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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~アフターマン・ライフ~
33/41

第3話「空港襲撃」


「エーミール~」


『はーい』


 日曜日の午前中。


 ネットを更に検索する事にしたシラヌイがエーミールの機体が出来たというので搭乗型の大型飛行ドローンを登録ついでに飛ばして楽しむ事が出来る空域を持った郊外の飛行場に来ていた。


 ドローンの外側は最新型の大きな翼に尻尾を付けた鳥のように見える。


 巨大な胴体や翼は全てカーボン製。


 小型ラムジェット・ジュール推進機を5つ左右二つに中央一つという構成の大型ドローンは凡そ全長で12m一人乗りとしてはかなり高額だ。


 戦闘機ではない為、乗り込む時は俯けで下部からコックピットブロックを格納して飛ぶ事になっている。


 電子的なマーカーで空域外を飛べないように設定してあるが、上空3万m近くまで上昇出来るので左程に狭いという事もないらしい。


 黒い地肌を白く塗ってあるエアクラフトと呼ばれるタイプの搭乗型ドローンはマニュアル操作は出来ないが、セミオートで軽やかに飛ぶ様子が心地いい。


「どう? お空飛ぶの?」


『うん。すごくキモチイイよ』


 端末の先に見えるエーミールはニコニコだ。

 短期間で操縦方法を習熟したので心配だったのだが、問題無いようだ。

 空を飛ぶのは楽しいらしい。


 確かに自分も飛行機に初めて乗った時はとても空の景色が美して何時間も夜になるまで空と地表を見ていた。


『あ、今日はマヲンがお家でオヤツ作るから早めに帰るって約束したんだった』


 それから幾らか待っているとエーミールがそんな事を言って滑走路に戻って来る。


 今時のエアクラフトは宙返りしたり、戦闘機張りに複雑な機動が出来るのでエーミールも簡単な機動が慣れて来たら複雑な機動を試したいと言っている。


 だが、まだまだ自分で機体を複雑に操作するのは難しいようだ。

 着陸はオートだったので時間が掛かりそうだった。

 ゆったりと着陸してタービン音が止まる。


「あ、来た」


 牽引用のドローン型車両がやって来て、コックピットブロックが機体から降ろされてエーミールが出てくると機体をすぐに大型のトレーラーの方へと引いて行った。


 その合間にも翼が柔らかく丸められるように折り畳まれて格納され、同時に推進器がマウントラックから外され、燃料用のパイプも外されて専門の冷却用倉庫に持って行かれる。


「ただいま~」

「汗掻いたね?」


「うん。今日はちょっと陽射しが熱くて、一杯操縦桿動かしたら疲れちゃった」


 そう言いながらもエーミールは笑顔だ。


『お疲れ様でした。フェクト様』


 傍にやって来たのはドラム缶型のドローンだった。

 この小さな野外飛行空域を持つ場所は企業のものなのだ。


 時間単位で滑走路を貸し出して、空域単位での料金を払えば、色々と融通が利くらしくて便利らしい。


『今回のフライト料金は頂いております。今後もどうぞ御贔屓に』


「あ、はい。今日はありがとうございました」


『こちらで推進器はお預かりし、整備を行いましたら、状態は閲覧可能にしておきますので』


「よろしくお願いします」


『では、またのお越しを【ハルシグレ】一同お待ち申し上げております』


 頭をエーミールと一緒に下げて、トレーラーに乗る。

 昼時になる都心へ戻る事にした。


 *


 シラヌイが用意してくれた機体を格納するトレーラーは元々がOPを運ぶ特殊車両なので大型の分設備も充実している。


 内部にはシャワーが完備されていて、温風で体を乾かしてくれる。


 車内には手術室も備えられており、もしも墜落事故を起こしても頭さえ無事なら何とかなると言われていた。


「ふぁ~~さっぱりしたよ。アズール♪」


 6人乗りの先頭車の後部ドアからエーミールが戻って来る。


「あ、シラヌイがオヤツの材料が来るのは遅れるからお昼は近くの何処かで食べて来てって言ってたよ?」


「お外で食べるの?」

「うん。何処にしよっか?」

「あのね……」


「?」


「僕、アズールが食べたところで食べてみたい」

「私が食べたところ?」

「うん。アズールが何を食べてたのか知りたいなって」


「う~~ん? 日本に来てから殆どシラヌイにご飯を作って貰ってて、後は学食だったから……あ、そうだ」


「?」


「あのね。空港のご飯美味しいんだよ」

「クウコウ?」

「うん。滑走路が一杯あって、飛行機や宇宙船も一杯なの!!」


「っ、行く!! ご飯も食べる!!」

「うん。じゃあ、一緒に行こう?」


 エーミールがありがとうと抱き着いて来て、思わずナデナデしてしまった。


 此処からちょっと遠いけれど、40分も走れば到着するので、そんなに問題は無いだろう。


 シラヌイに連絡を入れると大丈夫だと頷いてくれた。

 都心の目立たない道を抜けて空港に向かう。


 日本の街並みにも慣れて来たけれど、やはり見知らぬ道端にあるものは新鮮でエーミールとお店や看板を見ながら、ARを確認して『あれは何? これは何?』と2人で確認していたら、いつの間にか空港に付いていた。


 *


―――ベイベベイベベイベベイベッ♪


 ノリノリのギターと歌声が空港の一角で響いていた。

 誰かが忘れた手荷物に入っていた端末が鳴っているのだ。

 自動でオンオフする程度の代物である。


 最新の検査機器もさすがに単なる端末の設定で引っ掛かったりはしない。

 一応、騒音被害が出ていた為、空港の保安局員がトランクを開封。


 やたらと過激な下着や夜用なのだろうかと疑うような薄い上着の類が詰まったカバンにげっそりした女性局員は端末の電源をこういう時の為に用意している強制的に外部から落とす強制シャットダウン機器。


 ジャックインするタイプのメモリを端末へ叩き込んで黙らせる。


「はぁ~~どんな痴女よ。こんなの着るの……小柄みたいだけど」


 30代のEV系日本人の彼女が端末を再びトランクに放り込んで閉じて、荷物を元の貨物に戻そうとした時だった。


 カタカタと荷物検査室内に置いてあるカウンターテーブルの上に置かれていた金属製のマグカップが震えた。


「震度2くらいかしら?」


 首を傾げた彼女は自分の端末を見ようとしてバチリと端末が焼き切れる音と同時に電灯が途絶える。


「何!? 地震? でも、電源のバックアップは三重よ。こんなのあ―――」


 パシャッと彼女は水が浮かび上がるのを見た。

 空港の一角において局所的な磁場が発生した時。

 猛烈な磁界の収束によって400m圏内の全電子機器が焼き切れるか。


 もしくは強制的にシャットダウンされ、電磁シール対策をしていた軍用機以外の全ての文明の利器は停止した。


―――空港内大型車両用地下駐車スペース。


「?」


 思わず首を傾げた時だった。

 天井のライトが明滅し、ズズンッという音と共に周囲が猛烈に揺れた。


「地震?」

「あわ?! アズール!!? 地震だよ!! 地震!!」

「う、うん……でも、これって……」


 トレーラーの周囲で猛烈な音が響く。


 外を見ていると巨大な車両の幾つかが何か車体がベコベコに凹んで歪んでいく。


「磁力?」


 思わず驚いている間にも他の車両がU字型に曲がっていった。

 僅かに浮かび上がるものもあったけれど、すぐにドシャリと落ちる。


 車内以外の灯りが一斉に落ちた。


「ECMじゃない。超磁力による破壊活動?」


 トレーラーは軍用の磁力シール処置をしているのでどうやら機内のシステムは生きているようだったが、それにしてもシステムをチェックしてみたら、過負荷で車体のあちこちがダメージを負っているようだった。


 端末からシラヌイに掛けようとした時。

 シラヌイがホログラムで端末から現れる。


「あ、シラヌイ。何かいきなり空港で磁力みたいなのが発生して大変みたい」


『はい。こちらでも確認しています。どうやら国際ターミナルから少し外れて発生したようですね。ギリギリでマスドライバーには軽微な影響しか出ていないようですが、これは3週間メンテコース……被害総額で5兆円くらいでしょうか?』


「いきなり、スゴイ被害出てる?」


『はい。周辺の情報機器は無事な光量子通信可能な端末以外は無力化されていると見て良いでしょう』


「何が起こったの?」


『今解析していますが、どうやら地下で大規模な爆縮式の超磁力が生成されたようです。凡そ10000テスラくらいですか?』


 シラヌイが出してくれたCGが空港の地下から発生した球体状の磁力の効果範囲を教えてくれる。


「磁性体以外も浮くレベルとなれば、生命体にもかなりマズイ事になります。磁性体材料の機械で体を補っている者がいれば、悪ければ即死……これは死傷者も百人規模で出ているみたいですね」


「そうなの?」


『ピアスを付けていた人間の耳とか唇や顔面とかが大惨事です』


「それはスゴク痛そう……」


『崩壊している人々の絶叫があちこちから聞こえています。避妊具で内蔵をやられている女性やら調理中の料理人も死に掛けている者がいるようです。次にもう一度来たら、確実に死傷者は3倍以上なのは間違いありません』


「どうすればいい?」


『倒すか追い込みましょう。その手伝いでもいいです』


「出来る?」


『はい。幸いにも先程の災害で空港地下のシステムがダウンしています。もしもの時を考えて、各所のシャッターや隔壁はシステムが破壊されたら開放される仕組みになっているので』


「武器が必要だよね?」


『敵の正体がタヂカラオであれ、あるいは別の何かであれ、戦って勝つならば、OPが必要です』


「うん。でも、そんなの此処には……」


『積んであるドローンは4分で換装可能です』


「え? もしかして、もう出来てたの?」


『はい。汎用空戦型OPは高コスト過ぎて現在先進国の一部でしか少数生産されていませんが、過去の【Dead-bed】には幾つかの種類がありました』


「へぇ~~」


「戦略爆撃型。戦術爆撃型。マルチロールタイプ。どれこれも戦闘機の代わりですが、速度はラムジェット推進や超電導推進を上回ります」


「おぉ、スゴイ……」


 ホログラムで機体がCGになって浮かび上がる。


『【Dead-bed】typeηを用いた最新型です。名前は【フレスヴェルグ】』


 浮かび上がったのは両手が無く。

 翼と頭部と胴体と足だけのOPだった。

 全長4mで小型な方だ。


 が、正しく猛禽類のような骨格をしており、人型とは言い難い。


「これが空戦型OP……」


「カッコイイ!! ね?! アズール」


「う、うん。全体構造が殆ど炭素と金属元素、超電導素材の集合で表面装甲が70層のリジェネレイト・カーボン? あ、ウチのドローンに使われてた技術に近いのかな……」


『その通りです。また、超電導関連以外は磁性体を殆ど使っていない為、磁力からの影響は軽微でしょう。アームを用いる時は各部の部材であるパッケージング・マッスルのコードを用いて精密に体を作り上げます』


 CGの機体が翼から出て来た黒いカーボンのコードを寄り合わせて両手両足を生み出して、鳥のような足を覆い尽し、人型OPのような形になってしまう。


「おぉ、鳥さんが人型になった……」


『事件解決の為に耐磁力用のシール処置と機体全体には超電導化を可能にしておきました』


「それって物凄くエネルギーがいるんじゃない?」


『常温常圧超電導は導入されて長い枯れた技術ですし、小型の機体でも本機ならば2時間の連続超電導化が可能です』


「スゴイ……」


『他にも専用の装備もロールアウトしています』


 武装が複数並べられる。


『主兵装は超電導によるマイスナー効果を用いて、相手からの磁力干渉を受けないものばかりにしました。カーボン単分子ワイヤーの束と磁性を失わせる超高熱のナノテルミット弾を使用します』


「これって……擲弾?」


 小型の敵弾射出用のランチャーが4挺。

 腰部にぶら下がっている。


『はい。ランチャー本体と弾体は超電導体で護られ、直撃後に内部のナノテルミットを噴霧して着火。瞬時に4000℃近い燃焼で相手の靄を剥がします』


「ねぇねぇ。アズール。これ、糸の束だよ?」


 ワイヤー構造を見ていたエーミールがこれで戦えるのだろうかと首を傾げていた。


「うん。これってどんなワイヤーなの?」


 シラヌイが頷く。


『肉体を作っているコードの3割がコレです。細いカーボンのワイヤーの表面に物質を削る凹凸を施しました』


「自分は削らないの?」


『ワイヤーの依り方に工夫があるのです。相手に向けて開放したワイヤーは危険ですので使い終わったらワイヤーそのものを自切、自己分解させます』


「そんな事まで出来るんだ?」


『まぁ、単なる炭素繊維ですので。この数百年人類が研究した成果です。ちなみにこの凹凸そのものが単分子カッターだと思って下さい』


「触れれば切れるんだよね?」


『はい。物質の表面に接触すると、高速振動しながら何度も掘削するように物質を両断していくのです。消耗品ですが、ワイヤーは数千万本単位で蓄積されており、時間単位で使う武装だと思って下さい』


 映像が出されたのだが、高速振動するワイヤーが鉄板を一刀両断するまで0.1秒も掛からなかった。


『では、エーミールは車内の非常退避隔壁内へ。現在、急ピッチで公安や弁護士の方に頼んで事態を動かして貰っています。バックアップは任せて下さい』


「解った。じゃあ、エーミール。待っててね?」

「うん。後でお話聞かせてね? アズール」


「もちろん!!」


 エーミールの頭を撫でて、解説の間にトレーラー内部で換装していた機体を見やる。

 今日は人型のまま使う事になるだろうフレスヴェルグが横たわっていた。


 翼を持った黒い人型。

 鳥頭はちょっとカッコイイ。


「行くよ。シラヌイ」


『日本での日常に影を差すものにはご退場願いましょう』


 こうしてトレーラーを開放して機体を起こすと後ろからエーミールがブンブンと手を振ってくれていたのだった。


 *


「シラヌイ。どう?」


『はい。敵らしき音源を探知しています。空港地下50m付近に存在を検知。ただし、音響観測的に言って……これは恐らく敵本体ではありません』


「どういう事?」


 シラヌイがセミオートで機体を進ませていた。


 鳥足の部分がフレーム毎伸びて展開されて車輪走行になったので地下の移動は楽々になっている。


『先程の超磁力は何かしらの爆弾が使われたと思われます。磁力を生み出すのにはよく爆薬が使われているのですが、恐らく高濃度の超重元素入り液化爆薬です。200年前と比べたら怖ろしく威力は高いものの、値段も高い高分子化合物です』


「そんなのがあるんだ?」


『元々は資源惑星の採掘用です。火星宙域のデブリや太陽系内の衛星に使う特注品ですよ。1mlの起爆で凡そ20m四方がクレーターになります』


「うわぁ……」


『超磁力の生成に使われたとは聞いた事がありませんが、面白い事を考えますね。相手は……恐らく音響探査に掛かったのは超磁力発生装置の方でしょう』


「根拠は?」


『先日の情報から考えて、あの機体ならば、自前で同じ事が出来るのに音が違う何かがソレをしている。つまり、同系統の兵装や装備の類だと考えていい』


「成程。じゃあ、本体は?」


『目的にも寄りますが……未だ情報が足りませんね。おっと、発見しました。やはり、敵はタヂカラオ搭載機です』


 1cm四方の全天候量子ステルスを積んだ昆虫型ドローンの映像が送られてくる。


「あ、モヤモヤだ……何処かに向かってる?」


『ええ、そう見えますね。静穏駆動で追い掛けましょう。敵の進路を解析』


 マップが出てくるとモヤモヤの機体の行先の予測候補が3つ出た。


『航空機の発着場ではない。ターミナルの占拠も違うでしょう。なら、此処でしょうか?』


「あ、此処って前にシラヌイを預けてた」


『はい。OPの特別預かりをしている場所です。何故こんなところに……情報を解析して見ます』


「うん……」


 数秒でシラヌイが絶妙に首を傾げた。


『コレ、でしょうか?』


「コレ?」


『メキシコからの空輸品です。中身はテディだと言い張っていますが、確認書類と検査結果に齟齬を確認……いえ、この人物はまさか―――』


「シラヌイ?」


 何かシラヌイが言い掛けた時だった。


 映像内で多数の外国から持ち込まれたOPが保管された一棟の通路にモヤモヤが入り込んだ瞬間、その足元が爆発した。


「地雷?」


『いえ、自走地雷です。これは……1個分隊規模の正体不明の戦力を確認』


 映像の中で大量の鉛玉がモヤモヤに遠方から撃ち込まれていた。


「ガルム? 公安の人?」


『いえ、日本政府のものではありません。機体を検索……ニューメキシコに本社を置くPMCのものと酷似しているようです。中距離戦型のガルムですね』


 確かにガルムが3機。


 レールガンを撃ちながら、盾を構えてモヤモヤに対して攻撃を仕掛けていた。


 その腰部からはレーザーガンらしきものが生えており、モヤモヤへと光が次々に当たってドロドロに溶け始めている。


「どうして撃ち返さないんだろ?」


『さて、どうしてかは分かりませんが、相手の目的らしいものが動き出しました』


「え、テディが?」


 OPのハンガーが並ぶ建造物の奥の方が爆砕したと同時に破壊された壁からテディが飛び出して猛烈な速度でガルム達とは反対側に逃げていく。


 それを確認したらしいモヤモヤが溶けた部分を回転させるかのように後方へと下げ、片手を動かしたように見えた。


 次の瞬間、猛烈な速度で周囲に破砕してばら撒かれていた大量の建材がまるで磁力に引き寄せられるかのようにガルム三機に次々と衝突して体勢を崩した。


「あ」


 最後には浮かび上がって猛烈な圧力で圧縮された状態で潰れながら爆散する事すら許されずに炎を上げた金属と建材の塊にされてゴスンッと地表に落ちる。


「うわ……あんまり近付かなくて良かったね。シラヌイ」


『まったくです。どうやら、あのテディを追っている様子ですね』


 モヤモヤが車輪を展開して追い掛けようとした時。


 足元に僅かな異音。


 モヤモヤが自分の下半身を見るような仕草をした。

 どうやら走行用の超電導モーターがイカレたらしく。

 足元の僅かに見える部位が燻ぶっていた。


『おや? おやおやおや?』


 シラヌイがニヤリとする。


「どうしたの? シラヌイ」


『そうですか。なるほど……あの機体の攻略法が見えて来ましたね』


「そうなの?」


『ええ、超高熱のナノテルミットの罠で蒸発させるのが良いかと思っていたのですが、敵の防御には穴があるようです』


「穴?」


『プログラムですよ』


「プログラム?」


『磁力の精密制御はどうやらシステムのハードこそ完成していますが、ソフトがおざなりなようです」


「あ、そっか。研究者の人が作ってたとしても、1人だもんね」


「ええ、バーバヤーガは国家開発で完成品でしたが、あちらは個人開発。黙っていたのも複雑な処理を行うプログラムが未だ造り切れていないからかもしれません』


「個人では製造不能な部分もあるって事でいい?」


『はい。それと周囲に公安と防衛軍の部隊が展開を始めています。敵の位置を送信……これで相手は逃げるしかありませんね』


「確かに……」


『我々はあのテディを追いましょう。混乱のどさくさで上手く全天候量子ステルスを使って逃げています」


「逃げ足早いね」


「海岸線沿いの移民難民関連の地域をルートを移動中。ですが、こちらの日本製高性能カメラ搭載済みな観測ドローンの目からは逃れられません』


「すぐに追おっか。取り敢えず、エーミールは大丈夫かな?」


『先程、増田弁護士に回収して頂く手筈を整えました。アレには防衛軍と公安の部隊にはこの惨事の元凶と戯れて貰っている事にしましょう」


 言っている間にも遠方から次々にOPの反応が多数近付いて来る。


『相手の戦闘映像と装置が置かれている地点の情報を送付……これで良し』


 フレスヴェルグも全天候量子ステルスを展開しつつ、走り出す。

 すると、映像内のドローンが猛烈な勢いでモヤモヤの横を駆け抜けた。

 途端、モヤモヤの周囲に色付きの煙らしきものが散布される。


『ふふ、これで逃げるのにかなり苦労するでしょう』


「何したの?」


『ステルス展開を阻害するカウンターチャフです。20分程は消えられません』


「……死人が出るんじゃ?」


『防衛軍の精鋭2個中隊に公安のガルムが30機。圧倒的な防御力を誇ろうとも多勢に無勢です」


「それは確かに強そうだけど、相手の攻撃を防ぎ切れる?」


「敵が熱に弱い事は戦闘映像からも明らか。しかし、公務員は空港内という事もあり、高熱系の武装で死人を増産したくはないので延々と遠距離狙撃するでしょう』


「つまり?」


『膠着状態でしばらく殴り合って、情報収集。後に敢て逃がすはずです。人気の無い場所に向かってくれれば、強襲も容易ですしね』


「その間にテディの確保に向かうって事でいいかな?」


『ええ、重軽傷者の扱いはウチのお留守番担当に任せましょう』


「お留守番担当?」


『マヲ~~』


「あ、マヲンだ」


 いつの間にか。


 ウィンドウの中には黒猫なマヲンが映っていた。

 しかし、その姿は薄暗い場所にあるようだ。


「何処にいるの? マヲン」


『マヲーヲーヲー♪』


 マヲンが片手で上を押す仕草をするとパカッと天井が開いた。


 そして、すぐに空港の立体駐車場内部に到着した蜘蛛型のドローンがニュッと細長いケーブルに就いたカメラでマヲンと自分を映し出して。


『このような時の為に合流させました』


『マヲ~~~』


 何やら蜘蛛型ドローンが背中に背負っていたドラム缶をアームで開けてマヲンの上で逆さにした。


 途端、バシャァッと流れ出した液体が大量に周囲へ散らばるかと思ったら、まるで手品みたいにマヲンの体積がドラム缶のように太く太くなっていく。


 正しくドラム缶一本分と化したマヲンがちょっと野太くなった声で一啼きする。


『マ゛ヲ~~~♪』


 すると、ドラムなマヲンの体から次々に小さな黒い蜂のようなものが周囲に浮かび上がると光学迷彩の類なのか。


 よく見ないと分からないような感じに周囲の風景に溶け込んで一斉に散って消えていく。


 すると、蟲が消えた場所には再びいつものマヲンが欠伸をして良い仕事したぜと言いたげに背中を長く伸ばして地面に脚を突くところだった。


「あの蟲、何?」


『重軽傷者の傷口を治療して現状維持させる治療薬を運んでいます。傷口の急速再生に使われたアレは肉体に同化して当人の遺伝子で置換されて痕跡も残りません』


「何かスゴイ?」


『再生医療用の今時の病院で一番高い緊急時の薬です。10mlで30万ほどする代物ですが、ウチの懐は痛まないので』


『マヲマヲ~』


 後はよろしく。


 そんな風に言っているように聞こえた。


 マヲンはその脚で地下駐車場のエーミールと合流するらしい。


 ドローンに再びヒョイッと載って一緒にトレーラーのある地下へと向かっていくのだった。

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