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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
3/41

第2話「やりたい事」


 案外、早く。

 その日はやって来た。

 一週間後。


 若いクラスメイト全員を首都に移送する。

 それが政府からの通達だと先生は言った。


「え~~まだ、君達は首都での教育も受けて貰うが、これは特別というヤツだ」


「特別!? 特別だってよ!? すげー!!?」


 目をキラキラさせるクラスメイトの男子は笑顔だ。


 女子だって、特別と聞いて嬉しそうだ。


 そう、政府からの様々な要請や支援において“特別”の単語はいつでも精神が高揚するものであるとして数世代前から教育で条件付けされている。


 だから、社会的に見て、特別の単語が発されると誰もが嬉しくなる。


 それが単なる人の心を誘導するだけの単語に過ぎないとしても。


(もう殆ど時間が無いと見ていいのかな。今のよりもマシなバッテリーはもう見付けてある。アレなら恐らくSEUの民主主義陣営国家の国境先までギリギリ走って届く。後はいつもの外套で……)


 現在、大戦中に付き。

 全ての国家から溢れ出した難民を救済する。

 という名目で新生欧州連合、SEUには沢山の難民用の生活区画がある。

 大昔は設備が無い場所が大半だったらしい。


 けれど、今は難民と言えば、どこから来たかは問わず大抵多くが物資製造業に従事し、まともな生活が可能となる。


(私がおじさんの本で学んで来た技術なら恐らく生活には困らない……)


 機械化や省力化が進んだ生産ラインは極めて大量に様々な物資を生み出すが、その物資が大量生産によって安過ぎる状況で固定化された時代には逆に人間が従事する工場で造られた高価格帯の物資が重宝されるようになった。


 つまり、余剰生産をしない為にわざと不合理的な選択として人が物資を作り、人間の手が入ったという安心感で高いものを売り込んだという話だ。


(民主主義陣営の難民申請で国外への移住を検討中とすれば、国内で面倒を見なくて良くなるから、すんなり極東の方に流してくれるはず)


 外からの情報を解析して、どういうルートで目的地に向かうかはちゃんと考えていたりする。


(北米側への正式な難民ルートに載れれば、更に次の難民受け入れ国のリストにきっとおじさんの祖国の名前も……プログラマー、整備工、何でもいい。私が学んだ事を生かせれば……)


「今日はこれまで」


 先生がそう言って授業が終わる。


 今日も遊水地に行けると楽し気な会話がクラスメイト達の中で騒がれていた。


「なぁなぁ、そういや、アズールは結婚しないのか? ほら、オレらってさ。もう15になるわけじゃん!! もし相手がいないんだったら、オレが―――」


「オイオイオーイ!? 抜け駆けすんなよ!? アズールはオレ達のお姫様なんだぜ? 誰かと結婚するにしてもちゃんとあ、相性とかがだなぁ」


 男子達がワッと押し寄せてくる。


「アズール!! お、オレ、赤ちゃん出来やすいぜ?!」

「オ、オレは気持ちよくさせんのけっこーすげーぞ!!」

「オレは足が速いから、呼ばれたらすぐ傍にいてやれるぞ!!」

「ぼ、ぼくはアズールさんの為に歌とか歌います!!」


「あ、う、え、ええと、その―――」


 男子のクラスメイト達がいきなり近付いて来て、熱心にこっちへ大声を出すものだから、固まってしまった。


 そうしたら、女子達がすぐに割って入ってくれる。


「こらこらこらぁ!? 男子~~~!!? アズールが困ってるじゃないの!? 下がって下がって!!」


「大丈夫? アズール。もぉ~~~そもそも赤ちゃん作った子が傍にいるのにそういう事言う? お嫁さんならなってあげてもいいかなぁって思ってたんだけど」


「そうよねぇ。一度、赤ちゃん作った相手が真っ先にお嫁さんとして上がらないのってスゴク・シツレーじゃない?」


「男子ぃ~~~あんまり調子に乗ってると潰しちゃうよ?」


『ど、どこを!?』


 思わず男子達が股間を抑えて震え上がる。

 外だとコレを嫉妬と言うらしい。


 でも、この村では同年代なら誰が誰と結婚してもいいし、赤ちゃんを作ってもいいのだ。


 一応、1人と1人が結婚する事が常識だが、赤ちゃんを作るのは結婚していない相手とでも何ら問題無いというのは前々から言われている事だ。


 そう、自分で働けるようになったら、子供を持つのは政府から推奨されている事だし、それが社会的にも普通の常識だ。


 他のコロニーだと家族同士で儲ける場合もあるし、許容されているという。


 遺伝子改良技術において劣性遺伝を排する為の遺伝子操作を可能とする“座位群”とやらが開発され、今や一般化して久しいらしい。


 外国では家族や親族と子供を儲ける事そのものは左程法律的にも社会的にもハードルが高く無くなっているという。


 今では同性同士での妊娠も合法化された国が多いし、そういう嘗てのマイノリティーと呼ばれていた人々ばかりの国もあるとか。


「それにアズールは兵隊さんになるんだから、お嫁さんにはならないよ。ね~~?」


「あ、あはは、うん。赤ちゃん出来ちゃうとたぶん為れないから……ごめんね?」


 そう笑ってお断りすると男子達の顔が赤くなった。


「い、いや、いいっていいって!? 冗談だから!? アズールは好きな事してくれよ!? な!?」


「う、うん。アズールは僕達の中で一番スゴイんだから、兵隊さんにだってきっと為れるよ!!」


 それをじとーっとした視線で見ていた女子が肩を竦める。


「もう。調子いいんだから。アズールも男子が無理やり赤ちゃん作ろうとしてきたら、嫌って言うんだよ? あ~~もう心配だなぁ。アズールって人気だから」


「大丈夫だよ。だって、男子はみんな良い子だもん」


『ア、アズールっっ!!』


 何故か男子がみんな胸元を抑えて変な顔をしていた。


 *


 こうして装備の整備を急いで数日。

 明日には首都に出発する。

 そう言い渡された夜。

 最後のパーツ拾いに外へと出ていた。

 壁の外に出れば、星が瞬いている。


 村は周辺一帯にある山林に溶け込んでいて、その周辺には荒野が広がる一帯が伸びている。


 平原側の先にはEV……正式名称ユーラシア・ビジョンの部隊がいる。


(ドローン陣地……今日も殆ど見えないな……)


 現代戦と呼ばれるドローン主体の戦争が始まる頃にはドローンの安価な修理設備と防衛設備を運び入れた物資集積場所をそう呼ぶようになったのだという。


 この人間という最大の弱点を持たない陣地は電磁的な防壁を展開する事で普段から外部の電子的な介入を阻止し、小型の極小規模の核融合炉をパック化したユニットを地下200m下に埋設する事で電力を持続的に供給出来る優れものだ。


(偵察用の小型ドローンが今日も一杯みたいだけど……)


 暗視ゴーグルで集光しながら、電磁波も同時に波長として計測。

 あちこちの平原に小型のノイズみたいな波がウロウロしている。


(陣地から15km圏内が巡回ルート。大戦時の遺物が眠る場所が18km……ギリギリだよね。ホント……)


 物音、衣擦れ一つ見逃さない偵察用のドローンだ。

 外套には音を吸収する防音用の素材。

 足も安全靴の裏に吸音素材を使用している。


(早く見付けなきゃ……)


 第四次大戦期のOPは現代でも遜色が無いくらいの威力があったし、今も中古品が現役で中小国の紛争に使われているという。


 なので、品としてはロングセラー品という事になる。

 規格は当時、14mから3mと今よりも幅があったらしく。


 同一企業製の製品なら大きなタイプの部品でもバラせば、小型に転用が可能。


 時間が殆ど無い以上、探すのならば大型から部品を頂く方が合理的だった。


(もう西側は30km近く探索したから、東側に……)


 ブーツは安全靴を改造したものだが、余ったOPのパーツで強化もしてある。


 現在世界規格になった駆動系は炭素系素材やリチウムを用いた空気電池化されたパッケージング・マッスルと呼ばれるものだ。


 人工筋肉とも言われるが、筋肉というよりは動く電池として重宝されている。


 微細な電力を自家発電する機能を持ち、待機状態の低電力維持の状態で使用されるのだ。


 勿論、敵側から発見されないように電磁波などの状態も考慮されて造られた物であり、隠密性は高い。


(人体の筋肉を模した集合炭素式駆動電池モジュール。静穏駆動中のこれを現代でも見付けるのは難しい……はず……どうか、見つかりませんように……)


 祈りながら、ブーツの横にあるサーモセンサに触れる。

 人体温度との直接接触でスイッチした瞬間。

 ギュッとブーツの形状が筋線維を浮き出させて引き締まった。


(う、締め付けもう少し緩めようかな……)


 プログラミングが甘いと内容物を絞り出してしまうくらいの力があるパッケージング・マッスルは常識的には高齢者や心疾患を持つ人の心臓マッサージを自動で行ってくれるインナースーツなどでは今や欠かせない。


 だから、しっかりとした作動用のプログラムが必要なのだが、今の自分は下手に弄って怪我をする事も出来ないので、多少きつくても我慢するしかなかった。


 駆動開始された厚底のソレがプログラムに従って厚底内部と側面で収縮運動を開始する。


「ッ」


 超低空を跳ねるというのに近い。


 動作としては外の国で言うクラウチング・スタートだろうか。


 自分の動作を簡易のAIで学習させて、接地タイミングで踵から爪先までの靴底が自動的に跳ねるのだ。


 人体を破壊しないように威力を搾って、ペースもAIが判断してすぐに変化させる。


「ふっふっふっ――――」


 呼気を一定に保ちながら走る。

 普通のランニングの凡そ3倍の速度。

 使った後は足先が痛くなったのも今は昔の話。

 暗視装置付きのゴーグルで周囲の地面を確かめながら進む。

 現在、必要な駆動パッケージの量は凡そ12kg。

 何とか背中に背負えば、持って行く事が出来る量だ。


 今日は過重を支える為に腰の少し上から足元までの廃駆動パッケージ製の履くサポーターも付けている。


 本来は何百kgという武装を持つ為に開発された代物だ。


 兵器には使えなくても人間が少し重いものを長距離持ち運ぶ程度ならば、大丈夫だろう。


 それから4km程走ったところでEV側に1km近い場所に埋もれた4m程の人型を確認した。


 ドローンの巡回が未だ遠い事を確認して近付く。

 すると、思わず目を見張った。


「これ……SEUの型落ち? え? え?」


 思わずどういう事かと驚く。

 現われたのは青白い装甲の5m級。


【ライン・チュース】


 漆黒の最中。


 周囲を見れば、迫撃砲らしき弾痕の跡が幾つかあった。

 どうやら、中枢のコックピット内に被弾したらしく。

 その他の部位は装甲も駆動系も生きている。


(本来ならSEUかEVが回収か破壊してるはずなのに……何かの理由で見逃された?)


 中枢は破壊されただろうが、整備用のサブ中枢ユニットがあるだろうと手の甲に付けた小型端末から今時殆ど見ない黒いコードを引き出してジャックを首の装甲の内側に探して捻じ込む。


(未だに緊急時の為に枯れた古い技術を使う……正式採用品だからこそって話だったけど、これなら……)


 外套に包まるようにして、ネットの軍事版で得た知識を思い出しつつ、内部で腕の端末に抽出される情報を確認する。


「コマンド・プロンプトが立ち上がった? シェルも大丈夫、破損してない……自己診断コマンドを受け付けるはず……」


 タッチパネル式でコマンドを入力。


 すると、すぐにノイズ混じりに内部診断結果が出た。


「損耗率1.22%?! やった!? これなら!!」


 パッケージの一部を手動で引き抜く整備マニュアルを内部から引き出して、実行。


 埋っていない方の右腕の付け根から装甲を一部開閉して、二の腕辺りから筋肉を護る肌の役目をする薄い被膜を小型の切断用のノコで切り裂いて、目分量でパージさせた駆動系の一部を一気に引き抜く。


 すると、ズリュッという音と共に人間の筋肉にも似た中膨れした黒く弾力のあるパッケージが一本腕の中に納まった。


「これで……っ」


 それを急いで背後に背負っていた縄で縛って、外套の下の背中に括り付け、そのまま走り出す。


 目的のものが見付かったのだ。

 まだ夜明けまでは8時間以上ある。


 今日中に整備すれば、夜明け前にEVが監視していない国境付近まで走り抜ける事は可能だろう。


 走りながら、今までの苦労が頭を過るのかと思った。

 だけども、そこに見えるのは……クラスメイト達の顔と村の人達。

 珍しい病気で亡くなった両親に変わって自分を育ててくれた。


 それは村の慣習で政府からの制度上の優遇を受ける為だとは知っていても、誰も悪い人なんかいない。


(それを置いて、誰かが処罰されたり、戦争に巻き込まれるかもしれないのに私は……)


 解っていた。

 そんなのは最初から解っていた。


「………おじさん。私、悪い子だ……」


 村の傍まで何とか走り切って。


 速度を落として、秘密の入り口へと向かおうとした時、更には月が掛かっていた。


「おやおやぁ? 何て悪い子なんだ。アズール。君は……」


「!!?」


 一瞬で身を低くする。

 でも、すぐに解った。

 相手が何処にいるのか。


「先生……」


 蛇みたいな瞳が細められていた。

 いや、それどころではない。

 瞳が光っていた。


「最新のAR投影用レンズ?!」


「ん、んぅ? まさか、“通常学習”を勝手にやっている生徒がいるとは……何て事だ」


 ハッとして口を噤む。


「く、くく、いやいや、賞賛しているんですよぉ? 先生はね」


「せ、先生……貴方は一体……」


「こんな場末の廃棄予定のコロニーに教師が赴任してくるぅ? ははは、我が国はそんなに甘くありませんし、余裕も無いんですよ。それにしても、先生は驚きを禁じ得ない」


 チィィィッと人間には拾えないのだろう駆動音がゴーグルに映る。


 波ならば、大抵視覚化出来るゴーグルは相手が精密機械の塊だと教えてくれる。


 先生の瞳にあるのは最新式の視認性デバイスだ。

 単なるレンズに見えて多機能。


 視線誘導で兵器すらも運用出来る外ならば推定でも500万ユーロは下らない軍用品。


 付属のAI端末を用いれば、買い物からドローンを動かす事だって可能。

 映像の即時投影によって認識強度や判断速度を高める兵士御用達の品でもある。


「廃パッケージのサポートスーツ・モドキにバイオ・ラディカル・アーマー入りのコート。それにこの国では民間に出回っていないはずの端末までもとは……ああ、危険だ」


「ッ」


 ズイッと先生が一歩踏み出して、笑みを釣り上げる。


 その姿はいつものスーツ姿。

 でも、解ってしまう。


 その下に人類の叡智が生み出したモノを着込んでいると。


「でもねぇ。先生も御仕事ばかりしていたわけじゃないんですよぉ」


 ニィッと唇を歪めて、先生が懐から写真を取り出した。


 その瞬間、ゾワリと鳥肌が立つ。

 ソレは私の写真だった。

 学校内での何処から撮られたかわも分からない。

 それもトイレの中のものまであった。


「君は実に美しいぃ……すーはーすーはー」


 写真の正面で大きく匂いを嗅ぎながら、ギョロリとした瞳がこちらを見た。


「ッ」


「先生はねぇ? 国から言われて学習する生徒を保護する活動をしているんですよぉ」


「それって、まさか……リーハー……?」


「くくく、そんな事まで知っているのですか!? 本当に優秀な生徒だ。君は……」


 クツクツと笑いながら、ズイッと先生がこちらを見下ろしてくる。


「~~~っ」


 思わず背後に数m跳躍して下がる。


「そんなに逃げないで下さいよぉ♪ リーハーは正式名称ではなく。徒名です。この国において教育とは全てに勝る管理手段。つまり、私は人々を管理する側なのです。内務省本局特別教育支援活動員……俗称は“あらざる叡智の管理者”……真っ当な国家公務員。全てを知らされた上級特別管理者の1人!!」


 うっとりしながら、先生が蛇のように悶える。


「お解りかなぁ? 君はこの国の管理を逸脱する逸材だ。そして、この国はそのような人材を排除するのではなく。優秀な人間として国務に付かせるのだ。先生にも君のような時期があったのだよ」


「それって……」


「何が切っ掛けでそうなったのは知らないがね。このコロニーから機密性の高い通信が発信されていたのは解っていたんだ。それがこんなに愛らしい……ああ、実に愛らしいお嬢さんだったとはねぇ」


 先生がまたスルリスルリとまるで蛇のように音も無く近付いて来る。


「私は職務は真っ当にするが、美しいものを集めるのが趣味なんだ。ああ、君のような美しいものならば、特別な授業をする相手にはまったく問題無い!!」


「―――」


 思わず後ろに一歩下がる。


「何も心配要らないんですよぉ? 私は君が気に入った。だから、ちょっと愉しもうと持ち掛けているだけなんですから!! その容姿!! その頭脳!! 君を引き入れれば、私の管理者としての評価も大いに上がるだろう!! ああ、AA、あa、それはイイ、いい、EE……」


 ギョロリとあの瞳が濡れて赤く輝く。


「このコロニーの労働資源を回収したら、遅まきながら、退避勧告でも出しましょうかねぇ。その合間に君が愉しませてくれるなら、砲撃で破壊されない程度の戦力を用立て、民間人の救出を内務省に掛け合ってもいい。どうだい?」


「そ、そんなの、そ、それに勧告って?!」


「ああ、私の仕事は君のような者を首都に連れて行く事。そして、引き入れた相手の不用な痕跡を消す事なんですよぉ。ふふふ」


「そ、それじゃあ、わ、私がいたから?」


「そう、君がいたから私が来た。本来なら君を連れていった後、軍の連中に機密保持規定でこの場所を砲撃させるところだが、君が気に入ったからこうして君へ条件を出したわけだ。賢い君ならば、どうすれば、この村が助かるか分かるね?」


「っ………」


「さぁ、おいで。初めてなんだって? 私が優しく教えてあげよう」


 思わず足が竦んで、何も分からなくなって、目を閉じた時だった。


 ゴインと音がして、バタリと倒れる音。


「え?」


 顔を上げると先生の背後に数人の人影。

 いや、クラスメイト達がいた。


「この蛇先生!! アズールは兵隊さんになるんだよ!! 後、赤ちゃん作るのはアズールが良いと思ったヤツとに決まってんだろ!!」


「アズール!? 大丈夫!!」

「え、え?」


 いつも遊水地に誘ってくれる皆だった。


「いやさぁ。実は首都に行く前にみんなで夜に遊ぼうと思ってアズールの家に行ったら、誰もいなくてさぁ。あはは」


「そうそう。それでアズールのお部屋の下に色んなものがあって、びっくりしちゃって!! それで外に出たなら心配だなぁって、やってきたら先生がアズールを困らせてるのを見付けてね」


「何か、先生強そうだったから、殴っちゃったけど。ま、いっか」


「みんな……ダメだよ……人を金属パイプで殴っちゃ……」


「パイプ? ま、何でもいいって。蛇先生は別に好きじゃなかったしよ」


「あ、ちょっと待って。このままじゃマズイから」


 すぐに先生のスーツの下にある最新式のOP搭乗用に見えるスーツの首元を探る。


 まだビクビクしている先生には悪いが、さっきの話を聞いて、黙っていられはしなかった。


 スーツの主電源を手動で落として、スーツに繋がっていた長方形のAI端末を確保し、ジャックイン出来る場所を確認してすぐに端子を接続。


 腕の端末じゃパワー不足でも政体認証を面倒だからと1日1回にしていたようですぐに相手のOSまで辿り着いた。


 音声ではなく軍用の秘匿コマンドで周辺の軍に民間人の救助と救助後でなければ、周辺への砲撃をしないようにとの要請を出し、更に先生の個人データファイルをEV側のオープンチャンネルの周波数で送信。


 その後に端末そのものを物理的に脚で踏み潰す。


「これで良し……明日には首都に行く車両が来るから、大丈夫だから……」


「何かよく分かんねーけど、蛇先生どうする?」


「あ、えっと、このスーツは確か……」


 OP用のスーツは緊急時用の脱出装置であり、同時にすぐに脱いで電磁的な索敵から逃れられるようにという事から破壊して脱ぐ事が可能だ。


 首の後ろに端末を指して、手動操作でパージを選択。

 途端、ボッとスーツが弾けて先生が下着姿になった。


「あははは!? 先生、ひょろひょろでやんの!!」

「これならオレ達の方が筋肉とかあるよな?」


「もう、男子!!」


「っ、ごめんね……こんな事に巻き込んで」


 思わず泣きそうだった。


「何も謝るなって!! アズールは兵隊さんになるんだろ? あのでっけーの見たぜ!! すげーよなー!! あれ、アズール一人で造ったんだろ!? オレ達には真似出来ねぇよ!!」


「そうそう。アズールはやっぱり、あたし達の一番よね」


「みんな……」


「それにさ。行っちゃうんだろ?」


「え?」


「アズールって賢いから。きっと、何処にだって行けるよ」


「え、え、な、何でみんな……」


 そう言うと誰もが苦笑していた。


「だって、いっつも外見てるし」

「何処か行きたいって言ってたよ?」

「そ、そうだった、かな?」


 みんながウンウンと頷く。


「ほら、あの大きいの作るんだろ? 行こうぜ!! 見せてくれよ!!」


 ワイワイとみんなに手を引かれるまま。

 秘密の入り口からいつものシェルターに戻る。


 背中に背負ったソレをみんなが見ている中でちょっと恥ずかしくはあっても、すぐに解体して装甲内部のフレーム回りに組み込んでいく。


 全身で20か所程だが、毎日整備していたおかげで30分程で終わった。


 それを驚いて見ていたみんなの手前、ちょっと嬉しかったかもしれない。


 これで国境を越えても走り続けられるはずだった。


「あ、何にも持って来てないや。あ~何か食い物くらい持って来るんだったなぁ」


「しょうがない。じゃあ、アズール、ちょっといい?」


「え? う、うん」


 女の子たちが一斉に下半身のスーツに白い油性ペンで何やら書いていく。


「えへへ~~私達の名前。連れてってよ?」

「あ、ずりー!? オレもオレも!!」

「ぼ、ぼくも!!」


 みんなが覚えたばかりの字で黒い足元を白くして。

 ちょっとくすぐったくて……恥ずかしかった。


「これで良し。忘れないで。私達、みーんなアズールの事、大好きだからね!!」


「う、ぅん……」


 思わず視界が歪んだ。


 そうすると男子はソワソワした様子で女子がぎゅっとしてくれる。


「さ、行って。早くしないとね?」

「ぐす……うん!!」


 そう言った刹那だった。

 激音が響いた。

 その振動で室内にパラパラと埃が落ちて来る。


「うお!? な、何だよ!?」

「これって、まさか、戦争始まっちゃったの!?」

「アズール!? 早く!!」

「え、で、でも、そんな!?」


「このまま、此処にいたら、アズールだって生き埋めになっちゃうかもしれないんだから!? そんなのダメ!! 早く載って!?」


 思わずそれはダメだと言おうとしたら、全員の手が伸びて来て、開いていたOPの中心部にまで運ばれて載せられてしまう。


「みんな!?」


「いいから!! アズールはみんなを背負ってるの!! だから、ちゃんと生きなきゃ!! ね?」


「あ、ぅ……っ」


 みんなの手が展開していた内部のコンソールの上にある腕に載せられていく。


「頑張れよ!! アズール!!」

「う、うん」


「ちゃんと、赤ちゃん作る人見付けてよ!? じゃなきゃ、諦めたみんなが報われないんだからさ!!」


「え、え、わ、解った……」


「男子退いて!! あんな蛇先生みたいな人に捕まっちゃダメだよ? 約束」


「は、はい!!」


「私達の事、忘れないでね。アズール!! 行ってらっしゃいッ!!!」


 私は……初めてクラスメイトの、皆の顔を見た気がした。


 もし、こんな事をしているのがバレたらと出来る限り、関わらないようにした。


 名前だってうろ覚えだ。


 だから、どんな事が好きでどんな事を喜んでくれるのかすら、私は知らない。


 こんな事なら、もっと仲良くしておけば良かった。

 こんな事なら、もっと遊んでおけば良かった。


 でも、きっと、それはもう叶わない。


 だから。


「……行って来ます」


 私は展開されていたOPを標準起動する。

 すぐに私自身がフレームの内部に仕舞い込まれ。


 機体が目を覚ます。


 フレームにあった名前は【Dead-bed】……死の寝床。


 それは何処かの誰かが付けたペットネームなのかもしれない。


 古い隠喩は分からない。

 でも一つだけは解る。


「逃げちゃ、ダメなんだよね。きっと……おじさんがそうだったんだから」


 私は伝送系が立ち上がると同時にみんなに手を振って、ハッチを内部操作で閉鎖。


 そのまま走り出した。


『アズールぅうううううううう!!! 元気でなぁああああああ!!!』

『またねぇえええええええええええええええええ!!!』

『大好きだったよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 みんなの声を置き去りにして、私は走る。

 EVの部隊がいる方へ。

 ドローンのいる陣地へ。

 砲撃が直撃した村の外殻。

 ドームが崩れるよりも先にせめて砲撃を潰す為に。

 それは軍が来るまでの絶対条件。


 私の初めての、自分で決めた、やりたい事だった。

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