高温が周辺から噴き出した磁力に操られる金属細粉を猛烈に熱してグズグズに地表へと落していく。


「まだまだありますよ!!」


 背後のサブアームで更にランチャーを増加させる。


 吹き出し続ける黒い嵐が炎と鬩ぎ合いながら地表へと溶解して溶け落ちる様は炎のカーテンが垂れてくるかのようだ。


 そんな炎のリングと化した環状線内部に飛び出してくる機体がある。


「やはり、ヤチヨのパーツでフルスクラッチした代物ですか」


 日本の最新鋭機には程遠い霧に包まれていない機体が見えた。


 肉体のあちこちに大きなブロック状のパーツを付けられていて、機敏に動いて反射的な行動を取れるような機体には見えない。


 しかも、装甲化されていないシステムを無理やりに機体へ組み込んだような不自然に着ぶくれた様子は人型の機体を大きな箱が幾つも操っているかのようにすら見える。


「容赦は要りません」


 ランチャーのが次々に敵機に向けてナノ・テルミット弾の雨を降らせ。


 敵機がそれを抑え込むように黒い霧を集中させて防ぐものの。


 集中させれば、高熱が伝わって霧が融けてしまう為、すぐに距離を取っての攻撃に切り替えた。


 巨大なランス状の円錐が次々に虚空で形成されて、合金化したような光沢のままに射出される。


 だが、こちらの両手の甲が光った刹那。


 猛烈な熱量でランスが次々に溶けて落ちていく。


「こちらのレーザーの収束地点の熱量は摂氏16000℃オーバーです。超重元素入りとはいえ、焦点を絞らずに放射すれば、大抵のものは溶かせますよ」


 機体の周囲温度は実際もう1300℃を超えている。


 だが、この熱量が必要なのだ。


 でなければ、莫大な黒い霧の猛攻で機体を粉々にされてしまう。


「相手としては自分の得意なフィールドで戦っていたつもりなのでしょうが、甘いですね。密閉空間内では気温を下げるのに時間が掛かる。で、ある以上は相手の攻防用の霧の残量が復活しない限り、防御力も攻撃力もガタ落ちです!!」


 シラヌイがニヤリとした。


 遂に炎の中に霧が僅かしか見えなくなった。


 機体表面温度はこちらが耐久力で3000℃までなら何とか耐えるにしても、専用の装備が無ければ、相手の機内はもう蒸し焼きだろう。


 しかし、相手は動く。


 オーバーヒート寸前の機体が霧の磁力操作を諦めてか。


 瞬時に浮いたかと思うと天井を割り砕くかのように破壊。


 外へと飛び出していく。


 それをシラヌイと共に追う。


 だが、相手が突き破った天井の先。


 上空で追い付いた瞬間。


 遠方からの狙撃が、超磁力弾が、あのバーバーヤーガのシステムさえも一瞬無効にした磁力を消失させる一撃が合計20発近く直接至近弾で爆発。


 全身を覆っていたボックス型の装備の幾つかを砕き破壊した。


 だが、さすがにしぶとい。


 敵の磁力がまだ勝っていたのか。


 あるいは完全に磁力を消し去れなかったのか。直撃弾を喰らいながらも相手の四肢は健在で地表に着地して影へ瞬時に隠れ、追ったこちらに向けて磁力収束で周辺の破片が次々に高速射出される。


「ふ……」


 シラヌイが笑った。


 全方位から迫る高速の質量弾と化した破片に対してヤヌスによる反撃。


 装甲内部に隠されていた半球状のレーザー照射装置があちこちでスライドした部位から浮き上がり、同時に周辺を光の速さで狙い撃つ。


 その処理速度はマーナガルムの専用防衛兵装である翼、エリナシェイニーを遥かに上回っていた。


 見えないレーザーの雨があらゆる方角から飛んでくる磁力誘導された質量弾を溶かし尽くし、本命のレーザーを両腕から放つ。


「これでッ」


 瞬間、直進しなったこちらの一撃が観測していたドローンによって相手の右脇腹と左腕を溶かしたのを確認。


 途端、猛烈な磁力を発して機体が爆破された。


「命中……自爆ですか。例の子機と同じ威力ですが、こちらには効きません」


 超電導推進で猛烈な圧縮空気を腰部から噴出して浮かんでいたマーナガルムは全ての爆破によって飛んで来た質量を溶かし切る。


 その光景は正しく溶けた鋼の雨を降らせる天使のようにも見えたかもしれない。


「機体冷却開始……」


 地表にある爆心地に近付いて着地する。


 周囲は完全に磁力による爆破によって巨大なクレーターとなっていた。


「敵情報システムへのハック成功。内部情報を外部ストレージに待避して焼き切りました。どうやら機体内部にも地下施設にも人間はいなかったようですが、同型機らしきものを一部回収出来そうです」


「え? まだ有ったの?」


「はい。ですが、どうやら組み上げ寸前だったようです。システムに火が入っておらず。このまま部品単位で持っていきましょう」


「じゃあ、これでもう相手はどうしようもない?」


「いえ、拠点が此処だけとも限りませんが、敵の本命の技術を使った手掛かりです。ついでに言えば、敵主力の撃破実績は大きい。アレよりも強力な機体が来ても、対応策が練れます」


「うん。でも、シェルター壊しちゃったね……」


 シェルターの左部分が2割程崩壊し、中央環状線がある中心区画は完全に破壊されてしまっている。


 超電導化出来ない機体だったなら、磁力の影響で粉々に吹き飛んでいただろう。


 事実、爆破された瞬間に飛び散ったシェルター部品が東京中に飛散した事がシラヌイのマップのデータに書き込まれていく。


 もしも、これが都内で複数起爆したら、その被害は恐らく核弾頭を凌ぐものになるはずだ。


「今、内部のドローン達に回収した機体部品から、システムを取り外させています。システムや部品の解析は後で。現場解析用のドローンも情報を収集し終えました。トレーラーも撤収準備が完了。一端戻りましょう」


「う、うん……でも、あの一つ目の人が出て来ないって事は……」


「まだ、事件は終わりではありません。ですが、敵の戦力を削いだ事に変わりありません。これで敵もリアクションを起こし難くなったはず。後は公安に任せて退散です」


 言われるがままに地表のトレーラーに乗る。


「他のシェルターにも磁力による被害が出ているようですね。外殻の破損や爆破時に吹き飛んだシェルターの一部による外壁の損傷、開放されていたシェルター内部でのシステム不全……被害総額はざっと2兆円くらいでしょうか?」


「……黙っておこうか?」


「ええ、公安も黙るでしょう。これが都庁や霞が関で起爆されるよりはマシだったと考えてくれれば幸いですね」


 まだ熱い機体を格納して、そのままトレーラー内部が全力での冷却モードに移行し、完全に機体が冷えるまで沿岸部をドライブする事になったのだった。

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